目指せ!映画批評家

時たまネタバレしながら、メジャーな作品からマイナーな作品まで色んな映画を色んな視点で楽しむ力を育みます★

おおかみこどもの雨と雪 ★★★★★

2013-04-07 17:33:17 | ★★★★★
おおかみこどもの雨と雪

飛行機で観てたら最後まで観られずとても気になっていたので、仕方なくBDで再度観ました。かなり後半まで観ていたのですが、これは最初から観直して大正解でした。雨の日や嵐の日に観るとほっこりとした気持ちになれますね。

色んなところで既にたくさん語られているので、改めて言うことでもないのですが、私がこの映画を観終わって思ったのはこの映画は「"おおかみおとこ"でなくても成立する、」ということです。
だから、しょうもない話だとかそういうことではなくて、むしろ、それくらいに子育てとか家族のこととか人生のこととか、生きづらい都会や田舎の暮らしの難しさのことを克明に描いていると言うことです。素晴らしい映画です。観てよかった、と心底思いました。むしろ、劇場でなぜ観なかったのか。先入観にとらわれてはいけませんね。
今のところ、私は、おおかみこども>時をかける少女>サマーウォーズの順で好きです。

ネタバレします!

(概要)
「時をかける少女」「サマーウォーズ」の細田守監督が、「母と子」をテーマに描くオリジナルの劇場長編アニメーション。人間と狼の2つの顔をもつ「おおかみこども」の姉弟を、女手ひとつで育て上げていく人間の女性・花の13年間の物語を描く。「おおかみおとこ」と恋に落ちた19歳の女子大生・花は、やがて2人の子どもを授かる。雪と雨と名づけられたその子どもたちは、人間と狼の顔をあわせもった「おおかみこども」で、その秘密を守るため家族4人は都会の片隅でつつましく暮らしていた。しかし、おおかみおとこが突然この世を去り、取り残されてしまった花は、雪と雨をつれて都会を離れ、豊かな自然に囲まれた田舎町に移り住む。「時をかける少女」「サマーウォーズ」に続いて脚本を奥寺佐渡子、キャラクターデザインを貞本義行が手がけた。(以上映画.comより)



誰もが直面する子育ての苦労、都会の生きづらさ、田舎の自然の厳しさ、学校生活の難しさ、こういうことをアニメならではの躍動感で描いているのが、この映画なのだな、と感じます。
おおかみこどもたちはやんちゃに走り回り、部屋の中をぐちゃぐちゃにしてしまいます。ティッシュは引っ張り出すし、食べ物はこぼすし、戸棚は全部開けてよじ登ってしまいます。でも、これ、普通のこどももやってしまうことなんですよね。おおかみのこどもだから、柱齧りがプラスされますが、まあ、せいぜいそんなところで、誰もが大人を困らせた行動なのですよね。
おおかみおとこは物語序盤でいなくなってしまいますが、これもまたよくある話でして離婚であったり死別であったり子育ての重圧から来る失踪だったり、世の中にはありふれた話です。(遺体をゴミ収集車に放り込まれる、と言うのはいくらなんでも実写だと残酷描写だなあ、とは思います。ここはアニメでよかったところ)
雪の「匂い」からのひっかきエピソードも別におおかみ、でなくてもよかったりするし、雨が家を出て行ってしまう話も含めて究極的には全てにおいて、"おおかみ"を別のファクターに置き換えてもお話は成立します。
でも、そんな話だからこそ、おおかみというファクターを入れ込むことによって絵的な面白さとお話としての物珍しさも取り入れることが出来、作品としては結果的に面白さはプラスされていると思いました。あ、あと、おおかみである、と言うことで、描写が端的に描きやすい、と言うのも感じるシーンがいくつかありました。

おおかみこどもの母親である花は通っていた大学を中退し、頼る両親がおそらくおらず(劇中父親の葬式があったことが語られる)、田舎町に移り住むわけですが、(ロケハンは富山で行われたようですね)移り住んだ古民家がまたかなり古く、住むのにも一苦労、子育てともあいまって大変に苦労するわけです。彼女はくじけそうになりながらも、次々と目先の課題をクリアしながら、ご近所さんとも徐々に仲良くなり、畑で野菜を育て、こどもは小学校に通うまでになります。
この映画は前半の花の苦労話と、後半の雨と雪のこどもから大人になっていく様を描いた話になっています。

花は序盤から芯は細そうに見えてなかなか肝のすわった女性であり、結果的に1人でこども2人を育て上げます。(結果的に雨は山に行ってしまいますが)
まさに母は強し、を地で行く展開なのですが、そんな彼女が一番動揺するのは旦那さんが亡くなった時でも、野菜が枯れてショック受けてる時でもなく、息子の雨が山に行ってしまうシーンなのですよね。親の子離れを最後に描く、という意味でここで初めて、花は一段成長するのですよね。この先のエピソードが無いのが残念ですが…。

雪の告白シーンは映画の中でも白眉のシーンです。
嵐の日に、小学校にこっそり隠れて残って窓を開けてカーテンが揺らぎながら、姿が人間からオオカミになり、そして、また人間になる。それを、同級生にずっと言えなくてごめんね、と謝りながら涙を流すのですが、ここは涙なくして観られない名シーンではないかと思います。(よくよく考えるとこれもセリフや見せ方まで計算して実写でやろうとするととんでもなく難しく、小説だとこの美しさは伝わらず、まさしく"アニメならでは"のシーンだと感じます。)
この同級生との一連の話は最初の「お前ん家、ペット飼ってるだろ?なんか、獣の臭いがするんだよなあ」から始まるわけですが、全てに殆ど無駄がなくよく考えられた展開だなあ、と思いました。これは映像作品ならでは、ですが、確かに匂い、というファクターは言われなければわからないポイントであり、ここを第一次成長を迎えつつある小学校四年生の女の子に無神経に同級生の男の子が投げかけてしまうところまでいちいちリアリティあるなあ、と。

細田守作品の端的に素晴らしいところをいくつか挙げるとしたら、みなさん、食べ物の美味しそうな描き方を挙げると思います。おおかみおとこが雉を狩ってきて、雉で鳥雑炊を作ってあげる描写などはかなり印象に残ります。食べ物美味しそうに描く、と言うのはアニメでは実は何気なくとても大事なことでして、観ていてほっこりするんですよね。

その他、雨と雪の本格的な喧嘩のシーンなどはこれもまたオオカミに変身するからこそ、やたら激しく家中めちゃくちゃになってしまいますが、「丁寧に母親が掃除して手入れしてきた部屋をあっさりとなぎ倒す子供ら」と言うのも子供の時と親からの目線では違って見えるでしょうし、(花が夫の写真が立ってる本棚をなぎ倒されたときに、一瞬「ああっ」と言うあたり、彼女の心の支えがその写真だったりする、と言うのもまた描かれてて芸が細かい)小学校高学年になると、男の子と女の子では徐々に喧嘩した時の力も逆転し始めたりする、と言うのもリアリティのあるお話です。

挙げればきりがないのですが、この映画はそういった細かい所作の描写の積み重ねで話が構成されており、美しい自然の描写やとても現実的な目線で話が積み上げられてるのですよね。アニメならではの描写とうまく組み合わせつつ、きちんと最後まで隙なく描き切った細田守は完全にジブリとは違う「親が安心してこどもに観せられるアニメとしての細田守ブランド」を作り上げつつあるのではないかな、と確信した作品になりました。次回作にも大いに期待したいと思います。今度は絶対映画館で観たいですね。


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