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僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

潜入、処置室にて

2007年03月20日 | SF小説ハートマン
エネルギーパイプのわずかなスペースを慎重に移動した。
隣の部屋は処置室のはずだ。
針状のファイバースコープで確認する。
手術台には何もない。一体のオペロイドが格納台に収まっているだけだ。

ハートマンはファイバースコープの代わりにコンタクトワイヤーを伸ばしオペロイドに接触させ、6万ボルトの電磁波を0.02秒だけ 送った。

パチッと音がした。

一瞬目を見開いたような表情を見せ、腕をびくっと痙攣させた後オペロイドは動かなくなった。

人間ならアチッと感じるくらいだが、オペロイドの制御ラインはこの衝撃で切断されてしまう。
メインコンピュータをショートから守るため、ディフェンスフューズが切れたのだ。

ハートマンはパイプスペースのパネルを外し処置室に降り立つとすぐにオペロイドにログインしその制御システムを読み取る。

敵のロボットやアンドロイド達はすべて同一のOS(オペレーティングシステム)で制御されている。
OSの基本が分かればバイオリストコンピュータでコントロールすることが可能になるのだ。

ハートマンはこれで作戦の先手を取った。
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病室で

2007年03月12日 | SF小説ハートマン
「ちょっと電話してくるね。」

そう言ってママは病室を出て行った。
歩きながら首をぐるぐるっと回しているのが見えた。
今日は疲れたわぁって言いながらママがよくする仕草だ。

一人になった僕は、針の刺さった腕を動かさないようにして少しだけ体をずらしてみた。大きな病院らしい。
窓から遠くの景色が見えた。5階か6階かもっと高いところかも知れない。

誰がかけたのか小さなカレンダーが一つぶら下がっている。きれいな海の絵にペプシコーラのマークが付いている。
あれ?でも先月のカレンダーのままだ。
もう退院してしまった人が忘れていったのかも知れない。

廊下を誰かが大きな声を出しながら走っている。看護婦さんらしい。誰かが大変なのかな。
今何時なんだろう?小さな机の上にはお茶のペットボトルが一つあるだけで時計はない。ぐるっと見回して見たけれど壁の時計もない。

点滴の薬が、ぽたっぽたっと落ちている。あと何回落ちたら終わるのかな。
数えているうちにまた眠ってしまったようだ。


数十台の大型モニターが落ち着いた発色でデータを表示している。近代的なコントロールセンターだ。任務に就いているコマンダーは2名。
ハートマンは天井から差し込んだファイバースコープで全体の配置を確認した。
つづく
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病院のベッドで

2007年02月28日 | SF小説ハートマン
目を開けようとした。とっても明るい。もう朝じゃないのかな。
まぶしいくらいに白い。もう一度目を閉じる。

朝なら起きよう、という気持ちと、もっと寝ていたいという気持ちがせめぎ合っている。
うーん、と伸びをすると何かが手に当たってコトンと音がした。

「あっ宇宙(ひろし)起きたのね。」

ママがティッシュの箱を枕元に置きながら言った。
毛布を掛け直しながらおでこに手を当てた。
ママの柔らかい手のひらが温かくて気持ちがいい。

「良かった。宇宙、熱下がったわ。」

こんどはママが、うーんと言いながら両手を挙げて伸びをした。
僕の顔をのぞき込んでから手のひらをそっと握りながら言った。

「もう少しじっと寝ていてね。動くと点滴外れちゃうから。」

点滴?そういえば毛布から出した左手にチューブにつながった点滴液がぶら下がっている。ここは病院なんだ。

段々思い出してきた。試験の帰りに寄ったピザ屋さんで僕は熱を出してそのまま眠ってしまったんだ。パフェも食べたくないって言ったら、ママが恐い顔になったのを思い出した。お父さんにおんぶして、ママの匂いのするコートを掛けてもらって、タクシーに乗って…

そうだ、トントの夢を見たんだ。
洞窟に閉じこめられる恐い夢と、洞窟から出られてトントに会う夢だった。
夢なのに夢じゃない。久しぶりの体験だった。
それは何か特別に重大な体験なのだと今の僕には分かる。

