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僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

ダークマター

2008年07月09日 | SF小説ハートマン
モニターの数カ所で観測値がグリーンからオレンジ色に変わった。
データが基準値から外れたのだ。重力、放射線γ値、磁力値、時空係数等だ。

PX星雲に近づくにつれそうなることは予想できた。
今は遙か彼方の地球における電波望遠鏡の観測から推測されていたのだ。

宇宙には物質以外の何かが存在する。
存在するのだから物質だという科学者もいるが、
物質の最小粒が原子だとすると説明できないことが沢山ある。

ある科学者は原子より小さく、原子を構成する極小の粒だと言う。
その推論を証明するために大型測定器を特注しその発見を競った時期もあった。
地球規模のシンクロトロンにより原子の粒を衝突させ、
それを壊す試みもあったが、
その物質(原子より小さいつぶつぶ)は発見できなかった。

しかしデータは確実にその存在を表している。
しかも計算上は、見えるもの全ての物質を集めても宇宙全体に存在する物質量の6分の1にしかならないのだ。


それはいったい何なんだ。


野口英世が徹夜して探しまくっても発見できなかった黄熱病の病原菌。
それは顕微鏡では見えないウイルスだった。
湯川博士が予言した中間子の実証も
検証を可能にする装置の完成を待たなければならなかった。

壮大なSFを書き続けた作家E・Eスミスは
宇宙を満たすものをエーテルと呼んだ。

今、科学者達は確実に存在するが手を伸ばしてもつかむことの出来ないもの、
見つめ続けても見えないものに思いをはせ、
悔しさをにじませながらそれを「ブラックマター」と呼んでいる。

セクションの推測では、極秘ではあるが、BBはそれを解析しているのではないかとの意見もあるのだ。



あと数週間に迫ったPX星雲到着を前に、久しぶりの緊張と興奮を覚える宇宙(ひろし)だった。












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宇宙(ひろし)は今

2008年07月03日 | SF小説ハートマン
宇宙(ひろし)は星を見ていた。


幼稚園に通っていた頃、
公園でフウセンカズラの種をを沢山集め
幼なじみの星見ちゃんと数えたことがあった。

星見ちゃんは数のことをきちんと知っていて
ちんぷんかんぷんな僕に星は無量大数ほどあるんだと教えてくれた。

そんな沢山の星を全部まとめて宇宙と呼んでいる。
この星のつぶつぶ達が集まって動的に存在しているのが宇宙なら、
それは生命なのか。

大きさを考えず動きだけ見れば似ているかも知れない。
大きさだけではない。私たち人間とは決定的に違うのは時間だ。
細胞が2つに分裂するために必要な時間は数分から数時間。
まるで細胞のように見えなくもない銀河が2つに別れるのに数億年。

一見、何年も何千年何万年も動かず不変のように見える星達も
実はダイナミックに変化している生命かも知れない。


あの時流れ星の数を数えながら見上げた夜空を、
宇宙は今、宇宙船のデッキから見下ろしていた。









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入れ替わるつぶつぶ

2008年06月30日 | SF小説ハートマン
当初窒素は栄養素として体内に吸収された後、エネルギーとして使われ、
燃えかすとなって尿中に排出されると考えられていたのだが、
実際は排出された窒素は与えられた量の30%にもならず
ほとんどが体内に蓄積された。
しかもその場所は脂肪ではなく、

体の臓器全てに入り込んでいたのだ。

食べたものが、心臓になり肝臓になり血液になり膵臓にさえ置き換わったのだ。

その間ネズミの体重には全く変化がなかった。
つまり食べた食物の原子は体の一部になり、
いままでそこにあった体の原子は体内に捨てられたということだ。

全ての物質は空気さえもそうだが、原子というつぶつぶで出来ている。
生物は食物を体外から取り入れ、
そのつぶつぶを今まで使っていたつぶつぶと入れ替えているのである。

砂丘の砂粒に似ているかも知れない。
砂丘にある砂は風により毎日移動してその姿を変えるが、
全体としての砂丘は依然としてそこにある。
ただ砂丘が生命活動と決定的に違うところは、
全体としての姿を全く変えずに

