トホホおやぢのブログ.....

アンチエイジング、自転車、ダイエット、スイム、ラン等々、徒然なるままを・・・

業界裏話 溶接種類とその変遷・・・

2020-06-22 19:56:00 | 自転車事情
 試乗会を開催している立場で正直言わせてもらうと、「このフレームは剛性があっていいですね。弾性もすばらしいし・・・」なんて感想をいただくと、正直対応に苦慮(笑)することが実はあるけれど、決して本当の事はいわずに、「そうでしょう!わかりますか!凄いですねぇ~!」なんて、ある意味テキトーにヨイショしておく。これってもしかしたら、真剣に相手にされていない可能性もある。過剛性でお客様のエンジン(脚力)に合わなくても、価格の高い自転車が売れればそれはそれで商売になるからだ。本当の事言って、お客様を不愉快にさせる必要もないしね・・・・・(注ー相談されれば、ちゃんとヒヤリングして本当のアドバイスします)
 巷には、メディアの影響も少なからずあって、安易にカカリが良いだけ(反応が良い事)で、自転車の良し悪しを判断する人が多いので、その傾向に拍車をかけることになる。

 自転車に乗って何をしたいのか?もう一度自問してから、自転車選びをした方が良い。自転車でレースをしたいだけなら、レース機材を選べばよいのだから簡単だ。実は商品開発もその方がある意味簡単なのだ。かつて、オートバイの商品開発の少々関わっていたころ、レースチックなモーターサイクル(MC)よりも、MCが媒体となってライフスタイルを充実させる商品とは何か?なんてコンセプトでモノを作る方が難しかった記憶がある。今風にいえば、「モノより思い出作り、プライスレス」を生み出すような媒体となるべく商品の開発の方が、大変なのだ。
 そんな事をつらつら思うに出来の良いクロモリは、自らのライフスタイルを豊かに演出させるにはピッタリだと思う。かつてトップ選手だった人たちの多くが、引退後をクロモリバイクを選択するのもこの感覚と無関係ではないはず・・・・

 前置きが長くなったけれど、溶接というと、カーボンフレームはとりあえず話題の外になる。ロードバイクの世界では、主にアルミといわゆるクロモリ(スチール)が材料になる。
実は、アルミという素材はその特性上過剛性になりがちだ。弾性力を持たせるために合金にしているのだけれど・・・・前後サスペンションのついたMTBにとっては、軽くて良い材料かもしれないが、サイクリングを中心としたロードバイクには、タイヤを太くするなりしないと特にロングライドには苦痛に感じられることもある。ま、若者は体も柔軟性があるし問題ないと思うけれどね(笑)

 専門家から見れば少々大雑把すぎるかもしれないけれど、溶接種類としては、ロウ付け溶接は、ラグが無いものと、ラグを使用するものを2種類ある。そしてクロモリのみならずアルミにも多用されるTIG溶接。ちょっと脱線するが、今日アルミの材料は、いわゆるクロモリ材料よりもコストが安く、さらにこのTIG溶接は流れ作業が可能なので、生産効率が良い。ママチャリを含め、広く普及しているのは、コストがクロモリよりも安いからだ。ちなみにママチャリではクロモリは、高いので使われていない。使われているのは、いわゆる炭素鋼だ。
 

◆イタリア・ロンバルディア州のハンドメイド Casatiのフィレットロウ付け溶接


じつは、これはステンレス鋼に低温での銀ロウ付け溶接で、すごい手間がかかっている。じつは、一般的なスチールも元々はこの方法で溶接していたのだけれど、手間がかかるのでラグが生まれた。一般的に、普通のクロモリには真鍮ロウが使われることが多い

◆Casatiが得意なフィレットブレージングに塗装したもの Linea oro



◆イタリア・トスカーナ州のハンドメイド Tommasin
iのsintesiラグフレーム
これはロウ付けだ

効率の為に生まれたラグも、時代の変化とともに意匠も考えられトマジーニのような印象的なラグも生まれた。ラグとチューブの間にロウを回すワケだけれど、完璧に溶接されたそれは頑丈で一生ものだ。このラグにようる生産方法も、より効率の良いTIG溶接によって大量生産されるようになる。


◆CalamitaのTIG溶接。日本でデザインされ台湾の名門工房で生産されている

TIG溶接は、ロウ付け溶接と異なり比較的簡単に流れ作業の工程が組める。溶接技術の上手い下手はあるけれど、アルミの類似の溶接で量産が可能なのだ。低温のロウ付けと異なり、接合部の母材にも高温にさらされる。そのためアルミのTIG溶接の場合は、溶接後再度熱処理をするのが一般的だ。


