Addicted To Who Or What?

引っ越しました~
by lotusruby

『マジシャンズ』

2007-02-02 22:40:49 | K-Movie Notes

(Image source: nkino)
『マジシャンズ(原題:魔術師たち 마법사들)』(2006年 監督:ソン・イルゴン)
す、す、凄い・・・という陳腐な表現しか出てこないのだけど、目からウロコの作品。これまで130本以上韓国映画を見てきたけど、こんな映画があるんだ。いやはや、韓国映画界(演劇界)の底力を見せつけられたというか、こういう作品を見るとやっぱり韓国映画を応援したくなってしまう。

1年の終わりの12月31日、森の中の山荘でカフェを営むチェソン(チョン・ウンイン)の所へ、昔のバンド仲間(バンド名は「魔術師」)だったミョンス(チャン・ヒョンソン)とハヨン(カン・ギョンホン)、そして、通りがかりのお客のお坊さん(キム・ハクソン)がやってくる。バンド仲間だった3人がこの日ここに集まった理由、それは、もうひとりのバンド仲間だったジャウン(イ・スンビ)の命日で三周忌だからだ。3年前のジャウンの自殺は3人の心の奥深くでくすぶっていた。

95分ワンカット・ワンテイク、江原道の森の中に野外セットを作り、全編夜のシーンで撮影したというのだから、役者はもちろんのこと、カメラ、照明、音声らスタッフたちはどれほど大変だったことか。このスタッフたちの動線はどうなっているのかと気になっていたら、いつもは購入しないパンフレットに詳しく説明があり面白かった。照明が印象的だったのだけど、照明には通常の映画製作の3倍を費やしたらしい。

見る前は、演劇的空間をそのまま映画にするって、きっと動きの少ないひたすら語りの映画かと思っていたら、そんな予想は完全に裏切られた。過去と現実という時間も自由に行き来するし、登場人物たちが交差するその空間に引き込まれてしまって、まるで自分も森の中にいるような錯覚さえおきた。

95分やり直しのきかない一発勝負。現場の緊張感・集中力はどれほどのものだったのだろうか。凍えそうな木立の景色と対照的な山荘の暖炉のパチパチという音を聞きながら、作り手の熱いものを感じた。

そして、チョン・ウンインを初めとする役者の力量が光る。本番に強い演劇畑の役者たちを揃えて、誰ひとり、力みも澱みもなく、画面からはみ出すこともないし、各人がそのキャラクターの中でしっかり生きているという圧倒的な存在感にあふれていた。

まさに演劇だなー、とふと思ったのは、韓国の伝統演劇の仮面劇(タルチュム)には、決まって道化役が出てくるそうなのだけど( 読みかじり)、この作品では、ジャウンだけが現実に生きておらず、パントマイムのように道化的な存在なのかなーと思ったりした。

「Sylvia」にたどりつくまでの4人とスンニム(坊さん)のひとつひとつの交差劇が、繊細で丁寧に描かれている。この「Sylvia」という曲が、最後に流れてくるのだけど、それがとてもイイ。完全に入り込んでいたので、不覚にもウルっ としてしまったが、 LOVEHOLIC のアルバムは手に入れなくちゃ・・・

そうだ、この監督の作品『スパイダー・フォレスト(懺悔)』をまだ見ていなかった・・・