その中身だけを毎日取り替えているというところだ。

シェーンハイマーはそのことを
「ダイナミックスタイル=生命の動的な状態」と呼んだ。








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食べ物の行方

2008年06月29日 | SF小説ハートマン
「2個揺らすと反対側も2個揺れるんだよね、トント。」
「そうなります、楽しいですね。」

「何度やっても面白いけど、ねぇトントそれが生命とどんな関係があるの?」
僕はもどかしくなってトントに尋ねた。

「1個揺らした時、目の前にある動かない球はいくつですか?」
「4個だよ。」

「いつもですか?」
「いつもだよ。違う球になるけどね。」

「宇宙君、それです。いつも同じだけれど違う。それが大切なことなのです。」
トントは玩具から離れて、体を構成している細胞の話とルドルフ・シェーンハイマーという科学者が行った実験のことを話し始めた。

彼は食べ物に含まれる窒素原子に特殊な方法で印を付けた。
その後その食べ物が消化されどうなるか。
成熟したネズミに3日間だけ餌として与え窒素原子はどこへ行くのか観察してみたのだ。
原子の直径はおよそ百億分の1メートル(オングストローム)
生きている細胞も原子で出来ているが、その直径は大体30万~40万オングストローム、

もちろんどちらも肉眼では見ることができない。
そんな小さな物が集まって人間の体も草も石ころも全てのものが構成されている。この手も足も爪も涙さえも小さなつぶつぶの集合体だ。

ところでその食べ物はどうなったか。
もちろん体内で消化されたのだが、
排泄された糞も尿も血液も内臓も全てを顕微鏡で詳細に調べてみたところ、驚くべき事が分かったのだ。










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4個の球

2008年06月29日 | SF小説ハートマン
早速トントにそのことを話すと
「宇宙(ひろし)君、本当にそうですね。点々といえばこんな事もあるんですよ。」
といって教えてくれたことがある。


あの頃のトントとの学習は何もかも本当に面白かった。
ほとんどが物理の法則や化学の基礎知識だ。
とりわけ興味深かったのはあの時の「生命」についての授業だ。

ある日トントは突然ぼくにこう問いかけた。

「宇宙君、生命って何だと思いますか?」

僕は以前トントから教えてもらっていたDNAのことを思い出して
「自己複製のシステムを持っていること、でもウイルスみたいなヤツは違う。」
と答えた。

「そうですね、ウイルスは他人の細胞に入り込んで無理やり複製を作らせるシステムなので生命があるとは言いきれないですね。でももう少し別の見方もあるんですよ。」
「そうなの?別の見方?生命って、生きてるってどうゆう事なの?」

トントは僕に玩具を見せながら言った。
直径が2㎝くらいのステンレス球が6個ブランコのようにフレームからぶら下がっている卓上の玩具だ。
オシャレなオフィスの家具コーナーでよく見かけるアレだ。
「今玉は全部止まっていますね、それじゃ宇宙君一番右にある球を1個だけ揺らして残りの球にぶつけてみてください。」

カチッカチッと球のぶつかる音がして、ブランコは左右に揺れる。
正確には揺れているように見える右の球が隣の球にぶつかった時、
一番左の球が弾かれて左に飛び出す。
左の球が戻った時、今度は右の球が弾かれる。
その繰り返しがしばらく続く。

真ん中にある4個の球は全く動かない。
不思議な感じがする魅力的な玩具だが、
物理の原則をはっきりとそこに示している。

幾つもの点

2008年06月28日 | SF小説ハートマン
シールドを開くとウインドウいっぱいにPX星雲の星達が瞬いている。

肉眼で観察する限り星達はみんな等しく同じ大きさのように見える。

それはオフセット印刷の絵を始めて顕微鏡で見た時のような
驚きと感動を未だに思い出させる。
確か鮮やかに印刷された植物の絵だったと思う。


わずか10倍、虫眼鏡とほとんど変わらない倍率の顕微鏡。
その丸い視野の中に見えたものは

花火のように散らばった4色の小さな点だった。

赤青黄の三原色に黒を加えた4色の点、
印刷物はそれらの密度で全てのカラーが表現されている。


視野の中だけでは何の絵なのか全く分からない。
幾何学的な模様だけが見える。
顕微鏡を外すといくら目をこらしても点の模様は見えず
その代わり美しい絵が見えている。

印刷されたアート紙が日常とは全く別の世界に思えた。













静かなめざめ

2008年05月06日 | SF小説ハートマン
ハートマンは長いお話です。ブログ左側のカテゴリから「SF小説ハートマン①」を選択していただき、最初から読んでいただくと少しは面白いかも知れません。。。


