目指せ!映画批評家

時たまネタバレしながら、メジャーな作品からマイナーな作品まで色んな映画を色んな視点で楽しむ力を育みます★

スーパーマリオブラザーズ ★★★★

2023-05-03 21:29:42 | ★★★★
同名ゲームを3D CGで映画化した作品。
渋谷のTOHOシネマで吹き替え版で鑑賞。(本当は字幕版で見たかったのですが、残念ながら良い時間帯で見られず。)
結論から言えば、大ヒットするのも頷けるさすがの過不足のない出来上がり、鑑賞後に快感のある良作でした。

既に全世界で大ヒットしており、興行収入10億ドルを突破し、このままいけばアナ雪2を超えるヒットも狙えるということでした。
過去、1980年代にファミリーコンピュータというゲーム機とともに一世を風靡した髭男は今度は映画界を席巻しているわけです。
日本のゲームソフトメーカーであり、ゲーム機メーカーでもある任天堂からこうした大ヒット作品が生まれたことは大変に興味深いことだと思います。
なぜなら、任天堂はこれまでもこうしたチャンスはあったはずですが、ゲームのIPを使ったエンタメ作品展開はやってこなかったわけです。
そして、それはなぜかといえば、過去に1993年頃、ハリウッドで50億円もかけて実写化され大失敗した「スーパーマリオブラザーズ 魔界帝国の女神」が存在しているから、ということになるのかもしれません。こちらはゲームとも相当設定を変えて話を展開しています。色彩豊かなマリオの世界観を表現できていたとは言い難い作品でした。
映画というのは大変お金がかかる上に失敗するとイメージ戦略上もかなりのマイナスになるわけです。
例えば、日本のRPG超大作だったファイナルファンタジーも3D CG映画化で大失敗し、結果、スクウェアはエニックスと統合するしかない、展開を迎えることになってしまいました。ハリウッドは鬼門だったわけです。
また、あまり誰も語りませんが、1986年「スーパーマリオブラザーズ ピーチ姫救出大作戦!」というアニメ映画も過去に制作されています。何気にマリオの声は古谷徹だったり、和田アキ子や山瀬まみが出演クレジットにも名を連ねていたりします。この作品のプロットはWikipediaでも確認できます。(昔、なぜかこのアニメのダビングされたビデオが家にあったので、よく見ていました。)この作品と今回の作品を比べてみると時代の変遷を感じられて面白いかもしれません。ゲームの世界に入り込むような話ですが、そこはトロンっぽさもある感じです。
一方で、任天堂といえば、ポケモンというキラーIPがあり、こちらでは世界中でアニメが放映され続けており、ポケモンカードは今や社会問題になるような状態にまでなっています。また、ハリウッド映画としても近年、名探偵ピカチュウという予想外の作品でヒットを飛ばしたことで、任天堂の中でもIPに対する考え方は大きく変わってきたように思います。(ポケモンはスマホゲームとしてポケモンGoでもナイアンティックと組んだことで世界中で大ブームとなりました。このゲーム展開でも数千億円の収益があったといわれていますが、任天堂本体にはそこまでキャッシュインはなかったようでした。これはスマホアプリとしてスーパーマリオランが出た時も同様だったようです)
任天堂はあくまで、IP展開としては自社ハードを第一義に取り扱い、USJなどで少々横展開こそあったものの、ここまで本格的にマリオの映画化に取り組んだのはかなり意外に感じた人が大多数だったのではないでしょうか。イルミネーションとの合作ということで、内容は大変、面白いものに仕上がっていました。
音楽の使い方も80年代をふんだんに使ったり、ゲーム中の音楽の見事なアレンジがあったり、クッパに歌わせたりピアノを弾かせたりとやれそうなことは何から何まで全方位でした。
ゲームとしても様々な作品への目配せが効いていました。
マリオとドンキーコングJrが戦う大乱闘スマッシュブラザーズ的な展開、はわかりやすかったですし、マリオカートやレインボーロードもまた非常にわかりやすい展開でしたが、「ルイージマンション」まで入れ込んでくるのはなかなかにマニアックでしたし、スーパーマリオギャラクシーのキャラクターを出したり、ヨッシーもカメオで出したり、と過去作品のオマージュもふんだんに使われていました。
各任天堂の作品自体がメガヒットして世界で何千万本も売れている作品であるからこそ、この折り重なるように見せてくれる数々の懐かしの作品のオマージュは楽しめるわけです。
マリオが序盤でピーチ姫に特訓されるシーンはまさにスーパーマリオの世界観そのものです。きのこを食べなければ強くなれない設定やダメージを受けると効果がなくなるという不思議設定もさらっと刷り込んできます。この辺りの自然さが憎いところです。
キノピオたちの役立たず具合や「こんなに可愛いのに」も痛烈ですし、どのシーンもニヤニヤしながら見てしまいました。

