♦️197『自然と人間の歴史・世界篇』シェイクスピアの戯曲「ヴェニスの商人」

2018-03-17 14:23:59 | Weblog

197『自然と人間の歴史・世界篇』シェイクスピアの戯曲「ヴェニスの商人」

ウィリアム・シェイクスピア(1564~1616)は、イングランドの劇作家。伝承によると、出生地はストラトフォード・アポン・エイヴォンである。1585年前後にロンドンに進出し、作品の製作に没頭するようになる。1592年には新進の劇作家の道として注目を浴びる存在となる。
 彼の戯曲『 ヴェニスの商人』は、一説には、1594年から1597年の間に書かれたとされている。その中に登場する主人公の「商人」とは、「富めるユダヤ人」のシャイロックを指すのではなく、商人アントーニオのことをいう。それも、小売商のような「商人」 ではなく、海洋に出て手広く商売を行う船団をもつ「貿易商」なのであった。
 中世のイタリアのヴェニスとベルモントという都市を舞台に商取引と恋をめぐって、活発なやりとりが展開される。ヴェニスの若き商人アントーニオは、恋に悩む友人のために一肌脱ごうとするのであった。
 もう少しいうと、ヴェニスに住むバッサーニオという男が、ある女性と結婚するために金が要るので、親友のアントーニオに相談したところ、アントーニオは、ユダヤ人のシャイロックとの間に、もし金を期日までに返せなかったら、アントーニオの胸の肉1ポンドを渡すという担保を設定して期間3か月の金銭貸借契約を結び、3000ダカットの金を借りる。これだと、現在なら「公序良俗違反」で契約無効となりそうなものだが、当時のことはわからない。その際、シャイロックはその金を貸すのに某かの利子を付けるのを主張したのに対し、アントーニオは口汚く罵る一幕があった。
 アントーニオは、その期限の1か月前には船団が商売を終えて帰ってくるのを予定していた。ところが、彼の商船が嵐で難破し、沈没してしまったとの知らせが入る。これにより、アントーニオは大損害を受ける。それによって起こるシャイロックとアントーニオとの裁判での闘いと、ベルモントの美しい貴婦人とアントニオとの恋が、平行して物語は進んでいく。
 第三幕では、アントーニオの船がすべて沈没し、借金返済が不可能になったのを知ったシャイロックが、契約による彼の肉1ポンドの返済を迫る。破算に陥ったため、シャイロックから借りた金は返せないので、アントーニオは苦境に陥る。
 第四幕では、ヴェニス公爵の前での裁判が行われる。アントーニオの恋人のポーシアが法律家に男装し、法廷で闘う。「その身の肉をもらう」といきまくシャイロック。結局、裁判官はシャイロックに対して、「アントーニオの肉1ポンドを切り取れ。ただし、その際に血を1滴でも流せば、そなたは死刑となる」という逆転判決を下し、非情な金貸しは敗れるという筋書きとなっている。
 18世紀の批評家ニコラス・ローは、この『ヴェニスの商人』は喜劇として演じられているが、作者は悲劇として書いたとしか思えないという意味のことを述べているそうである。シェイロックの心根としては、金を何倍にもして返してもらうよりも、あくまで証文どおりの返済でアントーニオの命を奪うことにより、ユダヤ人に対する社会の冷たい眼差しに仕返す狙いがあったのかもしれない。
 ともあれ、シャイロックが退場した後、恋人たちの楽しげな一幕を設けることで、作者には、「シャイロックが悲劇的な滅亡を受けたという印象を観客に与えるつもりがなかったこと」(「池上忠広ほか著「シェイクスピア研究」慶応義塾大学通信教育教材、1977)が追想されるのである。

(続く)

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