砂漠の夜、満天の星空の下たき火を囲んで談笑している。
誰かが嬌声をあげる。かなり酔っているようだ。
他愛のない冗談を大げさに受け笑い転げる。
宇宙(ひろし)もその中にいた。

誰かが空を指さす。続いてみんなが一つの星に注目して静かになる。

銘々がカップに飲み物を注ぎ足し、ついさっきまでふざけ合っていた仲間の一人が言う。

「ハートマンに宇宙の力を!」

全員がカップを持った腕を高く挙げ唱和する。



あの日のことは今でも鮮明に思い出すことができる。
PX星雲に向け初めての調査船が旅だった日だ。連絡が途絶えてから5年、セクションによる懸命の分析にも関わらず原因は不明のままだった。

そしてまた、20年の歳月が流れた・・・地球では


宇宙(ひろし)はそっと目を開けた。
冷凍ポッドのモニターが示す血液温度はやっと30度を超えたところだ。
急激な解凍で組織を破壊しないよう3日ほど前から「啓蟄プログラム」が実行されている。
春になり閉じ込められていた虫たちが這い出すように、解凍される人体。いつからか皮肉をこめてそう呼ばれるようになった。

宇宙がポッドから出て活動できるようになるにはまだ4-5日かかるだろう。
亜光速の長距離ワープを繰り返しPX星雲が銀河と同じように観測できる距離に接近した時、プログラムのスイッチが入れられた。
ここからの軌道計算は手動で行わなければならないのだ。

意識が戻りつつある宇宙の体は旅が始まった20年前と少しも変わっていない。
冷凍による生命維持装置の働きにもよるが、光速移動する間は年を取らないという物理学者の仮説が証明された事にもなりそうだ。







ハートマン外伝

2007年09月14日 | SF小説ハートマン
当然のことだが
地球から離れるほど空気は希薄になる

だがスペースシャトルが飛んでいる空間は
まだまだ真空とは言えない
実際地上の数億分の1しか空気は存在しないが
星間と比較するとその濃度は明らかに濃い

本当の宇宙と言える銀河間にも
1立方センチに1個か2個の原子が存在している

その原子を利用して宇宙旅行をしようと
開発されたのが
水素イオンエンジンだ

画像は直径約2キロメートルに展開されたアンテナで
水素原子を集めながら宇宙空間を飛ぶスペースシップである

宇宙(ひろし)が操るスペースギアほどのスピードも
機動性もないが
数年かかる星間移動には
消費エネルギーが基本的に必要ないこのシステムが向いている


ワープ…②

2007年07月03日 | SF小説ハートマン
宇宙(ひろし)はセクションの専用ルームで訓練を続けていた。

「マスター、ワープはトンネルをくぐり抜けるのではなく、確か空間の境界を飛び跳ねているのだと説明してくれましたね。」
「その通りだ宇宙君。」
「しかし僕の計算ではそんなに大きな屈折はできないと思うんです。」

宇宙は計算の結果を示しながらマスターに尋ねた。

「君の計算は正しい、ただし一つ見落としている。」
「何を見落としてしまったのでしょうか?」
「屈折率と速度だ。」
「光が水に入る時に曲がってしまう、というアレですね。」
「そうだ。その時、光の速度も変わる。」
「速度が減速することは計算の条件に入れてあります。」

「もっと密度の濃いものの時はどうだ?」

「はい、もしもダイヤモンドの中を通れるとしたら、屈折率は水の2倍、速度は1/2になります。でもそんなものの中をスペースシップは通れません。」
「ダイヤモンドが美しく輝くのは大きな屈折率によるからだが、地球にある物体だけで考えると確かにそうだ。しかし宇宙空間には別のものが存在するんだ。」
「え?」

「ブラックホールだ。」

「しかしマスター、どんな物もブラックホールには入れません。入れたとしても出られません。光線すら出られないのですから。」
「ブラックホールとはそうゆうものだ。ただしそれはブラックホールに真っ直ぐ進んでいった場合の計算に過ぎない。」

