くろたり庵/Kurotari's blog~since 2009

総務系サラリーマンの世に出ない言葉

自分が彼ではなかった理由とは~「レンタルチャイルド」石井光太 著

2010-07-18 23:22:34 | 書籍の紹介

衝撃的な内容の本でした。
この著者の作品は、どれもがアジア諸国の身体障害者や
貧困層の人々をテーマにしたものばかりですが、
その中でも、本書はその集大成ともいえる内容です。


「レンタルチャイルド」(石井光太 著  新潮社 刊)

「インドでは、マフィアが子供たちの手足を切断して物乞いをさせている」
2002年、著者はその噂を確めるため、インドの商都ムンバイを訪れます。

そこで著者が見たものは、
幼い子供たちを故意に身体障害者にして物乞いの女たちに貸し出す、
レンタルチャイルドと呼ばれる裏社会の商売でした。

その二年後、著者が再びムンバイを訪れると、
成長してレンタルチャイルドとして使えなくなった子供たちは、
マフィア組織から追い出され、生き残った者たちは、
ストリートで強盗や強姦を繰り返す「路上の悪魔」となっていました。

さらに四年後の2008年、著者の最後のムンバイ訪問。
怒涛の発展をとげつつあったインドは、
高層マンションの建設ラッシュの真っ只中にあり、
かつてのムンバイの街並みもすっかり変わってしまっていました。

国の施策によって、「路上の悪魔」と呼ばれた若者たちは、
捕らえられて施設に送られ、逃げ延びた者たちは郊外に移り住んで、
死体を物乞いのタネにするような、更にすさんだ状況になっていました。
それでも劣悪な環境の施設よりマシだと彼らは言います。

彼らがいなくなったムンバイの裏社会は、
麻薬を密売する黒人がアフリカから流入して仕切るようになり、
その凶悪さは、かつての「路上の悪魔」が恐れるほどです。

近年の経済発展が世界中から注目されるインドですが、
これはその発展の陰に埋もれ、決して公にされなかった、
インドの絶対的貧困層の変遷の記録です。

本書には目を覆いたくなるような描写がそこ、ここにあらわれます。
目をつぶされて失明した者や腕を切断されたばかりの子供、
ヤギと交わって性欲を処理する若者たち。
髪についたシラミや破れたボロボロの衣類についたゴキブリの死骸など、
その細かい描写のひとつひとつに、小説にはない圧倒的な衝撃を受けます。

そしてそれを現実のものとして受け止めながら読み進めたとき、
「手足や目を失って路上で生きる彼らと、
 この本を読んでいる自分との違いは、どこから生じるのだろうか」
と思わず考えてしまいます。

それは単なる偶然でしかないのか。
もしかしたら、路上で暮らす彼は自分だったということもありえるのではないか。
自分がインドの路地裏ではなく、日本に生まれたのはなぜなのか。

そう考えると、自分の意思ではどうにもならないものの存在、
神とか業とかいうものに思いが至ってしまいます。
「神に弄ばれる貧しき子供たち」は、まさに的を射た副題です。

宗教はこんな現実を目にして生れるものなのかも知れません。