SakuraとRenのイギリスライフ

美味しいものとお散歩が大好きな二人ののんびりな日常 in イギリス

Colin Hay, Why We Hate Politics, Polity Press, 2007

2012年09月30日 | 
こんにちは、Renです。
最近本の紹介ばっかりな気がしますが、敢えて空気を読むようなことはせず、今日も最近読んだ本をご紹介します。
今日ご紹介するのは、Colin Hay,Why We Hate Politicsです。


この本、2008年にW.J.M Mackenzie Book Prize for Political Scienceを受賞した作品らしいのですがその賞がどれだけすごいものか、実はよく知りません。
でも、この賞でいろいろ調べてみたら、過去にJoseph Razさんという世界的な法哲学者さん(The Morality of Freedomで受賞 )とか、Christopher Hoodさんという、これまた世界的な行政学者さん(The Art of the State: Culture, Rhetoric and Public Managementで受賞)とかも受賞していて、なにやら権威のありそうな賞な感じがします。
日本でいうと、サントリー学芸賞みたいなものなのでしょうか。
詳しい方がいたら教えていただければ、みんなに知識をひけらかせるようになれて嬉しいです(笑)

さて、この本は我々が政治や政治家に不信感を抱いている理由を探ろうとするものです。
「政治」に否定的なニュアンスが付与されるようになったのはごく最近のことで、たとえばマキャベリ(『君主論』が出版されたのは1513年)なんかは、「政治」politicsを共同体の利得を増大させるものと捉えていた。(著者によれば、人民を騙したりしながら統治者の利益を追求するような活動は、politicsではなくreason d'Etatとして構成されていたとのことです。)

ではなぜ最近になって「政治」が信用されなくなってしまったのでしょうか。
著者は大きく3つの理由を挙げます。
(1)選挙にマーケティング手法が活用されるようになったこと
(2)公共選択理論(Public Choice Theory)の普及
(3)グローバライゼーション

それぞれについての説明を本書の議論から補足すると、次のようになるでしょうか。
(1)選挙が市場競争のようなものになり、マーケティング手法が活用されるようになることで、政党間で政策が収斂し、狭い争点での競争がなされるようになった。政党はブランド化戦略をとり、信頼性のイメージを構築することが重要視され、特に党首などリーダーのパーソナリティが重視されるようになってきた。(ここらへん、まさに日本でも見られるものですね!)すると、有権者はこの競争の「消費者」となり、合理的に行動をするようになる。合理的に行動をすると、有権者は自分の一票の重さ(ほぼ0!!)と投票に行くコストを比較考量し、合理的に考えた結果選挙に行かなくなるだろう。

(2)公共選択理論は、政治家や官僚は社会全体の利益よりも自分の利益を最大化するように行動するというミクロ経済学的な前提で理論を組み立てている。この理論が流布することにより市民は政治家や官僚の行動を疑念を持って見ることになる。また、この理論を政治家や官僚が内面化することにより、同じようなミクロ経済学的前提に立脚する新自由主義的改革(それまで政治の領域とされていたものを脱政治家する。民営化等。)を支持することになる。

(3)グローバライゼーションが進んだ現在においては一国にできることは限られている、という認識が広まっていることにより、政治への無関心に繋がっている。


政治が信用を失ってしまっていることを問題だと考える著者は、どうすれば事態が改善するかを考察することになります。
僕の読解力では本書の中にクリアーな解決策が示されているのを見出せなかったのですが、著者が確認・主張する以下の点は、少なくともこの問題を考える上でのヒントになるのかなと思います。
・先進各国において投票率が下がっていることは確かだが、メディアに連絡をすることや製品ボイコット、抗議運動等、政治家や議会をバイパスする形態の政治参加はむしろ増大している。また、政治や政治家に対する信頼は近年低下しているものの、民主主義に対する支持は依然として高いレベルにある。今日においては「政治」をもっと広いものとして捕らえた方が適切ではないか。
・公共選択理論や新自由主義は仮定(政治家や官僚は自分の利益を最大化するように行動する)の演繹で理論を組み立てているが、この仮定は経験的に証明されたものではない。
・広く認識されているグローバライゼーションのイメージについても、実態は大きくかけ離れたものであり、国内政治レベルでできることはまだまだ多い。

正直言って、公共選択理論についての著者の批判はあまり正当でないような気がします。
そのような前提で理論を打ち立ててみたら現実が完璧ではないにしてもかなりうまく説明できたから、公共選択理論は政治の見られ方やその後の研究に強い影響力をもったのではないでしょうか。
ただ、著者の批判は確かに間違いではないと思います。
どうしても僕たちは世間に広く流布していることを自明のこととしてしまうんだけど、現実は別様でもあり得るんだということに改めて気付かせてくれる指摘だと思います。

読者に現実は別様でもあり得るんだということを念頭に置かせた上で、著者は我々に政治について我々が抱く認識を問い直させようとします。
最終段落で、「政治は社会的活動であり、他の社会的活動がそうであるように、政治は協働と信頼があるときに最もよく機能する」とし、「(政治や政治家についての)認識をこそ、我々は政治化しないといけない」(p.161)としているところが印象に残りました。


本書は本文がわずか162ページの作品ですが、現代の政治について考察する際に避けることが出来ない問題に正面から向き合った好著だと思います。
どうすれば我々が政治をtrustするようになるかは、(たぶん)説得的な形では示されていないのですが、そもそもどうして我々が政治をhateしているのかを知ることはこの問題にアプローチする重要な一歩となるのではないでしょうか。


(投稿者:Ren)

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