 実は、アルミフレームが増え始めた1990年代に大手イタリアメーカーの多くは、ソビエト連邦崩壊後の東欧でフレームを溶接していた。かつて旧ソ連の軍需産業をささえたTIG溶接の職人が大量に職を失っていたので、コストを抑えた溶接ができた。トラックにアルミのパイプを積んで東欧に運び、帰りにそのトラックで溶接されたアルミフレームを運び、最終仕上げをイタリアでやって、メイド・イン・イタリアとして販売していたのだ。一部の大手のブランドはそれで大きく収益を伸ばし、イタリア国内のハンドメイドにこだわったブランドは、時代の波に乗り遅れたと言ってよいかもしれない。
 実際に同じコロンブスのアルミ部材で、同じカンパのコンポなのに、日本の市場でブランドによっては5~10万円の小売価格の差がでたこともあった。じつはその違いの原因は、東欧の大量生産のTIG溶接か、イタリア職人のTIG溶接の違いだけだ。しかも、精度が出ていれば走りの性能はいっしょだからね。その意味では、昨今フレームのマジョリティであるカーボンフレームも、大手ブランドはヨーロッパだけど生産は中国ってのが当たり前になってきている。

 ロウ付けは大きくわけて、ラグレスフレームとラグフレーム。そして量産に適したTIG溶接。大きく分けてこの3種類があるんだ。

◆Casatiのルッカのフィレットブレージングの様子

https://www.ciclicasati.it/fillet-brazed4699f566

◆TommasiniのチタンのTIG溶接の様子


◆Tommasini工房にてBBラグにロウを流し込む

溶接しているのを見ると、まさに自転車に生命を吹き込んでいるように思えて仕方がない。
クロモリは、掘っておくと錆びてしまうけれど、その弱点さえも生きている証のように思えてしまう・・・・



注)文章中のクロモリの表現は、日本国内ではそれが一般的に高級なスチール系材料のことと理解されているので、最新のオムニクロムやニオビウムを含めたものとして記述している






クロモリは蘇る.....#04

2020-06-09 10:27:00 | スチールバイク
 数々の名選手やオリンピアンを輩出した、チームの監督であり、かつては元名選手であり、そしてビルダーである大先輩に、「クロモリから自転車の乗った方が絶対バイクコントロールは身に付きますよね?」と言ったら、ちょっとはわかってきたんじゃないの~的な返事を戴いて、妙に嬉しかった記憶がある。アルミやカーボン(CFRP)のフレームの多くは、時としてアベレージユーザーには、過剛性のケースが多い。だから”たわみ”を知らないサイクリストは、以外と多い。
 出来の良いクロモリバイクのたわみ(ウィップ)は、乗り込んでいるうちにそれを生かした走り方が身に付く。スムーズなライディングをアシストしてくれるし、時としてそれは別の生命体のように感じることもある。だから、彼女(愛車)として話しかけたりしたくなるのだ。そうなると、思い出の沢山詰まった彼女を、ダメになったからといって簡単に捨て去ることは・・・・・ふつうはできない。

 二人の傑出したマエストロ、安田マサテル・植田真貴の手を経て蘇った このバイクをとくとご堪能あれ・・・・!!


イタリア語で、弾丸を意味する。だからさり気なく弾丸のデザインも・・・・
ちなみに、このバイクのオーナーのニックネームは・・・・
”鉄砲玉”


カラミータのフレームを見たとき、個人的には、もっともセクシーと思っているアングル


どうみても、新品ですよね。


カラミータらしい、フォルム


メインパイプは、コロンバス。チェーンスティはタンゲ、彼女は日本とイタリアの混血になって蘇ったのだ!


ニックネームであってもなんでも、自分のアイデンティティを彼女(愛車)自身にビジュアル化する一体感・・・・ある意味快感!
ですよね~~~~

クロモリは蘇る01~04 おしまい


「クロモリは蘇る.....#03

2020-06-08 16:54:00 | スチールバイク
 2002年6月ジャイカ青年海外協力隊を目指したとある青年、アレルギー体質が理由で最終選考に漏れ、一転無職になった若者がいた。この青年、海外の夢を捨てきれず右も左もわからぬまま、自転車が好きだったという理由だけで、単身イタリアに飛び、とりえずミラノ郊外のカザーティの工房に乗り込んだ。それからペゴレッティやペゼンティが仕掛けたサン・パトリニャーノで、腕を磨き2004年からはズッロで修行。
 しばらくすると溶接・設計から塗装までこなすマルチクリエーターになっていた。あまり知られていないが、ズッロは当時プロッターを使った塗装に関してイタリアの第一人者で、そこで最新の多くの事を学んだ。
 2011年からは、チタンフレームで知られるパッソーニでデザインを担当し、2012年モデルはそのほとんどが彼の設計だ。
 その元青年の名前は、安田マサテル、現在は工房・アトリエキノピオの主だ。 
 こんな凄い経歴をもった自転車職人がいるのは、実はあまり知られていない。ベネト弁のイタリア語をしゃべるズッロフレームの代理店で、木の自転車を売っている変な人くらいにしか思われていないかもしれない。

