くろたり庵/Kurotari's blog~since 2009

総務系サラリーマンの世に出ない言葉

書籍の送りつけ~会社でクーリング・オフはできるか?

2010-07-09 23:59:22 | 総務のお仕事(反社対応)

不当要求の中でも比較的多い「高額書籍の送りつけ」。
社員が「購入します」と意思表示をしてしまったら、
もうキャンセルはできないのでしょうか?

会社でこんなことがありました。

都内のある営業所の所長に、
団体を名乗る男性から電話がありました。

最初は、この団体と関係のある会社を使ってほしいというものでした。
所長がこれを断ると、今度は「団体が主催する人権擁護決起大会に
参加してもらいたい」と要求内容を変えました。

そして、これも断ると相手は次第に怒り出し、
「少しも協力的でない。人権問題をどう考えているのか!」と語気を荒げ、
「本の購入くらいなら協力できるだろう」と再び要求内容を変えました。

これは、最初に断られるのを前提にしたレベルの高い要求を行い、
徐々に要求レベルを下げて譲歩したように見せかけ、
最後に本当の目的である要求を呑ませようというものです。
不当要求には、よくある常套手段です。

それが策略であることなど知らない所長は、
相手が怒り出すと(実際は怒ってみせると)、
すっかりあわててしまい、相手のペースに乗せられて、
「それくらいなら」と了承してしまったのです。
そして「請求書は所長個人あてか、会社あてか」と問われ、
ご丁寧に「会社あてで」とまで答えてしまいました。

翌日になって、所長あてに宅配便で分厚い本が届きました。
過去にいろいろな本や講演などで発表された同和問題に関する論文や、
行政が発した同和問題に対する通達などを集めただけの内容です。
そして、同封された50,000円の請求書を見た所長は、
ようやく自分の対応の軽率さに気づき、
上ずった声で総務に電話をしてきたというわけです。

さて、この本をいかにして送り返すか?

一方的な「送りつけ」であれば、
「購入する意思はありません」と書いた通知を同封して返送するだけです。
しかし、今回は社員が相手に「購入します」と意思表示をしてしまいました。
うまくキャンセルしないと、相手がゴネたり、
それを逆手にとって新たな攻撃に転ずる可能性があります。

契約解除の方法で一般的なものは、特定所取引法のクーリング・オフですが、
この制度は個人消費者の保護のために作られた制度であり、
会社として行った契約行為には適用されない(適用除外)とあります。

手っ取り早く、その場で消費者センターに電話して確認すると、
「所長が購入を承諾しているのだから、会社としての行為だと思います」
「さらに請求書の宛名を確認され、『会社あて』と答えているので、
会社で購入することを追認していることにもなり、
クーリング・オフで解約することは難しいと思います」
とのことでした。

その後、弁護士に連絡をして相談すると、
クーリング・オフ制度の原則は、消費者センターの回答通りであり、
事業者同士の契約には適用されないとしながらも、
事務所の奥から判例集を出してきて、ひとつの判例を示しました。

それは、「大阪高裁平成15年7月30日判決」でした。
ある自動車販売会社が、訪問勧誘により消火器の点検整備と
薬剤の購入契約を締結した件について、
この消火器の充填薬剤の購入契約は、適用除外には該当しないとして、
クーリング・オフを有効と認めた事案です。

弁護士が言うにはこうでした。
事業者間の契約であっても、営業上の目的で結んだものではない場合、
つまり購買契約の目的物が、その事業者の営業対象ではない場合には、
クーリング・オフをすることができるのです。

たとえば、会社が飲食店を経営していて「おしぼり」を買わされたり、
建設会社が「軍手」などを買わされたりした場合には、
会社の営業に関わる契約行為であると解釈されて、
クーリング・オフの適用除外になる可能性が高い。
しかし、関連の本は、会社の営業とはまったく関係がないということです。

そこで早速、クーリング・オフの通知書を作成して内容証明で送付し、
別送で書籍を送り返しました。

判例の解釈などをめぐり、相手からの巻き返しが予想されたため、
弁護士の名前で通知したかったのですが、
弁護士から「カードは小出しにするものです」とアドバイスされ、
結局、弁護士でも所長でもなく、
会社の担当者として私の名前で通知しました。

その後ずいぶんたちますが、
結局、相手からの巻き返しはありません。