目指せ!映画批評家

時たまネタバレしながら、メジャーな作品からマイナーな作品まで色んな映画を色んな視点で楽しむ力を育みます★

川の底からこんにちは ★★★★

2011-05-05 16:31:57 | ★★★★
川の底からこんにちは。
DVDで鑑賞。



(あらすじ)
OLの木村佐和子は上京して5年目で、仕事もさほど熱心ではなく、恋人の健一はバツイチで子持ちの上司という、妥協だらけの人生を送っていた。そんな彼女にある日父が入院したという知らせが入り、田舎に戻って家業のしじみ工場を急きょ継ぐように言われる。佐和子は乗り気ではなかったのだが、田舎暮らしがしたい健一の意向もあり、結局連れ子と3人で行くことになる。
(以上Wikipediaより)

満島ひかり見たさで相方の希望で鑑賞。悪人、愛のむきだし、と観てきたけどこの子、凄すぎるよ。満島ひかりは本当に凄い女優かもしれない。というか、現時点ではそうだと言えます。この映画のラストカットを観ていて本当にそう感じました。順番としては、この映画の後、愛のむきだし、悪人と出演してる事を考えると着実に映画女優としての階段を登ってるように感じる。どうかこのまま、ドラマとかにシフトせずに映画女優としてのキャリアを築いていってほしい役者さんですね。
それにしてもこの映画での彼女は凄い。愛のむきだしや悪人ではあくまでone of themな役柄でしたがこの映画では終始彼女にフォーカスを当てていて見応えある演技を披露してくれています。この映画では役者もそれぞれ、非常に見どころある演技を披露してくれていて素晴らしい世界観を構築するのに一役も二役も買っています。主人公の叔父役の岩松了はかなり味のあるお酒好きの優しい叔父で観ていて微笑ましくなります。加代子役を演じた子役の女の子もかなり見どころのある役でしたね。幼女殺害事件のニュースを観た後の「殺さない?」のくだりはかなり面白かった。


ここから少しネタバレしますので未見の人はぜひ観てみてください!オススメです。




私がこの映画が好きな理由はお話や随所に挟まれるブラックな笑いや社歌だったりするのだが、それ以上に田舎の描写に感じ入るところがあった。
私も自他共に認めるど田舎の出身だが、田舎という排他的な、それでいて中に入り込んでしまえばそれはそれで暖かい空間を見事に描いていて、この映画を観ていて実家にもたまには帰らないとなあ、と思わされた次第。主人公の佐和子が目的もなく田舎を駆け落ち同然で飛び出して、寄る辺もなく何度も転職して、何度も彼氏に捨てられて、それでも中々実家に帰られなくて、親が病気になってなんだかんだで成り行きで実家に帰る羽目になる一連の置かれてる立場にはかなり共感するものがあった。私も実家を出て、寄る辺もなく関東で働き、実家には親がいるだけ、という状況では同じような局面がいずれ訪れるのでは、と思わざるを得ず、そういう意味で強く共感を覚えた。佐和子は帰りづらかった実家であれこれと嫌がらせを受ける。主に駆け落ちした事を陰口叩かれるわけだが、別に田舎の排他性というのは駆け落ちなどでなくとも発揮される。基本的には余所者には冷たいのが田舎であり、親しいものには優しいのが田舎なのだが、その空気の密度に耐えられないで都会へ飛び出す若者は結構多いと思う。若者が少なくて農業や家業を継いでもらえずに衰退していくしかない過疎化していく田舎はこの国ではどこにでもある風景なのだ。住めば都とはよく言ったものだが、田舎の閉塞感は田舎のコミュニティそのものが持つ密接性からくるものだから皮肉な話ではある。
そんな佐和子がぶち当たる父の危篤、バツイチの彼は同級生に当て馬に寝取られ、会社のおばさんたちには陰口叩かれ、街中でも通りがかりのおっさんに野次られ、連れ子を保育園に連れて行くと他の母親連中にもごにょごにょと陰口を叩かれる。しょうがない、しょうがない、で通してきた主人公が一念発起してブチ切れるシーンは本当に溜飲が下がるシーンになっている。やるしかないんだからね!と言って、踏ん張っていく姿が観ていて魅力的。強い母親、強い女性として事象に立ち向かっていくわけだ。田舎でやっていくためには、信頼を勝ち取る事が何より重要であり、佐和子は会社で一定の成功を収めていく事で、会社のメンバーからの信頼を勝ち取り、徐々に田舎という閉塞社会でも地位を築いていくのである。この流れだけとってみても田舎の人間からすると、楽しい映画だったなあ、と思える。きちんと佐和子の成長物語になっている。