さて、そんないろんな細かい話はあるわけですが、お話の本筋として、「ピーチ姫を助けるマリオ」という図式はそこまで変えずに、「兄弟の絆」を主題に持ってきたのはなかなかクレバーな展開でした。序盤のシーンでも分かるわけですが、今や、女性は「守られなければならない弱い存在」という時代ではありません。それはアナ雪で散々、描かれたわけです。強い女性像、戦う女性像、たくましい女性像が今のハリウッドやアメリカ社会では求められている。別に「髭の小男」に、本当は守ってもらう必要など、ピーチ姫にはないわけです。なんなら、ほぼ全編、ピーチ姫はクッパと互角に戦っています。マリオが弟のルイージを助けなければならなくなるからこそ、ピーチ姫とも共闘した、というのがまさに図式としては妥当なわけです。ポリコレ的な反発も受けづらい。この辺りの「バランス感覚」はさすがだなあとしみじみ感じます。

序盤、マリオとルイージは配管工業者を立ち上げ、スーパーマリオブラザーズプランビングという会社を立ち上げています。(このロゴやTVCMがまたなかなか秀逸)サラリーマンを辞めて、起業しているわけですね。配管工って冴えないイメージがあるかもしれませんが、実際にはアメリカで配管工などのブルーカラーなガテン系の業者のコストって結構高くてですね、ブルーカラーの給与というのもきっちりダイナミックプライシングが効いており、高騰しています。そのため、日本でのイメージで配管工を語ると結構間違った理解になるようにも思い、アメリカのニューヨーク、ブルックリンで会社を立ち上げていきなりTVCM作成して、アピールするあたり、割とマリオは戦略的なビジョンは持っていたのかなあとも思います。異常気象が続いているせいか、実際、ニューヨーク、ブルックリン周辺では洪水だったり、も起きていたりもするので、何気に喫緊の課題だったりもするかもしれません。皆さんが思い描いているよりもニューヨークの街は古臭いし、草臥れているし、様々なインフラが相当弱っています。地下鉄も含めて、心地よい場所ではないわけです。そのため、需要というのは結構あるのではないかなあと。とはいえ、大変な仕事なので、誰しもがやりたい仕事ではないのかもしれませんね。

で、気の弱めなルイージをマリオはいつも励まして助けてきたわけで、兄弟で協力して物事に取り組んできたけど、周りからは理解されず、馬鹿にされてばかりきた。せっかく最初の仕事が入ってもうまくいかない、本当に踏んだり蹴ったりの中でたまたま出会した事態からキノコ王国へ行く羽目になる、と。
ルイージというキャラクターは元々、ファミコンゲームで二人プレイをするためにできたキャラクターなわけです。そんなルイージとマリオの絆を中心に話を構成することで、誰もが共感しやすい話に仕立てたのはさすがイルミネーション、さすが宮本茂ということになるのでしょうか。
宮本茂のインタビューを読んだりしていると、今後も様々なIPが映画化される可能性は感じられますが、できそうなものと難しそうなものがありますね。「星のカービィ」などは難しそうと思う一方で、「ゼルダの伝説」や「ファイヤーエムブレム」などはぜひドラマで展開してほしいと思わされます。

お話としてはニコニコして見ていられる万人受けするお話に仕上がっていますが、なぜか見ていてジーンとくるものがありました。
それはなぜなんだろう、と思うと、私のように生まれた頃からファミリーコンピュータと育った人間にとってみれば、マリオはずっと「そこにいた存在」だったわけで、幼少時に親も含めて、「何百回とプレイしたゲーム」がそれだったわけです。そんな「原初体験」がそのまま、鮮烈にしっかりと映画の中でイキイキとキャラクターが喋り動き回り、躍動感のある様をお約束も含めて、これでもか、と見せつけてくれたわけです。しっかり、キャラクターが描きこまれており、人間ドラマもあるわけで、そうした現代技術の進歩によってようやく描き込め表現できるようになったこれらの日本のエンターテインメントの千両役者であるマリオが世界で活躍する様を目の当たりにして、じんわりと感動したのでした。




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