夢のこと、ママには言わないことにしよう。
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「BB」

2007年02月21日 | SF小説ハートマン
「BBには決して近づいてはいけません。」

「BBって何なの?」
「宇宙君を洞窟に閉じこめた敵です。」
「よく覚えていないんだ。気がついたらそこにいただけだから。」

「BBについてはセクションで今も情報を分析中ですが。よく分かっていません。今言えることは大変危険なサイココスマーだということだけです。サイココスマーについては覚えていますね。」
「前に教えてもらったから知ってる。人の心を操るすごいパワーを持ってるんだよね。」
「そうです。その中でも最も力が強く、宇宙の法則をねじ曲げて恐怖の帝国を築いているのがBBです。」

「BBって人の名前なの?」
「セクションサイドではそう呼んでいますが、人なのかどうかははっきりしません。
宇宙人なのか、生き物なのかさえ分かっていないのです。」

「姿を見た人はいないの?」
「調べようとした仲間が無事に帰ってきたことがありません。
発見された仲間は、体だけでなく脳も破壊されています。」

「・・・・・」

「復元できた細胞から取り出した断片的な記憶を分析し、予測したそれにBBという名前を当てています。」

「ハートマンはBBと戦うの?」
「最終的にはそうなるでしょう。でも今はその時期ではありません。
相手が何者なのか、セクションの訓練された仲間がなぜ失敗したのか、慎重に分析しなければなりません。」

「僕を助けてくれた人は誰?雑音でよく聞こえなかったけど、ミリダって言ってた気がする。」
「私はプログラムされた選択肢の中でならお答えできますが、宇宙君の見たことは宇宙君にしか分かりません。でもその人は宇宙君を知っている人ですから、いつか必ず会えるはずです。」

僕はBBという敵を想像してみた。
トントにもセクションにも分からない危険な奴。宇宙を征服するために手段を選ばず、それが武器であろうと生き物であろうと抵抗するものは容赦なく排除する。

猛毒を持った頭でっかちの宇宙怪獣か?そんな漫画みたいな姿しか想像できなかった。
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トントの話って

2007年02月18日 | SF小説ハートマン
トントの話はフウセンカズラの種を集めていた時と全く同じで、僕の頭に直接聞こえてくるあの言葉だった。

嬉しかった。声を聞くのが嬉しかった。またトントと話せるのが嬉しかった。
そんな気持ちで聞いたいたのを知ってか知らずか、トントは続けた。全く危機感は感じなかったが、トントのメッセージは僕が感じたよりずっと重大な事だったのかも知れない。

「バイオリストコンピュータを構築する時、あらゆる可能性を予測してプラグラムを組みました。いくつかの条件が重なった時、それは実行されます。具体的には、また私が宇宙君をお呼びすることになりますが、多くの場合、その時の状況はあまり良いとは言えないでしょう。けれど必ず解決できます。私がほんの少しでもその時お役に立てれば嬉しく思います。いつでも頑張ってきた宇宙君、この夢が終わっても一つだけ忘れないでください。それは…」

「ちょっと待ってよ、トント。もう行っちゃうの?話したいことまだいっぱいあるよ。聞きたいこともまだいっぱいある。いつでもトントを呼び出せる合図はないの?」
「宇宙君、大丈夫。私は貴方の中にいつだっていますよ。」

「でも話はできないんでしょう?」
「宇宙君が私を覚えていてくれる限り、いつだって話はできます。今までだってそうだったでしょう?」
「うん。トントを思い出して、トントだったらなんて言うかなって一人で考えてた。でもそれは僕が勝手に考えてただけだし…」

「それでいいんです。それが宇宙君の中にいる私なんです。」
「えぇー?何だか変。ごまかしてる。」
「小さい子みたいなこと言わないの!宇宙君はハートマンでしょう?」
「ママみたいな言い方になった。」

そんな何気ない会話がもっとずっと続けばいいと思った。

「宇宙(ひろし)君。大事な事をお話しします。」
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呼びかける声

