中国が新旅券(パスポート)に、東シナ海などの周辺諸国との
係争地域を自国領とする地図を記載しことに対し、ベトナムや
フィリピンが抗議している問題。
国際法的には領土主張の効力はないとされ、アメリカは「入国
スタンプが押されても、米国が係争地域を中国領と承認した
ことにはならない」との見解を示したといいます。
また、在日中国大使は、「図案は特定の国のものではない。
関係諸国は理性的、客観的な態度で冷静に対応してほしい」
と述べたと報道されています。
厚顔無恥も甚だしい中国大使の発言ですが、いつもながら
中国の手練手管と遠大な計画には唸らされてしまいます。
中国は、いますぐに係争地域を世界に認めさせることが目的
ではないし、それを期待もしていないでしょう。
しかし、子や孫の世代になったとき、「これが係争地域が中国
領であることの証拠のひとつとして使える価値が出てくる」、と
目論んでいるのは明白です。
つまり中国は、いずれ旅券にスタンプが押された事実を示し、
「国が発給した公文書に印が押されているではないか。各国が
有効なものとして認めていた証拠だ」と古い旅券を持ち出して
くるのは日の目を見るより明らかです。
「もの」は事実をして変わらずに存在し続けますが、それを扱う
人の心や記憶、法律は時代によって変わるものです。
中国は、それを利用することがとても巧みです。
いわばこれが中国の「種まき」なのです。
ベトナムやフィリピンは地図の書かれた旅券にはスタンプを
押さず、別紙に押すことで対抗しているといいます。
これらの国々の懸念や措置は過剰どころか、極めて正常だと
思います。力(武力)での係争には勝ち目がない以上、リスク
管理としては当然の結果です。
むしろアメリカの見解こそ、「能天気な対岸の火事」です。
もしこれが、中国と相手国との立場が逆だったら、果たして
中国は旅券にスタンプを押すでしょうか。
答えは考えるまでもありません。
今回の地図は、尖閣諸島問題が緊張化する前に決まっていた
ため、尖閣諸島は含まれなかったそうです。このことから見ても、
中国の意図は明らかです。
もし、尖閣諸島が中国領として含まれていたら、日本政府はどう
対応したでしょうか。書面や口頭での抗議だけで、スタンプを押す
という行為は、形式だけの抗議よりも意味を持ってしまうものです。
日本はこれを対岸の火事とせず、学ばなければなりません。