この映画では彼氏がまたダメな男で、最近、さんかくと言い、ダメな男の映画を観る機会が多く、情けなくなるのだが、まあ、本当にダメな彼氏なのだが、彼氏が色々と序盤から散りばめたワードが色々とこの映画の影のテーマになっていてそれも観ていて面白かった。
佐和子は俺の事、好きなの?と二言目には言い放つ彼だが、映画の終盤では佐和子に、好きとか嫌いとかそんな話をする前にやる事があるだろうがッ!と喝破されている。

また、序盤からゴミの分別だとかエコライフだとか口にする彼に対して、汲み取り式便所の糞尿を川のそばでばら撒く佐和子が対比として描かれるわけだが、彼はその糞尿に顔をしかめ、見ているだけだ。
しかし、この川のそばでは美しい花が咲き、その花は父と佐和子の間にあったしこりを取り除き、また、終盤では大きなスイカが実り、そのスイカを会社のメンバーと一緒に佐和子は食べている。
更に、佐和子の父は佐和子に俺が死んだら散骨してくれ、その栄養で大きなシジミが取れる、そのシジミを食べてくれ、というやり取りがあり、佐和子は映画の終盤で本当に川に散骨している。
敢えて台詞でも佐和子には言わせているが、ここには真の循環型社会というものが描かれており、彼氏が最初のうち何度か口にしていたエコなどというものが都会生活者のエゴでしかない事を痛烈に批判している。

この手の批判意識はどうやら監督には根付いているのか、社歌2でも倒せ、政府、みたいな激しいフレーズが取り入れられていた。ジョークとも取れるが、割とマジなんじゃないかな、とも思える。この社歌2はかなり爆笑モノでその歌詞の内容もそうだし、歌の難しさや一度歌ったら疲れること必至の展開がかなり笑えるものになっている。

佐和子は水産会社を社歌2と豆腐屋ジョニー的発想のパッケージや売り方に凝る事で映画内ではある程度立て直す事に成功するが、ここは少々安易に感じた。少し、その手の佐和子がパッケージにこだわるアイデアを得る描写が映画の序盤で織り込まれるともう少し映画の説得力も上がったのだが。ここだけはこの映画のちょっとしたマイナスポイントであり、残念なところではある。

また、母親というのもある種のテーマになっており、佐和子の母親の不在と加代子の母親の不在とがリンクしながら水産会社のメンバーとの関係もからみながら進んでいく。
田舎という閉塞社会では母親の不在という事もそうだが、継母であるとか、そういう普通とは違う事についても極端に忌避する傾向がある。そういった諸々の問題を佐和子は水産会社のメンバーとの関係性の中で母親の不在を乗り越え、また加代子もまた佐和子との関係によって乗り越えていくのが素晴らしかった。こういったテーマを同時に一つの映画に織り込んで描き切るのはそう簡単ではないと思えるだけにこの監督の構成力と脚本には驚かされる。

全体的に観ても非常に面白い映画であり満島ひかり目当てで観ても普通に観ても相当楽しめる作品には違いないと思う。

(満島ひかりはこの映画の監督の石井裕也監督と結婚してたんですね~。よくある話ですが、監督ってやっぱり、ファインダー越しに女優を観ているうちに好きになっちゃうのかな。)


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