2007年02月14日 | SF小説ハートマン
「宇宙(ひろし)君。」

遠くで声がする。誰かが僕を呼んでいる。

「宇宙君、私です。」

誰だろうその声は?確かに聞き覚えのある声だ。

「しっかりしてください宇宙君。」

僕は夢を見ているのかな?眠い。でも誰かが僕を呼んでいる。起きなくっちゃ。え?まさかその声は…

「トント?」

「やっと気付いてくれましたね。」
「トント!」
「そうです私です。驚きましたか?」
「トント!だってトントは…」
「そうです。死んでしまいました。」
「やっぱり僕は夢を見ているんだ。」
「そうゆうことになりますね。でもこれは夢ではないんですよ。」
「夢なのに夢じゃないの?」

「そうです。思い出してください、宇宙君。貴方は以前にも沢山夢を見たでしょう?」
「うん、トントがいろんな事を教えてくれた。」
「頑張りましたね。もう貴方なら分かるでしょう?」
「そうか!これはあの続きなんだね。」
「やはり宇宙君は分かりがいい。夢、と言っていいのか私には分かりませんが…」

トントはそこで言葉を切って次に言う言葉を探した。僕は続きをじっと待った。

僕はトントの姿を探した。初めて会った時のように。腕を見てみた。バイオリストコンピュータのインターフェースに止まってるの?

いない。

回りには何もない。そうだ、夢の中なんだ。でもトントはどこ?

「宇宙(ひろし)君、私なら探してもいません。もう私は存在していないのですから。」
「えっ?じゃぁどうして?夢なら出てきてもいいじゃないか。」
「プログラムの続きです。」
「トントの話は時々分かんなくなるよ。」
「そうですね、ゆっくり順番に説明しましょう。」

トントはそう言って話し始めた。
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静かな夜空

2007年02月12日 | SF小説ハートマン
「出られた!」

そこは夜だった。熱帯の森のような植物の間から無数の星たちの瞬きが見える。温かく穏やかに風が流れている。

「湖だ。」
かなり大きいが、対岸の森が星明かりにうかんで見える。ここはどこなんだろう?僕を助けてくれた人はどこにいるんだろう。

水に手を入れてみた。星明かりでも底が見えるほど澄んでいる。喉がむしょうに渇いていることに気付いた。両手ですくって口に含んでみる。ひんやりとして気持ちいい。何回もすくって飲んだ。

「うまい。こんな美味しい水は初めてだ。」

一息ついた時、体のあちこちが痛み出した。今まで気がつかなかったのが嘘のようにあちこちがひりひりする。擦り傷や打ち身が沢山あるようだ。
着ていた物を脱ぎ水に入った。傷をそっと洗い、こびりついていた血や泥を落とした。髪も洗った。
水から上がると優しい風が全身を包んだ。

人のいる気配が全くない。車の音も鳥の声も何も聞こえない。

「誰もいないんだ…」

そう思うと疲れが全身にしみ出してきた。裸のまま横になり星を見上げた。何を考えたらいいのか思い浮かばなかった。しばらくそうしていた。

明るい流れ星がひとつ空を横切ったが、宇宙のまぶたは閉じられた後だった。
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崩壊

2007年02月11日 | SF小説ハートマン
最後は聞き取れなかったが、ここから脱出するためのヒントを教えようとしてくれたんだ。絵と水の関係から左と言われた。
とにかくこのままじゃ生き埋めになっちゃう。

パニックになりそうな気持ちを懸命に抑えて、左の方向へと逃げた。
目の前のブロックが沈み込みくぐれるほどの穴が空いた。腰をかがめて逃げ込む。

考えている余裕はない。今までいた空間が背後で大音響と共に跡形もなく崩れた。

生き埋めは免れたが外に出られたわけではない。さっきの空間よりずっと狭い部屋だ。上方から薄明かりが差し込んでいる。
パラパラと小石が落ちてきたかと思うとすぐに大きな震動が襲い、背後から再びブロックが崩れ始めた。

一時も立ち止まっていられない。また左へ走った。
不思議なことに宇宙が進む方向は崩れるのが遅かった。逃げ込む度に新しい部屋が現れ、すぐにまた崩れた。

同じ事が4回繰り返された後、急に静寂が訪れた。
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洞窟…③

