眠らない街

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NHK杯櫛田-森下戦

2008年07月06日 | 棋譜
がっかりした一戦
最近、好局の多かったNHK杯だけど、本局は本当にがっかりした

森下九段は、竜王と名人双方に挑戦したことのある棋士。私が好きな棋士でもあります。
櫛田六段は、アマトップがプロ入りした例として、先駆け的な存在
今、アマ棋戦に優勝すれば、奨励会三段で受験して編入する制度があるけど、それ以前では、年齢制限前のアマが奨励会初段を受験する方法しかなかった。
吉田正和三段のケースが記憶に新しいが、櫛田六段もそのルートでプロ入りしている。
そして「櫛田陽一」と言えば、私の年代のアマにとって「ブランド」でもあった。
将棋世界7月号の先崎八段の連載にもあったけど、櫛田六段は、アマ振飛車党の格好のお手本。これは私も同意見。
振飛車は中盤が命。中盤、細かい手順で少しずつ優位を築いていく「櫛田世紀末四間飛車」は、櫛田六段の成績はともかく参考になる手順の連続なのです。

しかし、がっかりした。
森下九段にも、櫛田六段にも。終局が11時36分ってなんなんだ。

第1図は、中盤、櫛田六段が仕掛けたところ。細かい局面の違いはあるけど、部分的には定跡型。

第1図以下:△8四飛▲5五歩△6四歩▲同歩△同銀▲5四歩△同金▲5八飛△5五歩▲6三歩(第2図)

居飛車穴熊の7三桂+4二角の攻撃陣を、振飛車が6六銀型で迎え撃つ場合、振飛車は6八飛型、または、6九飛型どちらにするかがポイントになる。
どちらにも主張があるけど、一番の違いは、6八飛型は▲5九角と引けないという点。
▲5九角と引く余地を作るため、▲5八飛としなければいけない変化がある。
この戦型、自分的には、振飛車が指せる!という印象がない。
▲6三歩もやりたい手ではあるけど、定跡書では「意外と働かないと金」みたいな解説になっている。


第2図以下:△8六歩▲同歩△6五桂▲5九角△7五銀▲6五銀△同金▲6二歩成(途中図)△6六銀▲5二と△7五角▲7八飛(第3図)
「意外と働かないと金」になってしまうのは、角が7五地点に出られた場合、目標がなくなってしまうから。
それでも本譜、角の活用を図るためとは言え、△7五銀は感触が悪い。
振飛車から見れば▲6五銀~▲6二歩成は当然。居飛車は7五銀と6五金の形が悪すぎる。
途中図の局面は、やや振飛車良し
更に△6六銀が感触が悪い。▲7八飛までの局面は、飛が捌ける目処が立ち、振飛車絶好調!

森下九段は、感想戦で「▲7八飛を見落とした」と言っていたが、こんなに簡単に悪くなるものだろうか。
何か「読みの精度」が悪い印象・・・好きな棋士なんだけどなぁ~


第4図は、第3図から数手進んだ局面。
▲5四桂とした局面ですが、これが俗手の好手。
櫛田六段の着手が早く「他の手には見向きもせず」という感じだった。▲6四角はいずれ指すけど、後手の銀を使わせようという狙い。
第4図時点で、11時25分頃だった。

第4図以下:△3一銀打▲6四角△8六飛▲4二と△8九飛上成▲3二と△同銀▲3九金打(第5図)

▲6四角とすれば一直線に進む。
局面は振飛車が優勢でなければおかしい。だから「見つけられるかどうか」にかかっている。
▲3二と△同銀まで進んで、次の手が勝負の分かれ目。
「▲3九金打」
解説の中村九段が、即座に言った。
「この手はどうでしょうかねぇ~」



第5図以下:△5九歩成▲4二桂成△4九と▲3二成桂△4一金▲2二成桂△同玉▲4九銀△同飛成▲同金△同竜▲3九銀△5五桂▲4二飛△同金▲同角成△2九飛 まで108手で森下九段の勝ち(投了図略)

▲3九金打は一目悪そうな手。私の口癖で
「悪そうな手だなぁ~」
というのがあるけど、この手が指された時もこう言った。
中村九段も、手順を読み切ったわけではない。感覚が「この手はどうでしょうかねぇ~」と言わせている
中村九段に限らず、プロなら10人が10人ともこういう第一感を持つと思う。
麻雀で言えば「指が嫌がる打牌」という感じだろうか。

局後の感想戦では、第5図の1手前の局面で、▲4二桂成でも▲3九金打でも難解ではあった
※▲3九金打の変化は、以下△5九歩成▲同角△同竜▲4二桂成。
この変化は▲5九同角がポイント。

ただ、▲3九金打△5九歩成▲4二桂成だけはあり得なかった。△4一金がピッタリ過ぎる。
アマでも県代表クラスになれば、読み筋の中に△4一金を組み込んで指すことは難しいことではない
▲3九金打が感触が悪いというのを理由付ければ、「攻駒が少なくなる」「その金はと金で取られる」「攻駒が少なくなったので相手に受けの余地を与える(△4一金を誘発する)」ということになる。
勿論、時間があれば感触が悪い手の中にも「利害の利」を見つけられる可能性があるが、それは「居飛車穴熊が手ぐすねひいて待ち構えている見え見えの罠」を一発で見破っていることが前提である。
仮に△4一金が見えていなかったとしても、居飛車穴熊に美濃囲いで挑む振飛車党は、「これは一発食らう手だ」という危機察知というか、センサーが備わっているもんだ。
中村九段は、一時期四間飛車を指していたから、そういうセンサーが反応してのコメントなんだろう。

センサーに反応すれば、後の手順は読めてなくても「見切り」で指す。
「見切り」で▲3九金打でなく、▲4二桂成と指す。
以下、△4九飛成▲同銀△同竜▲3九金打。この局面、居飛車穴熊は絶対詰まない形なので、これも嫌な流れであることは間違いない。
でも、これで負けるならば、TVの先のアマ振飛車党は本望だろう。△4一金を食らって負けるよりは
「△4一金を見落としました」
などとプロに言って欲しくない。言われたらアマ振飛車党は悲しすぎる。

本局、▲3九金打でも形勢不明だったという事実はあまり意味がない。
それは、プロが3人集まって、調べあった末の結論。
1手30秒の秒読みで、そんなに正確に指せる訳がない。だからこそセンサーが重要だし、指運と言われる将棋も、センサーの優劣であることが多い。

本局は、森下九段の出来もイマイチだったが、櫛田六段のセンサーの衰えを目の当たりにしたという意味でもがっかりだった。