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飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

男達は過剰を目指す。ヘルツォークのシネマ#12 「カスパー・ハウザーの謎」

2011-08-11 | Weblog

■製作年:1974年
■監督:ヴェルナー・ヘルツォーク
■出演:ブルーノ・S、ヴァルター・ラーデンガスト、ブリギッテ・ミラ、他

ヴェルナー・ヘルツォークの初期の代表作とされ、カンヌ映画祭で審査員特別賞を受賞している作品「カスパー・ハウザーの謎」を見ました。このカスパー・ハウザーとは19世紀のドイツに現れた実在の人物で、何者かに地下牢に幽閉され、言葉もしゃべれず歩くこともままならない状態で青年まで育てられた身許不明の謎の男。その伝説の人物を、素人のブルーノ・Sという男(このブルーノという男も幼年期から精神病院に収監され脱走を繰り返したというエピソードを持っている)が演じているのですが、これが独特の味わいを出していてなかなかの名演を見せてくれるのです。

 

カスパー・ハウザーは人目に触れることなく一人密室の空間で過ごしてきたので、歩くこともできなければ、喋ることもできない全くの野性児なので、一つ一つの仕種や反応がとてもユニークである。どうしたって人の関心を呼んでしまうこの人物については、いろいろな芸術家が彼をテーマとして描いてきたということなのですが、それは写し鏡のように私達の滑稽さ、内なるもう一人の自分といったものを逆に照射させるユニークな存在として興味が尽きない素材だったのでしょう。

 

ヘルツォークはこの奇怪な人物に感情移入させることないよう淡々と描いているのですが、それ以上に、演じているブルーノ・Sの個性が際立っているため、その演出とは裏腹にどんどん彼に惹かれていってしまうのです。広場でじっと手紙を持って立っている場面や疲れてドアに首をつっかえ棒にして前のめリにへたりこんでいる場面など忘れがたいシーンも多いです。

 

結局、カスパーは何者かに襲われて殺されてしまいます。何故彼がそうなったか?それをこの映画は描いておりません。ただ、刃物に刺され血まみれになったカスパーを映像で見せるのみです。逆に映画は彼を解剖し脳みそを取り出し、小脳の大きさがどうしたとか、そんなことを映し出します。ただただ人の好奇の対象になり翻弄されたカスパー・ハウザー、映画はその翻弄された本人も基本的に突き放した視線で描いているので、ブルーノ・Sという素人俳優の稀有な個性を感じながらも、どこかとらえどころのない幻想的な夢を見ているかのような感覚にさせられる不思議な作品に思えました。

 

 

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