先週は大阪で幻覚作用などの使用感がある「脱法ハーブ」を若者が吸引して、
交通事故を起こしたとニユースは伝えていた。
いつの時代もこの種の麻薬覚醒剤の事件は多いものだが、
今回の「インターネット随想」は40年前のお爺さんの話である。
今日の暑さは格別でなかなか仕事も手につかず、
しばし古びた1台の扇風機を囲み、朝の雑談に花を咲かせていた。
その時に「先生、県会のA先生から電話ですよ」
受付嬢の弾んだ声に促され受話器を取った。
「やあ君、ちよっと相談があるのでそこへ行こうと思うのだが、少し時間が取れるかね」
「いやあー、来てもらわなくても、私の方から行きますよ」
「いやいいよ、ちょつと内密な相談だから」
と言う訳でA議員が研究室に来る事に成った。
A先生と言えば県会の実力者で議長経験も長く、恐れ多いと思ったが、
来るというので部屋で1時間位待っていると、汗を拭きながらやってきた。
A先生とは電話で1~2回話したことは有るが、直接会うのは始めてで、
その姿はデップリと太り精力的な風貌に圧倒された。
一通りの挨拶の後に語った内容は、次のような事であった。
「実は君、変な話だが、この薬をある人から貰ったのだが、
下の方がとても元気に長続きする薬だというので使っていたら、
いつの間にか効果が減少し薄気味悪く成ったので、試験して貰いたく来た訳だよ」
外は猛暑日だと言うのに、更に熱い血の気の昇る話ではないか。
やおらその薬を手に取ってじっと見ると、外箱には精力持続剤と書かれて、
いかにも元気の出るような、筋肉質の男性が描かれている。
しかし肝心の成分や、効能、製造所は書かれていない。
明らかに医薬品として承認されたものではなく、一目でインチキ薬とわかった。
ともかく議会の偉い先生の頼みとなれば、むげに断ることも出来ず、
私の好奇心も手伝って、この試験を引き受けることにした。
新しい機器を使っての実験でも困難を極めたが、
やっと一週間後に主成分は局所麻酔剤の一つ、塩酸プロカインであることが解った。
この結果を急ぎ報告すべく、A先生に電話をした。
「先生、あの薬の主成分は局所麻酔剤ですので心配いりません。
ああいうインチキ薬は使わん方がいいですよ」
「よく解ったよ。これで安心したよ。わしはもう一生、使えなくなったかと思ったよ。
ただああゆう薬は、どんな人が使うのかね」と聞かれ返答に困った。
「よく解りませんが若い元気な人が使うと、良いのじゃあないでしょうか」と答えておいた。
「やあ、有難う。医者にも相談に行けず不安で困っていたが、これで安心したよ」と電話は切れた。
それにしてもどんな偉い人でも、
いつまでも元気でありたいと思う男心は皆同じだと思いつつ、
今も目尻の垂れたA先生の顔が目に浮かぶ。
(○○県○○会誌、1984.11.1)
●「レトロ写真館」(37) 大英博物館
○正面玄関
○古代エジプト館 ラムセスⅡ世像