「法律に『迷惑料』というものはありません」
以前、会社の顧問弁護士にそう言われたことがあります。
トラブルになった顧客と長い交渉の末、
相手方の言う、いわゆる「迷惑料」を支払うことで決着することになり、
示談書の文案を相談したときのことでした。
「こういう場合、 通常は『解決金』という言葉を使います」
その顧問弁護士が言うには、
「法的に支払わなければならないのは『損害賠償金』であって、
『迷惑料』なるものは、法的には支払う義務はありません」
ということでした。
「それでも、相手にお金を支払って事を収めるのであれば、
それは『解決金』や『和解金』ということになります」
つまり「迷惑料」なるものの請求権は、法的には存在しておらず、
あるのは、違法行為や故意・過失による不法行為で生じた損害に対する、
「賠償金」の請求権だけであるということです。
もちろん現実には、
生じた損害以上の金銭を支払って事を収めることは多々あります。
しかし、それは法律の世界では、当事者間の自由意思に基づくものであって、
乱暴な言い方をすれば、支払うも、支払わないも、本人の勝手ということになります。
辞書には、
「迷惑とは、ある行為がもとで、人が困ったり不快に感じたりすること」とあります。
最近は、テレビや新聞などのメディアが、
さも当たり前のように「迷惑料」という言葉を使うようになったせいか、
一般のクレームでも「迷惑料」を要求する人が増えました。
多くの人は「慰謝料」と同じ感覚で口にしているようなのですが、
本来、「慰謝料」とは「精神的な損害」に対する賠償金のことです。
法的な扱いも厳格で、単に困ったり不快に感じたりした程度、
すなわち迷惑を被った程度では請求できませんし、支払う義務も生じません。
この話しを弁護士から聞いて以来、
私の会社では、「迷惑料」という名目の金銭を支払ったことはありません。
また、法律で支払う義務のない金銭を支払うことは、
会計処理的にも疑義が生じます。
「『迷惑料』などというものはない」
このことをクレームを受ける側が厳格に扱わないと、
いつまでたっても悪質なクレームが減ることはありませんし、
悪質クレーマーの「強要」「脅迫」行為を生み出す温床となるのです。