 実際には、何をやらしても相当高いレベルでこなす職人だ。だからカザーティ連中も彼の腕前を良く知っていて、「イタリアに修理のフレームを送るよりも 日本でマサテルに直してもらった方が早いよ!」なんてことを言い、実際にカザーティのオフィシャルサービスセンターみたいな存在になっている。溶接腕ももちろん秀逸だけれど、今回は塗装だけをお願いし、快く引き受けてくれた。



 こんな経歴の持ち主であるけれど、日本の職人に良くある職人気質といわれるような気難しさは微塵も感じさせないのが、まさにイタリア仕込みの職人らしい。せっかくのお金をかけて復元なんだから、デフォルトのままではつまらないのじゃないとマサテル提案があったので、このカラミータの持ち主のニックネームをイタリア語で、デザインしてもらった。


 それを意味するデザインも....

現在は、PCでこんな風にデザインされて、マスキングの材料やロゴがつくられるのだ
このデザインをこのプロッターというマシンで出力する



実は、塗装の前にはこんな細かい作業が存在するのだ。
そして、いわゆる下塗り・・・
ありがたいことに、下塗りの際に傷つきの部分はパテで埋めて補修してしまう。だから出来上がりは新品同様に・・・・




このように時間をかけて、下地を仕上げていきます。
みえないところに時間と手間がかかっているワケですね。

3層目で、ベースカラーのブラックを塗りますが、塗装がつくとまずいところはマスキングします。





全体を研磨して最後の凹凸修正。BKマット仕上げの場合ロゴ入れをこの段階でします。ロゴ入れを終えると最終マットクリアになります。
*マットブラック というペイントはプロ用のペンキにはありません。BKベースにクリアを施しそのままクリアでフィニッシュするとグロス(ツヤあり)最終層にマットクリアを吹くとマット(つや消し)仕上げになります。









さてさて、結果は如何に!?
作品のお披露目は次回のお楽しみ・・・・



クロモリは蘇る.....#02

2020-06-04 16:14:00 | スチールバイク

 結論から言えば、右側のフレームのように新品同様になる。でも、これらのプロセス、いわば技術やノウハウの多くは、メディアでもあまりとりあげないし、プロショップさんレベルでもあまり知られていないかもしれない。だって、最近のショップさんはまともなクロモリ知らないし、溶接の違いさえ解らない店員さんも少なくない。

 それに、あまり知られていないこんな背景もある・・・・
◆再生できることが広まったら、新車が売れなくなる(大手の考え方)
◆他人の作ったフレームを修理した場合、万一製品不良で事故が起きた場合責任はどうなるのか?また、元々のフレームの材質やパイプの構造もわからないので、それに手を加えるのはリスクでは?(一般的なフレームビルダーの考え方)
◆再生コストがショップではなかなか解らない ビルダー側では実際にモノをみないとわからない
◆日本ではビルダーと塗装が別々のところが多いので、溶接の修理コスト? 塗装のコスト?いったいいくらかかるの? 実際現物見て、やってみなくちゃわからないこともある
◆レース出身のショップさんの中には、自転車は道具と割り切っているので、大金をかけて直す人の気持ちがわからない→悪気無く「新車買った方が、割安ですよ」の言葉がでるのはその為
◆ショップによっては、大手ブランドの販売ノルマが有るので、修理ではなく買い替えを常に薦める可能性がある

なので、なかなか愛する彼女を蘇らすには困難がつきまとうのだ・・・・・・

持ち主との同意を得て、Calamita Due+が、蘇生工場Macchi Cycles(マッキサイクルズ)に送られた。通常ならば、フレーム交換って方法が手っ取り早いのだけれど、たくさんの思い出の詰まった自転車だから・・・・
まずは、ジグに固定されて彼女の身体検査だ・・・・
そして、

さらに新しいチェーンスティが溶接された

タンゲのロゴが見える。もともとはコロンバスだから、彼女はハーフになった(笑)