2007年02月09日 | SF小説ハートマン
「宇宙君、まず水の流れている場所まで行って。」
「はい、僕すぐ側にいます。」
「良かったわ。じゃぁ次はそのブロックから7つ目、下から3つ目のブロックを見て。何かが書いてあると思うの。急いで。」
「はい。」

そのブロックはすぐに見つかったが、かなり高いところにある。

「・・どう?何・か分かっ・・た?」
「今、ブロックのすぐ下にいます。特別変わったようには見えません。字も分かりません。何とかそこまで登ってみます。」

ヘッドセットに雑音が入ってくるようになってきたのが気になっている。それが少しずつ大きくなる。

「今3段目まで登りました。雑音が大きくなっています。」
「そう、急ぎましょう。字でなくても何かマークみたいなもの、見えないかしら。」

「ありました。とぐろを巻いた蛇のような絵です。」
「蛇な・ね・・はど・・・ちを向い・・・る?」
「向きは左です。えーっと僕から見て左です。」

「・ずと・なじ?・それと・・・んたい?」
「よく聞こえなくなってきました。水のことなら、出ている方とは逆向きです。」
「そ・・なの、ぎゃ・ね・・・ひだり・・いく・・・ずっと・・・・もうじか・・ない・・・・ばってね。・」
「左へ、左へ行けばいいんですね。そこで会えるんですか?あなたは誰なんですか?」
「・・・・・はミリ・ダ・・・・・・・・」

雑音に消されて何も聞き取れなくなってしまった。ブロックの下に降りてヘッドセットをはずした。ビシビシッと軋む音が遠くで聞こえ、次第に大きく近づいてきた。身構えた時すぐ横のブロックが地鳴りと共に崩れ始めた。
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洞窟…②

2007年02月02日 | SF小説ハートマン
何とかしなくっちゃ。

起き上がり「おーい!」と叫んでみた。
反応はない。

ここにいるって事は、何処かに入り口があるはずだ。
ドアのようなものはないか岩肌を観察し、押してみたりしながらドーム状の空間を一回りした。
何もない。

光の差し込む場所を見る。あそこまで上れたら出られるかも知れない。でもどうやって?目をこらすと、何かが揺れている。ヒモのようなものだ。
しばらく見つめていると、それがするすると降りてきた。
ツルにからみついた木の枝と葉だ。ツルは太い凧糸ほどの太さしかなく、たとえ腕の力に自信があってもそれを伝って上ることはできないだろう。

強く引くと葉っぱが数枚ちぎれて落ちた。剥き出しになったツルに粒状の何かが付いている。

これは!ヘッドセットじゃないか?

二粒は耳へもう一つは口の位置へ。ぴったりだ。セットしてみる。

「宇宙君ね。」
すぐに声が聞こえた。

「はい。」
「ヘッドセットだって分かってくれて良かったわ。」
「でも、僕なぜ?」
「今は黙って私の言うことを聞いて。とても大切なことを言うわ。いいわね。」
「うん、分かった。聞きます。」
「そう、偉いわ。私からあなたは見えないの。怪我もしていると思うけど、少しの間我慢してね。必ずここから助けてあげる。でも急がなけりゃ。時間がないの。」
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洞窟

2007年01月31日 | SF小説ハートマン
暗くて深い穴の中のようだ。寒くはないが湿度はかなり高い。かび臭い匂いも感じる。ピチャピチャと水のしたたる音が聞こえる。
でもどうしてこんな所に寝ているんだろう。

急に熱が出て全身がだるくなった。食事はまだ途中だったけれど、お父さんにおんぶされて店を出た。タクシーはなかなかつかまらなくて、ママはイライラしてあちこち見回していた。そのまま僕は眠ってしまったようだ。

起き上がろうと意識すると、体の下が硬い岩だと言うことに気付いた。枯れた草のような物が敷いてあるが、ごつごつ当たる岩を和らげてくれるようなものではなかった。
暗さに目が慣れてくると、少しずつ回りが見えてきた。

洞窟のようだ。軽トラックの荷台くらいの大きなサイコロ状の岩が積み木のように積み上がっている。でもとても不自然な積み方だ。教室ほどの空間がドーム状にできているが、こんな積み方では普通なら崩れてしまうだろうう。2階の天井くらいの所にわずかな隙間があり光が差し込んでいる。お日様の光なのか人工のものなのかは分からない。

