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ウロコのつぶやき

昭和生まれの深海魚が海の底からお送りします。

白鳥をめぐる冒険

2007-11-15 18:50:57 | 日記
世界の民話や神話には、洋の東西を問わず結構似通った話が多いと申します。
そんな中、ちょっと気になったのが「白鳥の湖」。
あまりにも有名なこのストーリー、一体誰が考えたんだろう?ということでちょっと調べてみました。

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ウィキペディアによると、「ドイツの作家ムゼウスの書いた童話「奪われたべール」を元に作られた」とあります。何となく、ロシアの話のようなイメージが強いですが、実はこの話の舞台はドイツだったんですね。
ムゼウスことヨーハン・カール・アウグスト・ムゼーウスは18世紀ドイツの作家。グリムやアンデルセンよりちょっと前の時代の人らしい。
「白鳥の湖」の元になったと言われる「奪われた面紗(ヴェール)」は「ドイツ人の民話」に収められた14編の物語の内の一遍。「ドイツ人の民話」は実際の言い伝えではなく、言い伝えを元に描かれたムゼーウスの創作です。元々は童話ではなく、大人向けの文学だったみたいですね。

奪われた面紗(ヴエール)
リンク先でほぼ全文が読めますが、結構長くて大変です。
ざっくり斜めに読んでみたんですが………
これ、「白鳥の湖」とはかなり話が違う。ディテールの違いだけではなく、話の根本が大きく違ってます。

湖(この話では池)に舞い降りて来た白鳥が人間の乙女へと姿を変えるのは同じなのですが…
○ヒロインは、悪魔に姿を変えられたのではなく、元々白鳥に変身できる特殊な人間(この物語では、ギリシャ神話のレダと白鳥の間に生まれた子供の血を引く半妖精という設定)。
○白鳥に変えられて困るのではなく、寧ろ、白鳥の姿に戻れなくて困る(白鳥の姿に戻るために必要なヴェールを、男に隠されてしまう)。
○当然、偽のヒロインとか出て来ない。ヒロインは男からヴェールを取り戻し、白鳥となって飛び去る。
○男は苦労してヒロインを追いかけ、色々あってハッピーエンド。

どっちかというと、日本で言う所の「天女の羽衣」の話の方に近いんですね。
ていうか、「羽衣伝説」でもしばしば天女と白鳥は同一視されているようで、世界各地に伝わる白鳥処女説話(Swan maiden)のひとつとされています。
異種婚姻譚の一種なんですね(ちなみに、レダと白鳥も異種婚姻譚の最も有名な話のひとつ)。

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それでは、ムゼーウスさんは何を参考にこの話を描いたのか。
エッダ(11~13世紀くらいの、北欧の神話や歴史を集めたもの)の中にあるヴェルンドルという英雄のエピソードに類似の話があるそうです。
ヴェルンドルは兄弟たちと湖のほとりに家を建てる。ある朝、湖畔で「ワルキューレで、王の娘」である3人の乙女と出会う。彼女たちのわきには白鳥のドレスがおいてあった。
エッダの中には「白鳥のドレス」についての説明はないそうですが、この話のドイツ版であるヴィーラント(ヴェルンドルのドイツ語読み)伝説では、この英雄が三羽の鳩が乙女に変身する所を見て彼女たちの衣服を手に入れ、乙女のひとりを妻にするという話があるそうです。
(余談ですが、ペルシャの伝承にも似たような話があるらしい。ヒロインがヴェールを取り戻す下りが、ムゼーエフ版と近い感じでした)
(参照:「妖精の誕生―フェアリー神話学」T.カイトリー)

白鳥になったり鳩になったりしてますが、大体この辺が元ネタと思って良さそうですね。
それにしても、元の話では乙女の正体は北欧神話のワルキューレだったのに、なんでムゼーウスさんはギリシャ神話のレダの子孫に変えたんだろう。
個人的には、北欧神話ベースで統一した方がそれっぽいと思うんですが。いきなりギリシャ神話が混ざると何かごった煮感が…。

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ということで、「白鳥の湖」です。
元々なんで私がこの話を調べようと思ったのかというと、「ロットバルトって何者?ていうか、何がしたかったんだ?」という所が不思議だったからなんですね。オデットに呪いをかけたり王子を騙すことが、彼にとって一体何の特になるんだ?と。
というか、全体に北欧神話っぽい雰囲気の話なのに、なんで「悪魔」なんていうキリスト教的な存在が出て来るんだろう、というのが謎でした。

調べてみて分かったのは、元ネタになったと言われるムゼーウスの作品にも、そのベースと思われる伝承の中にも、ロットバルトに相当するキャラクターは存在しないということ。
ヒロインは元々人外の存在で、決して魔法にかけられた訳ではない。彼女は寧ろ白鳥に戻れなくて困っている訳で、困らせている張本人は主人公の男。
…これらの話と「白鳥の湖」を比べてみると、ちょっとロットバルトが気の毒に思えて来ますね。
ヒロインを人外ではなく人間のお姫様に。そして主人公も、ヒロインをハメるような男ではなく純愛の王子様に。…主役二人からマイナス面を払拭するために、悪い事を全部押し付けられた都合の良い悪役、という感じがして来ます。なんかもう、悪魔なんだからとにかく悪い事するんだよ、みたいな。
一見、民話や伝承をベースにしたっぽい話でありながら、民話や伝承の文法からは微妙に外れてるような気がしたのもそのせいかも知れません。

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ちなみに、ヨーロッパの童話や民話をざっと思い返してみると、元は人間だったのに別のものに姿を変えられたというと、何故か男ばかりが思い浮かびます。「美女と野獣」しかり、「カエルの王子」しかり。
白鳥に姿を変えられた話もちゃんとあります。
アンデルセンの「野の白鳥
ここでも変身させられるのは、11人の王子様です。

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以下、妄想。
個人的には、ロットバルトはキリスト教でいう「悪魔」というより、北欧神話のロキ神みたいな存在だと思った方がしっくり来ます。ロしか合ってないけど。
ロキは神の一員ではあるけど、神々と対立する巨人族の親を持つハーフで、トリックスター的な性格を持つと言われているので。
で、オデットは「呪いをかけられた人間」ではなく、神の娘であるワルキューレだとする。
ワルキューレであるオデットを、人間の王子が娶るための条件として、「真実の愛」が試される訳ですが、そこへトリックスターのロットバルトが乱入し、偽オデット(オディール)を使って王子を罠にかける。罠にひっかかってしまった王子は試練をクリアできなかったため、結婚に失敗。
飛び去ってしまったオデットを取り戻すべく旅立つ王子。ジークフリートと愉快な仲間たちの長く苦しい冒険の旅が、今始まろうとしていた(次号に続く)。

嘘です。続きはありません。

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