くろたり庵/Kurotari's blog~since 2009

総務系サラリーマンの世に出ない言葉

結局、中途半端な民営化

2011-09-08 23:27:42 | 総務のお仕事(いろいろ)
「『信書』は郵便法により、宅急便やメール便で送達できないので注意してください」

ヤマト運輸(クロネコヤマト)の営業担当者が来社し、
そう言って「信書」の取り扱いに関する注意事項を説明して帰りました。

事の発端は、
埼玉県の職員が狩猟免許の更新の案内をクロネコメール便で発送し、
これを受け取った男性が、郵便法違反だとして県警に告発、
今年3月に依頼主とヤマト運輸が書類送検されたことに始まります。

今月に入り、ヤマト運輸はこの再発防止策を同社のホームページに告知し、
利用者にも口頭で注意喚起を促しているというわけです。

まず、「信書」とは何か。
総務省のホームページに掲載されている「信書に該当する文書に関する指針」には、
「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」とあります。

具体的には、書状のほか、請求書の類(領収書、納品書、見積書、申込書、契約書など)、
会議などの招集通知や結婚式などの招待状、許可証や認定書、証明書、
文書自体に受取人が記載されたダイレクトメールなどだそうです。
いわば、ほとんどの文書・書類が「信書」にあたる印象を受けます。

それでは、なぜ「信書」は宅急便やメール便で送達してはいけないのか。
これも同指針に記載されていました。

「信書の送達は、国民の基本的通信手段であり、その役務を全国あまねく公平に提供
 する必要がある。また、日本国憲法で保障するところにより信書の秘密が確保され
 なければならない」

要するに、全国どこでも公平に集配され、なおかつ信書の内容が漏洩しないよう、
信書の送達は郵便法や信書便法によって規制されているということのようです。

そこで疑問がわいてきます。
「郵政民営化」で郵便事業も民間業者に開放されたのではなかったのか。
合理化やサービスの向上を掲げて、競争原理が導入されたのではなかったのか。

調べてみて驚きました。郵政省の指針には、
「信書便法の許可を受けた民間事業者も送達することができるようになりました」
と、さも広く事業への参加ができるような書き方をしていますが、
その許可要件のハードルが驚くほど高いのです。

まず、日本全国に信書便差出箱(ポスト)を設置しなければなりません。
しかも、人口割合に対して設置数まで定められており、
すでに設置済みの日本郵便を有利にするための規定であることが一目瞭然です。
実質、日本郵便の独占が継続しているわけです。

いったい何のための民営化なのかと思ってしまいます。
これでは「民間の柔軟な発想による顧客サービス」など生まれようがありません。

「全国一律公平な集配」と「信書の秘密の確保」を守るためという理由も、
まるで、日本が発展途上の新興国であるかのような時代錯誤も甚だしい大義名分です。

いまどき、サービスの質が悪い業者はどんどん淘汰されていく時代です。
日本郵便が他の事業者より「公平な集配」と「信書の秘密」の確保に優れている限り、
宅配事業者などが信書便事業に参入してきても生き残っていくはずです。

郵便法や信書便法が守っているのは、
いまや顧客の「公平」や「秘密」などではなく、
競争にさらされる日本郵便とその従業員であるような気がします。