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飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

サルバドール・ダリに告ぐ#22・・・「ユリイカ/サルバドール・ダリ」②(1986年)

2007-01-11 | サルバドール・ダリ
~ダリ展を観た。そしてダリを感じダリを知るために~

◆「ユリイカ/特集サルバドール・ダリ」 (1986年11月号)◆

昨日の続きです。古本屋で見つけたサルバドール・ダリを特集した「ユリイカ」、その中から寄稿された論文から抜粋しました。


◆芸術療法を実践されている精神医学者・徳田良仁氏「ダリの深層心理と創造性」◆

“ダリは、ガラによってひとつの大きく豊かな解放された世界を獲得し、同時に父親からの強烈な個性による呪縛や桎梏から脱出することができたのであるが、逆にガラの中にすっぽりと抱擁され、その世界の中にとりこまれて、その空間の中での自由を獲得したのである。そこにおいてダリは二律背反的な力動と、現実と超現実、正説と逆説の世界を形成しバランスをとろうとつとめることになる。ダリ自身
もいう。君主制=無政府主義、エロティスム=貞潔、神への情愛=無神論、バロック風美学=古典主義といった双璧の振幅によって、ガラ=ダリの創造性をより豊穣にしていったように見えるのである。”


◆東北大学名誉教授である美術史の田中英道氏「ダリ論―その共時的考察」◆

“《絵画の領域におけるわたしの野心のすべては、具象的な非合理性の影像を強引きわまる正確さへの熱狂をもって実体化することである》とダリが言うとき、その「非合理性」をも内包している、《生きている》かつての作品たちとのもう一度の対決が必要だった、という必要があろう。だが「天才」性を二十点でなく十九点にした真意がもしこのような点であったとしたら、その一点に絶大なる遠さを感じていたに違いない。彼の自信に満ちた発言の下に現代画家の共通した苦しみの相を垣間見るのはこのときである。”(ダリは他の作家たちとの比較分析を行っている。その評価軸の中の天才性でダ・ヴィンチ20点、ヴェラスケス20点、ピカソ20点、ダリ19点、マネ0点、モンドリアン0点としている。)


◆英米文学の翻訳などで知られた鍵谷幸信氏「転覆した諧謔―ダリ断想」◆

“ダリの偏執狂性、パラノイア、ヒットラー主義者、可食性、エロス崇拝、男女均等主義、錯乱現象好み、幻覚や錯覚惑溺、すべてのオーマティズム、カーマンベール・チーズ好き、糞便学愛好者、時計フェティシズム、曲線偏好、泰西名画の神秘謎探し、偽善者、性の解放、パロディ癖、フロイト解釈、意識と無意識、覚醒と夢、写実尊重、犀の角への執心、マキャべリスト、反近代主義、専制君主主義者・・・・・・など、ダリをめぐる多様多彩過ぎる条件反射は多角的方向に拡散していく。”


◆美術史が専門の滋賀大学教授・谷田博幸氏「ウイリアム・テルの謎 ダリの図像学(1929-1934)」◆

“この時期(1929-1934)のダリの主要なイコノグラフィーを成す、イナゴ、ライオン、大自慰者、ウイリアム・テル、凡庸な官僚、松葉杖、柔らかい時計などのイメージは、ことごとく共通分母として去勢不安を抱え、サートゥルヌスの神話に代表される「自分の息子を犠牲にする父親という永遠のテーマ」から派生している。”


◆世界で活躍する演出家・蜷川幸雄氏「解釈からの逃亡」◆

“なぜ人々はダリの作品とダリを語るとき、精神分析医になり、テレビの芸能リポーターのようになってゆくのだろうか。”


■■大自慰者(1929年)■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


画面一杯に広がるは「記憶の固執」にも出てくるグニャリとした軟体動物のようなダリの自画像らしきもの。そこから女性の頭部が立ち上がり、これまた同様に立ち上がっている男性の下半身。女性は男性の陰部の匂いを嗅いでいる強烈でエロティックな図柄だ。ボクにはこの女性が精悍な感じがして男性にも見え頭の中が混沌としてくる。ダリの初期の作品の中で傑作のひとつ。

“私は煩雑に自慰を試みたが、自分のセックスを完全に掌握していて、頭脳的に快楽を刺戟しており、陶酔感をよりよく長く味わうために行為に規律をもたせていた。したがって自慰行為は私のエロティシズムの中核であり、また、偏執病的―批評的方法の中軸であった。いうなれば、それは私が引っかかっているかぎ針であった。まず私と私の欲望が存在し、その他の外部世界は二次的なものであた。・・・・・・《大自慰者》は私の異性間性交への不安を表現したものだ。・・・・・・口がバッタに化身した人物がいて、そのバッタの腹を無数の蟻がむさぼり食べている。「ダリの告白できない告白」”(岩波書店「世界の巨匠・ダリ」から引用)

同感したと言うか共感したエロスの幻想に終生取り付かれていくのか?悩める私。

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2 コメント

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妄想の具現化 (あべまつ)
2007-01-11 17:44:14
こんにちは、リンクさせて頂きました。

私の感想を少し。
ダリは、殿方の脳みそを描かせたらピカ一ではないかと。内在している妄想力がどくどく溢れてきてその扱いを才能溢れる筆に全面的に託していたのではないかと思っています。

個人的な秘め事を公然と展覧会で感想を言うことはかなり勇気がいりますし、後でも本音はなかなか言えません。でも、翻弄されるエネルギーに突き動かされてきたことだけは、明らかに伝わってきます。
誰が何と言おうと、純粋にダリが見えたものその全てを描きたかったのでしょうね。
そんな気がしています。
返信する
リンクありがとうございます (飾釦)
2007-01-11 22:22:34
するどいコメントありがとうございます。

妄想の具現化、私がダリに引かれるのもその具現化された象徴群の図像に無意識に魅せられているのかも知れません。
返信する

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