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映画「悲しみのミルク」(監督:クラウディア・リョサ)を見た

2011-05-12 | Weblog

■製作年:2008年

■監督:クラウディア・リョサ

■出演:マガリ・ソリエル、スシ・サンチェス、エフライン・ソリス、他

 

真っ赤なハイビスカスの花をくわえた女性の写真をあしらったチラシが印象的なペルーの映画「悲しみのミルク」を見ました。ペルーの映画なんてはじめてで未知の期待感で一体どんな作品なんだろうと思ってしまいます。おまけにこの「悲しみのミルク」は、ベルリン国際映画祭の金熊賞と批評家連盟賞のダブル受賞をしているそうなので、評価は相当高いものと想像されます。新しい発見、そんな期待を持って足を運びました。

 

 

 

※以下、ネタバレ注意

映画はベッドに横たわりながら歌う老婆の悲しい歌から始まります。その歌に圧倒的な存在感があって、いきなりスクリーンに引き付けられてしまいます。それは老婆が受けた悲しく壮絶な体験を歌にして娘に聞かせるもの。老婆は娘を身篭っている時にペルーに吹き荒れたテロの恐怖、彼女の夫は惨殺され、自身もレイプされ、さらに切断された夫の一物を口の中に押し込まれたというのです。恐怖の体験はその母乳で育った娘に引き継がれてしまうという民間の信仰「恐乳病」に苦しんでいるのが、娘である主人公のファウスタです。美人ながらも表情は暗く、押さえた演技が彼女の暗い内面を感じさせ、彼女の行為が時代が刻んだ傷を間接的に表現しているのでした。

 

彼女が住んでいるところは町から外れたスラム街のようなところ。言葉ではいえない貧しさが溢れ、荒涼とした場所は砂塵も舞う砂漠のような一帯です。私がそれを見て感じるには、風景には緑が全くなく砂と岩しか目に入らないため、生きていくには相当厳しい空間じゃないかと思えるのです。その中でも住民たちは明るく陽気に生きているようです。結婚式の場面が度々出てくるのですが陽気さ一色で溢れています。今という瞬間を楽しく生きるのは貧しさに勝つ人生の秘訣のように。そしてどの国も結婚式は楽しく祝うもんなんだなと。面白いのは祝う為のの神聖な宗教的な場所が小高い丘の上にあるということです。日本でもパワースポットと呼ばれるところは、山を昇ったりと日常的に簡単に足を運べるところにはありません。そこへ行くには少々の努力が必要なのです。この映画における神聖な場所も同じように少々の努力をしないと行くことができないのです。

 

 

 

そんな住民たちに比べ、ファウスタひとりが内面に気持ちが向かっておりその対比が際立つのですが、なんと彼女は暴漢から身を守るために、ジャガイモを自分の女性自身に埋め込んでいるというではありませんか。おまけにそこからジャガイモの芽が生えてきている。そんなこと現実にありえるのかわかりませんが、そんなことまでさせてしまう壮絶なトラウマを抱えていると映画を見ていてインパクトを受けました。ダイレクトな表現はないものの、自分の股間を見ながらハサミでその生えてきた芽を切り落とすシーンは、母親が受けた暴力によって彼女の心の芽まで奪ってしまったように見えました。歴史の傷痕は知らないそんなところまで影響を与えているのです。

 

ファウスタは母の遺骸を金が無いために自分の住むスラム街に埋めるのではなく、街で葬ってやりたいと願い白人の音楽家の家にメイドとして働きに出ます。そこは灰色の砂ばかりの空間ではなく緑豊かなまるで天と地ほどの差がある豊かな場所でありました。そこにもペルーが背負った歴史の証が見ることができるようです。主人である発表会を控えた女性の音楽家は、作曲にいき詰まっているところに、ファウスタが母親から伝承したであろう彼女の民族の歌を歌っているのを聞き、真珠と交換条件にそのメロディーを教えてもらい、自分の創作の成果として盗んでしまいます。真珠は音楽家の手から直接ファウスタの手には渡らなかったのです。平気で騙して自分の手柄にしてしまうその精神構造に奥深い差別が巣くっているのを見ることができるのです。

 

 

 

この映画は大袈裟な表現でこれでもかと畳みかけてくるわけではありません。むしろ主人公のファウスタのように静かに、あくまで静かに映像は流れていくのです。タイトルにあるように<悲しみ>は幾層にもおよび無垢な女性の心に影響を与えます。人を育むはずのミルクは悲しみを伝播させるのです。一体、誰がそうさせたのか?観客は一人の少女を通して雄弁に語りかけてきました。私自身は何故か南米の陽気で激しいイメージを勝手に抱いているペルーなのですが、それとは裏腹の芸術的な香りも高い良質な内容の映画でした。

 

 

 

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