頭が痛い。体のあちこちに擦り傷ができている。目をこすると手にぬるっとした感覚があった。見ると汚れた血がべっとりと付いている。こめかみあたりから出血しているようだ。
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試験が終わって…②

2007年01月27日 | SF小説ハートマン
「どうしたの宇宙(ひろし)もういらないの?」
「何だかもういい。」
「それじゃぁ宇宙の分はお父さんがもらっちゃうぞ、やっぱりこのピザ美味い。」

「そんな所に横になったらお行儀悪いでしょう?みんなが終わるまできちんとしましょう。」
「うーん。」

「パフェでももらおうか、今日だけおごっちゃうわよ。さっきメニューでみたスペシャルマンゴーパフェ。」
「ううん、いらない。ママ食べれば?」

「宇宙、ちょっと…」

ママが急に怒った顔になって僕のおでこと首に手を当てた。
「パパ、ちょっと見て。宇宙、熱があるわ。」
「どれどれ、おう、こりゃかなりあるかな。熱いぞ。」

「ママ、パパって言った。」
「うんそうよね。でも面接の時は言わなかったから大丈夫よ。とりあえずこれで冷やしましょう。」
ママは僕のおでこにおしぼりを当ててくれた。冷たくてとっても気持ちが良かった。

「気持ちいいか。よし、少しそうやって横になってなさい。これ食べちゃうから。」
「何言ってるの、帰りますよ。パパ、タクシーどこかで拾えないかしら?」
「そうかぁ、じゃ行くか。」
お父さんは横目でピザを見て、ビールをぐいって飲み干して立ち上がった。僕も立とうとしたらおしぼりが滑り落ちた。拾おうとしたら腕が肩から震えていた。

「宇宙、震えてるじゃない。寒いの?」
「うん、ちょっと寒くなってきた。」
顔はほてっているのに体はどんどん寒くなってくる。ママがジャンパーを後ろから掛けて、その上からママのコートも掛けてくれた。少し温かい。

「ママ、ご飯食べたら吉田先生の所行くって…」
「そうだったわね。でもこれじゃちょっと無理よ。後で電話しとくわ。パパ、おんぶしてやって。」
「よしきた。久しぶりだな、おんぶ。」
お父さんの背中はあったかくて、お父さんの匂いがした。ぎゅっとしがみつくとママがコートを着せ直してくれた。今度はママの匂いがした。
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試験が終わって

2007年01月21日 | SF小説ハートマン
「ママ、どうだった?」
「宇宙(ひろし)はどうだったの?うまくできた?」

「ママはね、面接上手だったぞぅ。うん、さすがママだ。先生もにこにこしてて感じ良かったなぁ。」
「お父さんもなかなか立派でしたよ。あの質問の時はびっくりしたけど、上手に答えてくれたんでホッとしたわ。」
「いやぁアレには驚いたね。アレは想定外だった。」

「ねぇねぇ、ママはパパって言わなかったの?」
「そうよ、ママを信用しなさい。」

「僕はみんなできたと思うよ。ひとつだけできなかったのがあったけど。」
「え?できなかったの?それどんな問題だった?」
「積み木でね、お手本より2個多い物に○をつけるんだ。でも沢山あって全部数えないうちに『止めましょう』って言われちゃった。」
「あとはどう?」
「うん、大丈夫。コップをくっつけて紐で結ぶのもできたし、体操の時は先生に『よーし上手』って言われた。」
「それからどんな事したの?」
「えーっとね…」

「ふたりともお腹すいてないか?お父さん喉もカラカラだ。」
「あらもう1時よ。何処かでお昼食べて帰りましょうか。」
「ビザがいい!」
「ピザか、よしそれじゃぁ駅の向こう側だけど、あそこのイタリアンに行こう。」
「いつか行ったことあるわよね。あそこのピザ、何だっけ、えーっと、エビとルッコラのビザ美味しかったわ。」
「確かポイントカードあったよな?」
「今は持ってないわ、でもいいじゃない無くても。」
「行こう、行こう。」

