ゆるゆる素浪人の「気まぐれ日誌」~ 自己満足とボケ防止に、人生の雑記帳~  

そういう意味で老人の書いた「狼の遠吠え」、いや「犬の遠吠え」と思い、軽い気持で読んで頂けば有り難いです。

 「インターネット随想」(18) 精力持続剤鑑定

2012-06-03 00:00:00 | エッセー

先週は大阪で幻覚作用などの使用感がある「脱法ハーブ」を若者が吸引して、

交通事故を起こしたとニユースは伝えていた。

いつの時代もこの種の麻薬覚醒剤の事件は多いものだが、

今回の「インターネット随想」は40年前のお爺さんの話である。

 

今日の暑さは格別でなかなか仕事も手につかず、

しばし古びた1台の扇風機を囲み、朝の雑談に花を咲かせていた。

その時に「先生、県会のA先生から電話ですよ」

受付嬢の弾んだ声に促され受話器を取った。

「やあ君、ちよっと相談があるのでそこへ行こうと思うのだが、少し時間が取れるかね」

「いやあー、来てもらわなくても、私の方から行きますよ」

「いやいいよ、ちょつと内密な相談だから」

と言う訳でA議員が研究室に来る事に成った。

 

A先生と言えば県会の実力者で議長経験も長く、恐れ多いと思ったが、

来るというので部屋で1時間位待っていると、汗を拭きながらやってきた。

A先生とは電話で1~2回話したことは有るが、直接会うのは始めてで、

その姿はデップリと太り精力的な風貌に圧倒された。

一通りの挨拶の後に語った内容は、次のような事であった。

「実は君、変な話だが、この薬をある人から貰ったのだが、

下の方がとても元気に長続きする薬だというので使っていたら、

いつの間にか効果が減少し薄気味悪く成ったので、試験して貰いたく来た訳だよ」

外は猛暑日だと言うのに、更に熱い血の気の昇る話ではないか。

 

やおらその薬を手に取ってじっと見ると、外箱には精力持続剤と書かれて、

いかにも元気の出るような、筋肉質の男性が描かれている。

しかし肝心の成分や、効能、製造所は書かれていない。

明らかに医薬品として承認されたものではなく、一目でインチキ薬とわかった。

ともかく議会の偉い先生の頼みとなれば、むげに断ることも出来ず、

私の好奇心も手伝って、この試験を引き受けることにした。

新しい機器を使っての実験でも困難を極めたが、

やっと一週間後に主成分は局所麻酔剤の一つ、塩酸プロカインであることが解った。

 

この結果を急ぎ報告すべく、A先生に電話をした。

「先生、あの薬の主成分は局所麻酔剤ですので心配いりません。

ああいうインチキ薬は使わん方がいいですよ」

「よく解ったよ。これで安心したよ。わしはもう一生、使えなくなったかと思ったよ。

ただああゆう薬は、どんな人が使うのかね」と聞かれ返答に困った。

「よく解りませんが若い元気な人が使うと、良いのじゃあないでしょうか」と答えておいた。

「やあ、有難う。医者にも相談に行けず不安で困っていたが、これで安心したよ」と電話は切れた。

 

それにしてもどんな偉い人でも、

いつまでも元気でありたいと思う男心は皆同じだと思いつつ、

今も目尻の垂れたA先生の顔が目に浮かぶ。

              (○○県○○会誌、1984.11.1)

●「レトロ写真館」(37)  大英博物館

○正面玄関

 

○古代エジプト館  ラムセスⅡ世像