まさおっちの眼

生きている「今」をどう見るか。まさおっちの発言集です。

「青春哲学の道(12)」

2011-09-07 | 自叙伝「青春哲学の道」
(前編をお読みでない方は左下のカテゴリーの「小説」をクリックすれば、収録されています)

「汚れちまった悲しみに」、人間というものは汚れながら生きていくものかもしれない。俺は土方の仕事を辞め、次は何をしようか、タウン誌を作ろうと企画書まで作ったがうまくいかなかった。それなら編集プロダクションとしてフリーになろうと思った。就職雑誌のリクルートの門をたたき、リクルートが発行する「住宅情報」の仕事を請け負いで手掛けた。新築の住宅を取材し、徒歩何分でスーパーがあるとか4頁モノの記事を書いて誌面の割り付けまでして一本3万円だった。こんなコピーライターしてるんなら、まだ経済誌のほうがマシだなあとも思えた。しかしもう経済誌の仕事はしたくなかった。そんな折、実業公論を辞めてマーケッティングの仕事を共同経営していたミヤガワ君からお声がかかった。クライアントはいすゞ自動車のマリンエンジン部のようで、暇だったら仕事を手伝ってくれとのことだった。いすゞが千葉県の漁港にあるマリンエンジンの販売店の動向、店主の要望や規模の情報を収集して販路の拡大につなげたいらしい。俺は了解して、知人にもらったポンコツの車を飛ばして二週間泊まり込みで指定された千葉県の漁港の各販売店のオーナーを取材した。言われたようにクライアントの名前は伏せて、「協会の関係で来ました。業界発展のためにお話しを聞きたい。伺ったことは統計処理しますので一切個人的なことは表に出ませんのでご安心ください」、ミヤガワに言われた通り、こう言って店主を安心させ、個人情報を得るのである。二週間で終える一仕事が30万円にもなったので、俺は京都にも飛び、やはり同じスタイルで今度はヤマハの依頼でバイクの販売店を回ったりした。しかし、これは体のいい「産業スパイ」である。世にいう「マーケッティング」「市場調査」という多くは産業スパイみたいなものである。こんなバイタの身売りのような仕事じゃ心が痛んで、実業公論を辞めた意味はねえ、俺はそれ以降ミヤガワの仕事を断った。しばらくまた家でゴロゴロしてると、「あなた、もうお金ないわよ、明日から生活どうするのよう」、預金通帳片手に美恵子が俺に詰め寄った。


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