「どうゆう事なんですか?」
「ブラックホールはその中心に近づくにつれて質量も引力も大きくなるのは知っているね。」
「はい。そして全てのものが、光もその引力に捕まって潰れてしまいます。」
「計算上ダイヤモンドよりもずっと質量が大きく屈折率も大きい空間があるとしたらどうだね。」

「あっそうか!でも固体でなく空間でないと…」

「そうだ、空間だ。宇宙君のスペースギアがくぐり抜けられる空間があればよい。」
「その空間を屈折して飛び跳ねていくんですね。」
「やっと分かったかな。」

つづく…

オムレツ…③

2007年06月04日 | SF小説ハートマン
「宇宙(ひろし)、次はトマトつぶすわよ。得意のスリコギでお願いね。」
「えー、ごますりじゃないの?」
「オムレツにかけるソースになるのよ。急いで!」

いつもは優しいママが今日はとっても厳しい。

「できた?そしたらケチャップ入れてちょっと味見してみてね。」
ママはフライパンでオムレツを返しながら僕に指示を出す。
「ケチャップはチューブのじゃなくてビンの方よ、そこにあるでしょう。そうハインツのね。」

それから僕は休む間もなくレモンを切ったり、フランスパンにガーリックバターを塗ったりした。

「さぁできた。宇宙も仕事がどんどん早くできるようになったわね。オムレツが冷めないうちに食べよ。」
「ママ、おいしいよ。ママが作ったのは中がとろとろだね。」
「宇宙のも美味しいわよ、ちゃんと形もできてるしね。」
「固まっちゃってるでしょう。」
「そう、少しね。何度か挑戦すればきっともっと早くできるようになるわ。鉄人宇宙、頑張って。」

「明日もつくっていい?」
「いいわよ。明日はパパもいるから3個作るのよ。星見ちゃんもお呼びしようかしら。」
「やだよ。もうちょっと上手になったらいいけど。」
「それじゃぁ明日から毎日オムレツ特訓ね。」
「僕はいいけど、それじゃあ飽きちゃうでしょう。」
「大丈夫よ、オムレツはいろいろあるの。今日はタマネギでシンプルなのを作ったけど、宇宙が大好きなマッシュルームでもいいし、パパが好きなゴーヤでもいいのよ。」

「チーズはどうかなぁ。」
「さぁすが宇宙、きっと美味しいと思うよ。お料理はね工夫が大事なの。チーズだったら上にかけるケチャップソースにちょっと塩味を効かせてみるとかね。」
「今日のもいつものケチャップよりおいしかった!」
「そうでしょう、ひと味違うわよね。」
「宇宙がチーズのオムレツを作る時までにママはソースのこと考えとくね。セロリなんか使ってみようかな。宇宙はセロリも嫌いじゃないものね。」

オムレツ…②

2007年06月02日 | SF小説ハートマン
「失敗したらスクランブルにしちゃえばいいからね。」

卵を入れてかき回す。これはスクランブルと一緒だ。
まだ固まらないうちにフライパンの向こう側に寄せる。


「さぁ宇宙(ひろし)、今よ。」

そう言うとママは僕にフライパンを持たせた。
家にある中で一番小さいフライパンだけど、片手で持つと結構重い。

「頑張って頑張って!」

トントントントン叩く。ママも一緒にやってくれる。

「わぁーすごいすごい!」

卵が少しずつ回ってくる。不思議、面白い。
いつの間にかオムレツの形になっている。

「よーし、大成功みたいよ。宇宙、お皿取って」

僕がお皿を渡すと、ママはきれいにボート型になった卵をその真ん中に乗せた。

「はい、一丁上がり。もう一つ作るから、宇宙は冷蔵庫からサラダを出してお皿に飾りなさい。」

ママはといた卵に玉ねぎをパラパラと入れて味付けをしている。
僕はまだ水中メガネをしたままサラダのトマトをつまみ食いしている。



高原大学附属小学校の試験に合格してから、もうずいぶん経った。

熱が下がってから幼児教室の吉田先生に1回だけ会いに行ったけど、もうお勉強はしていない。
その代わりこうしてママとお料理をする時間が増えた。
僕はママと一緒で嬉しいけど、もっと吉田先生とお勉強もしたいと思っている。

オムレツ

2007年06月01日 | SF小説ハートマン
「大丈夫、さっき冷凍庫にちょっとだけ入れといたから、たぶんしみないわよ、」
「えーっ本当?でも心配だからメガネするよ。」
「うふ、いいわよ。スイミングの後洗ったから、まだハンガーに干してあるわ。」