元々はTIG溶接だったけれど、新しいCS(チェーンスティ)に関してはロウ付け溶接だ

さて、いよいよ次は塗装工程だ・・・・

ここまでの作業は、Macchi Cycles(マッキサイクルズ)に依頼
 ビルダー植田真貴氏 東京サイクルデザイン専門学校、第一期卒業生。新進気鋭のビルダーとして高い評価を受ける。在学中から自ら工房を立ち上げ、卒業後、競輪フレームビルダーの下で腕をみがく。現在独立して、フレームビルダーとして地元滋賀に。ロード、シクロ、シティ車、小径などを製作。ビルダーのみならず、メカニックとしてトライアスロン、ロングライドの大会にも参加している。今回はこの提案を快く引き受けてくれた。

http://www.macchicycles.com/






クロモリは蘇る.....#01

2020-06-03 10:54:00 | スチールバイク

【プロローグ】
 人それぞれの思い入れにもよるが、自転車とは不思議な乗り物だ。感情を少なからず移入して、自転車と向き合う人も少なくない。だから、いろいな思い出を共有した自転車がオシャカになった時は、最愛のペットが死んだ時のように実は悲しい・・・・
 
 かくのたまう僕もそのクチで、特にクロモリフレームに対する思い入れは、カーボンフレームのそれよりも強いと思う。時間を共有する相方(彼女)として、クロモリのバイクに接しているような気がする。一方、カーボンバイクも好きで乗る(特にトライアスロン)けれど、クロモリバイクほど、彼女に対して愛しい気持ちになっていない。いわばloveとlikeの違いかもしれない。例えば、トライアスロンのレース中は僕の未熟さうえかもしれないが、五感に感じる情景に感動して味わう余裕がない。一方サイクリング(クロモリロード)中は、五感で感じたことを愛車に話しかけてる(つぶやいている)自分がいる。特に一人旅の場合は・・・・
 
 つらつら考えるに、レースの制限時間を如何に早くクリアする為の道具としての存在だからかな?と思っている。”好きな道具”であって、”愛おしい彼女”とは思っていないのだ。
 すばらしい情景に出会ったとき、”息をのむ”という言葉のとおり人は無言になり、そしてそれを誰かに伝えたいと思う。そんな時はずっと一緒に走る”彼女”に話しかけてきた。そして、”彼女”もその景色に感動していると感じてきた・・・・・



 様々なアクシデントでその彼女たる自転車が、オシャカになってしまうことがある。でも、いろいろな思い出が詰まった”彼女”ならば蘇らせたいと思うのは、自然な感情だ。
すべての人がそんな感情にはならないと思うけれど、大別するとたぶん3つのパターンだろう。

①オシャカになって、次のバイクが買える!とすぐ切り替えができるタイプ
②オシャカになって、蘇らせる予算と新しい自転車のコストのバランスを考えて、再生を諦めるタイプ。中には壊れたその自転車をなかなか捨てられない人も多いだろう。すごくシンパシーを感じる行動だ・・・・
③オシャカになっても、費用には糸目をつけず、なんとか蘇らせて再生させたいと思うタイプ

 それぞれの人に、いろいろな思いや考え方が有るので、どれも正解だと思う。①や②の皆さんは業界発展維持の為には有難い存在でもある。本来ならば、私も業界人の端くれなので①と②の皆さんを歓迎すると思われがちだが、その昔アクシデントに見舞われ自転車をダメにしたお客様から、「また1台売れますね、うれしいでしょう!?」と言われたときに、気の毒にはおもったけれど、嬉しくはなかったし、正直不愉快だった......
 それはたぶん、その自転車が可哀想だと思った僕の感覚がそんな思いにさせたのかもしれない。交通事故で死んだペットを悲しんでいる本人が、悲しみにまぎれてペットショップに当たり散らすようなものだったのだろうと理解している。だから、きっとそのお客様もそれだけ彼女を愛していたということだ......
 加えて、僕自身がデザインした自転車(Calamita)、輸入にかかわった自転車(Tommasini,Casati,QueenK)は出荷するときは、たぶん父親が娘を嫁に出す感情に似ているかもしれない。荒川サイクリングロード等で、素晴らしい旦那?(お客様)と一緒に楽しくサイクリングしている娘(自転車)を発見した時は、とても幸せな気分だ。だから、娘(自転車)がオシャカになって嬉しい親なんてふつうはいないと思うのだ。
 作り手側の僕自身が、壊れた自転車を再生させたい、お客様もそれを希望するならば、それを実現したいと思う。実はマトモなクロモリバイクならば、かなりの確率で再生して蘇らせることはできる。ただし、購入したコスト以上にかかるかもしれないが、でも沢山の思い出を共有した彼女(自転車)とまた一緒に走ることができるし、これからの思い出を作り続けていくこともできるのだ。アトリエキノピオの安田マサテル氏、マッキサイクルズの植田真貴氏の協力を得て、Calamitaを復活させた経緯を記しておくことにする。

つづく