夕方ラジオを聴いていたら、何かの番組で「“ゴールデン・ウィーク”という言葉は、連休に映画を見てもらおうと映画会社が思いついた造語だ」と話していた。
そうだったのか。
それだからと言うわけでもないのだが、昼すぎから“ティファニーで朝食を”をみた。思い出の映画という意味でも、ぼくの好きな映画という意味でも、ベスト・スリーに入る映画である。
おしゃれな映画である。
“sophisticate”という単語のニュアンスをぼくは正確には分からないのだが、“ティファニーで朝食を”のような作品をいうのだろう、と勝手に決めている。そういう意味での「おしゃれ」である。
まず題名がおしゃれである。登場人物のシチュエーションや会話もおしゃれである。有体に言ってしまえば売春婦とヒモ生活を送る売れない作家の恋愛物語である! なのに、おしゃれなのである。
オープニングの、あの早朝のティファニーのショウ・ウィンドウに黒いドレスのオードリー・ヘップバーンがタクシーでやって来て、パンをほおばるシーンもおしゃれである。
ヘップバーンの衣装やヘアスタイルもおしゃれなのだろうが、ぼくはジョージ・ペパードのアイビー・ルックが好きだった。ヘップバーンの飼い猫がペパードの肩に飛びのる写真が、当時ぼくのおしゃれの教科書だった“Men's Club”に載っていた。
ジョージ・ペパードは、細いニット・タイのずい分下のほうにタイピンをつけているのに気づいた。
ぼくは高校生の頃にこの映画を見て、タイプライターで原稿を書く作家になりたいと思った。
“wardrobe”なんて単語も、この映画でペパードのワードローブを見て、はじめて実感できた。高校時代に使っていた岩波英和辞典の“wardrobe”を引いてみると、「衣裳戸棚;所持の衣類の全部」という訳がついている。
ペパードがパトロンの女と別れて出て行くシーンに写っているワードローブは、まさに衣裳戸棚にして、所持の衣類の全部であった。
一番好きなシーンは、お菓子のオマケに入っていた指輪にティファニーでイニシャルを刻んでもらうシーン。
原稿料の小切手50ドルと現金10ドルしか持たずにティファニーに出かけて、10ドル以内で買える物をたずねるのだが、あんな老店員が本当にティファニーにいるのだろうか。
きょうは、ヘップバーンがテキサスに置き去りにしてきた夫と再開するシーンで、朴訥な夫がヘップバーンに向かって、「悪い物を食べているのだろう。まるで骨と皮だ」とつぶやくシーンがよかった。
何でもないような秋のニューヨークの街角の風景も印象に残った。
原作ではホリーはベルリッツに通ってポルトガル語の勉強をするのだが、映画ではリンガフォンか何かを聞いていた。
ベルリッツは今でもあるようだが、リンガフォンはどうなってしまったのだろうか。
ラストの雨の中で、一度は捨てた猫を探すシーンも、きょうは素直に受け入れることができた。最初に見たときは、アメリカ映画はなんでもハッピー・エンディングにしてしまうと反発したのだったが。
原作のホリー・ゴライトリーは、アパートのドアに「ホリー・ゴライトリー、旅行中」という貼り紙を残して、ブラジルへ旅立ってしまうのだが・・・。
原作にもまったく登場しない“ムーン・リバー”なんて主題歌を作ってしまうのだが、その歌詩も映画の画面や台詞にとけこんでいた。
* 写真は、パラマウントDVDコレクション/ハッピー・ザ・ベスト“ティファニーで朝食を”(1500円)のケース。