ほとほと通信

89歳の母と二人暮らしの61歳男性の日記。老人ホームでケアマネジャーをしています。

女優力

2013-10-03 | 映画
今日は仕事はお休み。

平日の休みはたいてい歯医者にいくのだけれど、木曜は休診です。

そこで久しぶりに映画でも観ようと、スポーツクラブの帰りTSUTAYAに寄ってきました。
そして、あまり期待せず借りてきた、成瀬巳喜男監督の『流れる』という作品がとても良かったのです。

昭和31年というからもう57年前の東宝作品で、山田五十鈴、高峰秀子、田中絹代、杉村春子、岡田茉莉子…というまさに往年の豪華女優オールキャスト。
こういう「往年の名作」は、テンポや技術や価値観が現在と合わなくて、おうおうにしてスカされる場合があります。
ところがこの『流れる』は、名女優たちの活き活きとした演技に魅せられました。

舞台は、戦後すぐの東京花街の傾きかけている芸者置屋です。
山田五十鈴がそこの女将で、高峰秀子が芸者嫌いの潔癖な娘。そこに女中さんとして田中絹代がやって来る。

山田五十鈴はこんな色っぽかったのか…と思うくらい粋で綺麗です。
だけど、経営者としてはちょっと頼りない。とにかくその場を丸く収めよう…という昔気質。
高峰秀子はそんな母が心配で、そして花柳界という自分の家業が嫌で仕方がない。
こういう「いつも不満げで潔癖な親思いの娘さん」を演じれば高峰秀子の右に出るものはないのではないか…というくらい、高峰秀子も役にハマっています。

それはつまり、芝居が上手い…ということでしょう。

上手いと言えば、古株の芸妓を演ずる杉村春子もスゴイ。
その場しのぎで生きているような調子の良い中年芸妓を、当意即妙…というように軽妙に演じながら、年輪の凄み哀しみもひょいと見せる。

岡田茉莉子は、会社勤めから転じた「現代っ子芸者」ですが、ショートカットがとても似合うコケティッシュ女子。

そして、影のMVPは、山田五十鈴の姉を演ずる栗島すみ子です。

私はこの女優さんを初めて観ましたが、戦前のサイレント映画の頃ブロマイドが売れに売れた大人気女優だったとか。

このすみ子姉さんは小料理屋の女将なのですが、無邪気なところのある妹と違って一クセも二クセもあるしたたかなおばさま。
借金に悩む妹を助けるようで実は出し抜いてしまうのですが、その底知れぬ怖さと凄みをちょっとした目つきや口調で表現する。

いやあ、昔の女優さんたちは皆さんスゴイですねえ。

『半沢直樹』で俳優の表情力を改めて見直しましたが、この作品もまたそうでした。

一見の価値はあると思いますが、もしDVDを借りてご覧になるときは日本語字幕をオンにすることをお勧めします。
この映画もそうですが、昔の日本映画はセリフが聞き取りにくいですからね。