とうとう世界文化遺産に登録された富士山。
富士山に限らず、「世界遺産に登録されたから行きたい」という心理や、
「登録されたから来訪者が増える」という現象がいまいち理解できませんが、
今年の富士山は、なんだか大変なことになりそうな気配です。
そんな富士山では山開きを前にして、
弾丸登山の自粛を求める看板が設置されたそうです。
弾丸登山とは、夜間に登山口を出発して、徹夜で登山を強行、
山頂で御来光を拝んで下山してくるという「夜間日帰り登山」のことです。
山小屋で途中一泊する場合に比べ、体調を崩したり高山病になる可能性が高く、
某新聞社の調査では、山小屋で一泊した場合よりも、
登頂成功率は10%ほど低くなるそうです。
そうはいっても、7~8月には30万人もの人が訪れる山です。
週末の山小屋はどこも予約いっぱいで泊まれないのも事実です。
そうなれば、やむなく夜間登山を強行する人もいるでしょう。
かく言う私も、昨年、そうして弾丸登山を行った者のひとりです。
そこで見た、弾丸登山の実態は・・・
週末の富士吉田ルート。
四つある登山ルートの中で最も登山者が多く、
夜間でも道に迷ったり、人がいなくて心細い思いをすることはありません。
リタイア者が出始めるのは、7~8合目を過ぎるあたりから。
それまで元気だった登山者に疲労が表れ始め無口になってきます。
登山者同士の会話でにぎやかだった登山道がだんだん静かになり、
登山道のわきに座り込む者がちらほらと現れはじめます。
さらに標高を上げていくと、膝を抱えてうずくまる者の数はどんどん増えていき、
中には這いつくばって嘔吐したり、仲間に介抱されて下山する者も出てきます。
そんな悲壮な登山者をわき目に、ぞろぞろと無言の行列が登っていくのです。
その光景にふと「バターン死の行進」という言葉を思い出したほどでした。
それが深夜の富士山の登山道です。
もちろん、登頂できる人のほうが圧倒的に多いのも事実です。
しかし、自分が「うずくまる人」になるか、「登頂する人」になるかは、
確率の問題ではなく、体力と体調、そして運の問題です。
どんなに苦しくても自分の足で下山しなければなりませんし、
自己責任であることは肝に銘じておかねばなりません。
また、富士登山をするうえで、トイレの問題は避けて通れません。
高山病を予防するためには充分に水分をとり、我慢せずに排泄することが肝要です。
富士山のトイレはすべてチップ制になっています。
このわずかな100~200円を惜しんで、トイレを我慢する人もいます。
なぜか人は山に来ると、入れる(食べる)方にはお金を惜しまないのに、
出す(排泄する)方にはお金を惜しむ人が多いのです。
そうやって水分を控え、排泄を我慢し、体調を崩す登山者も少なくありません。
「山頂に着いたら行こう」などと思っていると、トイレの前の長蛇の列に絶句します。
「食べられるときに食べ、出せるときに出す」は、登山の大原則です。
もちろん、使用料を踏み倒すことなど言語道断。もってのほか。
日常生活で下水料金を支払うのと同じ理屈なのですから、
気持ちよく支払って、気持ち良く出したほうが、
登頂成功の確率はぐんとアップします。