僕はママの手を引っ張ってずんずん歩いた。でも少し疲れた気がした。
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試験の朝…②

2007年01月19日 | SF小説ハートマン
「よし、じゃぁ行くか。」
お父さんが言った。

「受験票、集合時間表、ハンカチ、ティッシュ、上履き、ブラシ、着替え、携帯のスイッチ、…」
用意していたチェックノートを僕が読み上げる。ママは確認して、ハイよし、とかOKとか応える。

「いい天気でよかったな。おととしは確か大雨だったぞ。」
「そうらしいわね。本当に良かったわ。今日は朝から気持ちいい天気よね。」

「宇宙は早起きして偉いな。体操の練習もやったのか。」
「うん、別に練習じゃないけどね。ラジオ体操もやっちゃった。」
「そんな格好で寒くないのか?」
「あらパパ知らなかったの?宇宙は夏からずっと半袖よ。」
「僕全然寒くないよ、ジャンパー着なくても平気。」
「そうか、一年中半袖なら安上がりでいいな。」

「学校まではあったかくして行こうね。向こうに着いたら半袖で頑張ってね。」
「大丈夫だよ。でもママ、またパパって言ったよ。大丈夫なの?」
「あら、ホントね。お父さんお父さんお父さん…どうしましょう。」
「大丈夫、大丈夫。もしも面接で言っちゃったって、そんなことで落ちたりしないよ。」
「そうよね。」
ママは困ってるみたいなことを言ってるけど、顔は笑っている。

「ねえお父さん。南極って寒いんだよね。」
「南極か?あぁ、すごく寒いぞ。半袖じゃぁ死んじゃうかも知れない。」
「すごく寒いのに息が白くならないんだって、本当?」
「うーん、お父さんもそんなこと聞いたことがあるなぁ。本当かどうか見たことは無いけど。」
「あらそうなの?お父さん、それってどうしてなの?」
「あっママ偉い!お父さんって言った。」
ママは片目をつむって僕にピースをした。

「多分それはね、南極は空気がとっても澄んでいてきれいなので吐く息の水蒸気がくっつく核が無いんだ、とかいう理由らしいよ。」
「ふーん。」
僕とママは同時に返事をしたけれど、お父さんの説明が分かった訳ではなかった。
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試験の朝

2007年01月14日 | SF小説ハートマン
今日はいつもより少しだけ早く起きた。
ママはもう少し寝てていいわよって言ったけど、眠くなかった。いつも通り顔を洗って、いつも通り着替えをして、いつも通り玄関の掃除をした。

外の空気は冷たくて気持ちよかった。お日様はまだ出ていないけれど、風は吹いていないので寒くない。ぽつりぽつりと浮いている雲の向こうに、僕の大好きな透明に近い水色の空がどこまでも広がっている。朝のお日様は空の高いところから少しずつ降りてくるのだろうか。

雲を見ていると、すごくゆっくりだけど動いている。形もだんだん変わっていく。雲がいくつか浮かんでいるとき、その中のひとつを自分で決めて、消えろ消えろって念じているといつの間にか消えるよって吉田先生が言っていた。本当かな。

深呼吸をすると息が白くなった。南極では白くならないんだと吉田先生がいつか教えてくれたのを思い出した。ペンギンが沢山いて氷だらけの寒いところなのにどうして息は白くならないんだろう。本当なのかなぁ?

あれ、どうして今日は吉田先生の言ったことばかり思い出すんだろう。

腕をグルグル回して、足の屈伸をして、ついでにケンケンパーをしてみた。夏にお寺の境内に集まってしたラジオ体操をちょっとだけやってみた。結構やり方も覚えていた。背伸びの時はかかとを上げてもふらふらしないでできた。しばらくやってなかったけど、今日の方が上手にできる気がした。

前と後ろに曲げる運動の時空が見えた。
あっ、さっきの雲が小さくなっている。犬の顔みたいな形だったのに、クリームパンになっちゃった。

「宇宙(ひろし)ー寒いのにお外で何してるの?風邪引くわよ。」
ママがご飯を食べるジェスチャーをしながら手招きをしている。
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