[ドラマ紹介]
Bar 「灯台」に入り浸っている作家の“M”。
ハロウィンの晩に、5年付き合った恋人の“F”が
「灯台」に、キャットウーマンの扮装で現れ、
ドアを開けるなり入らずに去って、行方をくらませてしまう。
Mは、その行方を探すが、
どこにいるかは分からない。
年賀状を受け取りに部屋に行ってもらいたい、
など、要望をしてくるから、
どうやら生きてはいるらしい。
Fの姉という女が現れ、
Fは祖母の遺産を一人で相続したが、
私にも権利があるはずだから、
とりあえず恋人のMにリフォームの費用を負担してくれと言われ、
むざむざ金を渡してしまう・・・
というMの日常を描く。
舞台は主にBar 「灯台」と
喫茶「マーメイド」。
そこの常連たちとの何ともない日常。
ゆるーい、ゆるーい話が10話に渡って展開する。
主演の阿部寛のとぼけた味で、なかなか見せる。
ところどころ、人生の機微を伺わせて、味わいもある。
やがて、Fの相続を巡る真相が明らかになり、
二人はお別れの能登旅行をする。
Fを演ずるのは尾野真千子、
Bar 「灯台」のオーナーにChara 、
「灯台」で働く料理人に宮藤官九郎、
喫茶「マーメイド」のオーナーに見栄晴、
Fの姉に酒井美紀、
謎の美女に大島優子、
Fの祖母に草笛光子など
出演者は豪華。
毎回、「灯台」でのライブが終わりについているが、
どれもこれも音楽性のかけらもない曲で、
石原慎太郎が「へたくそな日記のような歌」と言ったとおりのもの。
いつからこんな音楽がもてはやされるようになってしまったのだろうか。
2022年9月からディズニープラスで配信し、
2023年10月からテレビ東京他で放送もされた。
全編16ミリフィルムで撮影されている。
一話30分程度で、全10話計5時間20分。
原作にあたってみた。
[書籍紹介]
原作を書いたのは、
「燃え殻」という、変わった名前の作家。
「週刊SPA」に連載したエッセイをドラマ化したものだという。
燃え殻は、元々テレビ美術制作会社の社員。
WEBで配信された初の小説がSNS上で大きな話題となり、
「ボクたちはみんな大人になれなかった」がベストセラーに。
原作を読んでみると、
ドラマは全くオリジナルのストーリーだったと分かる。
「ちょっとトイレに行ってきますね」
と行って帰って来なかった人の話、
浅草の演芸場で手品師に舞台に上がらされ、
舞台2人、客席1人という状況がで来たな話、
亡くなったプロデューサーとAD時代に出会った思い出話、
テレビ制作のブラックな現場の話、
昔の同級生に誘われてエロを期待して行ったが、
実はマルチ商法の勧誘だった話。
SNSで、「あなたの関節を全部折ります」と宣告されて、
サイン会でおびえる話、
ビジネスホテルで古いTシャツを捨てたら、
次の時、清掃員の老人が着ていた話、
北の旅は「駆け落ち」、南の旅は「バカンス」と呼ぶ人の話、
などなどが脈絡なく取り合出られている程度。
Bar 「灯台」も喫茶「マーメイド」も、
かけらも出て来ない。
脚色は岨手由貴子・沖田修一・大江崇允ら。
別物だが、原作のテイストはよく取り込んでいる。
祖父に「鼻を上にあげてみろ」と言われて、
そうしたら、「その体勢、疲れるだろ?」と言われ、
続いて、
「いいか、偉そうにするなよ、疲れるからな」と言われた。
「逃げていいんだよ」というSNS上の呪文。
本当に逃げていいと思う。
逃げても世の中はすべて平常運転だ。
よく芸能人のお悔みで、
「二度とあのような才能を持った人は出てこないだろう」
と涙するシーンが流れるが、
二度と同じような人が出てこなくても、
世の中が困っている様子を見たことがない。
この世界は誰が抜けても大丈夫だ。
だから潰れるまで個人が我慢する必要なんてない。
心が壊れてしまう前に、人は逃げていい。
片意地張って生きても何にもない。
ゆるくゆるく生きた方が気楽、
という一貫した音色が通奏低音のように流れている一篇。
ラストの一行は、これ↓
良いことも悪いことも、
そのうち僕たちは
すべて忘れてしまうのだから。