「普通に細く切ってからそれをまた細かくするのよ。」
「うん、みじんぎりでしょ?」
「あら知ってるんだ、さすが宇宙ね。なるべく小さくお願いね。」
「まかせてよ。」

ママは大丈夫って言ったけどやっぱりちょっと目がしょぼしょぼになってきた。
ママにそう言うと、包丁は良く切れるはずだから後はスピードだって教えてくれた。

「でも急いで切らなくていいわよ。あわてると危ないから。」

う~ん、鉄人の宇宙君としてはもっと早く切れるようになりたい。

「さぁ、塩とコショウしたら焼くわよ。準備はいい?」
「お皿もここに置いたよ。」

「いいわ、じゃぁちょっと練習ね。フライパン重いから一緒にやろうね。オムレツは時間とトントンが勝負なのよ。」
「トントンって何?」

ママはフライパンにたたんだふきんを乗せて手元をトントンとリズミカルに叩いた。

「わぁママすごい、ふきんが回ってきた。」
「最初はちょっと難しいと思うけど、宇宙ならきっとできるようになるよ。どう、やってみる?」

「うん、やりたい!」

お手伝い

2007年05月23日 | SF小説ハートマン
「宇宙(ひろし)さぁやるわよ、手伝って。」
「うん、じゃぁ卵割ろうか?」
「そうね、お願い。」

「3個でいい?」
「いいんだけど、ねぇ宇宙、卵はママ割るから今日は玉ねぎ刻んでみない?それとオムレツ。」

「えーっ、でも難しいんでしょう。」
「うん、ちょっとね。でも宇宙のスクランブルはもう完璧だし、オムレツもたぶんできると思うわ。」

「いひひひぃ、やってみたかったんだ。」
「変な声出さないでよ、真面目にやらないとダメよ。」


ぼくはもう結構いろいろな料理が一人でできる。天ぷらとか焼き魚とか、ちょっとお手伝いだけのものもあるけど、最初から全部できるのもあるのだ。
この前の休みの日、星見ちゃんが叔父さんと一緒に来た時、レタスの卵スープを作ってあげたらびっくりしてた。叔父さんは

「こりゃぁうまい!宇宙君はいいお嫁さんになれる。」
って誉めてくれた。星見ちゃんは
「お嫁さんいらないんじゃない?」
って言いながら、おいしいって言ってお代わりもした。

みんなママが教えてくれたんだ。
お父さんは食べるだけだけど、ママと結婚する前は料理もしてたんだって言ってる。でも、作ってるのは一回も見たことない。

「ママの邪魔しちゃ悪いしな、第一ママの方がずっと美味しいし、宇宙(ひろし)って弟子もできたし、俺の出番なんてないさ。」
とか言って一人でワインを飲みながらニコニコだ。

僕はママと一緒にお料理するのが本当に好きだから、いけどね。

つづく




潜入、処置室にて…②

2007年03月23日 | SF小説ハートマン
確保したオペロイドの首筋に特殊な紫外線ライトを照射するとテンキーのホログラムが浮かび上がった。数字を打ち込む。
通常メンテナンス用のキーナンバーは12桁、オペロイドのシリアルナンバーを打ち込めばよい。

キーに触れるとすぐに反応し、背中が割れるように開く。
オペロイド達の頭部には手術に必要なセンサーが詰まっている、体全体をコントロールし、センターとの通信を制御するシステムは、人間で言えば心臓の部分に収まっているのが普通だ。背中からなら直接チップに触れることができる。

ハートマンは慎重にプログラムを書き換え、割れた背中を閉じるとパイプスペースに消えた。
この間およそ3分。オペロイドは何事も無かったかの様に次の指示を待っている。

彼に指示が届く時、ハートマンの作戦も開始されるのだ。

そしてそれはすぐに始まった。

ロックの外れるシュッという音が軽く聞こえた直後、ドアが高速で開き数体のアンドロイドがポッドを運び込んできた。
オペロイド達は全く無駄のない動きで処置の準備を進める。モニター達が輝きを増し、手術台にセットされた数十本のナノマシンを支えるアームが向きを整え始める。

PSーproject(ペットサピエンス計画)の日常にハートマンがメスを入れようとしている。