Light in June

文学やアニメ、毎日の生活についての日記。

百鬼園随筆

2010-10-17 23:08:49 | 文学
百のこの随筆は、ロシアの思い出とも重なっています。ぼくはロシアで、この本を読みました。

ロシアでは、外出するでもないしレッスンを受けるわけでもない、という暇な時間が思ったよりもたくさんありまして、生活に慣れてくると次第に退屈するようになりました。ある日、ぼくはちょっとお腹の調子が悪くて家で一日中横になっていたのですが、そのときあんまり退屈で退屈でしようがなかったので、日本から持参した百の本を読むことにしました。

実におもしろい。日本にいるときは、これほどまでじっくりと読書するということがなくなっていたので、そのせいもあって本当に楽しめました。百のこの随筆は、ぼくに読書の楽しさを教えてくれました。

家にいるときは、読むスピードのことだとか自分には時間があまりないことだとか日本語の本を読んでいる暇などないことだとか、そんな様々なことが気になって、碌に読書に集中することができないでいました。読み始めたらとにかく早く読み終えることを目標として、内容なんて頭に入っていなくてもどんどん先に進んでいました。でも、これでは読書の楽しさなんて味わえるはずがなかった。実際、ぼくにとって読書は既に苦痛以外の何物でもなくなっていました。

ところが、早く読むことがむしろ損になるような状況、暇を持て余していてなるべくゆっくりと本を読み進めたいような状況においては、ぼくの読書スタイルは一変しました。一言一句を見逃さないように、何度も言葉を反芻して、味読する。そしてそのような要求に見事にこたえてくれたのが、百の随筆でした。いやあ、ちょっと昔の日本語の表現っていうのは、なんとすばらしいのでしょうか。読んだとしても無味乾燥な論文だったり、最近の翻訳だったり、としばらくの間は現代日本語にしか接していなかった人間にとっては、久しぶりに読んだこの昭和初期に刊行された随筆ないし小説は、本当に新鮮で、瑞々しく、滋味深く、雄渾であり且つ飄々とし、けれども風格があり、語彙が豊富で、絢爛たる言葉の大伽藍でありました。絶賛ですよ、そうです、絶賛です。しかも、内容がめちゃくちゃおもしろい!借金話のくだりや森田草平とのやりとりなど、声を出して笑いたいくらい。

後半はちょっとユーモアが薄まった感があり、ぼくは前半(ちょうど真ん中くらいまで)の方が好きです。昔から彼の短編に惹かれていましたが、もはやぼくは格別な思いで百を見ることになるでしょう。読書の楽しさを文字通り思い出させてくれた作家として。そしてそれが百でよかったとぼくは思うのです。

それにしても、日本でも同じように読書を楽しめるかなあ。

最近買った本

2010-10-17 00:35:51 | 本一般
最近買った本です。洋書は除いて。

タルモ・クンナス『笑うニーチェ』
土田知則『間テクスト性の戦略』
ヘッセ『世界文学をどう読むか』
E・H・カー『ロシア革命』
ベルジャーエフ『新しい時代の転機に立ちて』
エレンブルグ『チェーホフ 作品を読みなおして』
ミシェル・エレル『ホモ・ソビエティクス 機械と歯車』

最初の本は、ニーチェの笑いに注目したもの。って、そのまんまですが。
2番目のは、もう2回読み直している本で、今までは図書館で借りていたのですが、ようやく入手することができました。入門としても応用としても役に立つ、よい本だと思います。
ヘッセの本は、前々から知っていましたが、今日は気が向いたので買ってみることにしました。いつか読もうかしら。
『ロシア革命』は、通読することはないような気もしますが、ちょっと調べたいときにでも使えるかな、と軽い気持ちで買いました。まあ使えなくてもいいや。

ベルジャーエフの論文はたぶん初めて読みました。この本は第二次世界大戦の後に書かれたもので、英語からの重訳。幾つかある章の中から一つを早速読んでみましたが、なかなか興味深いことが書かれてはいる。でも、ちょっと強引にロシア賛美に傾いていて、やはり首を傾げざるを得ないところも。例えば、ロシアの急速な工業化は人間の人格を否定するものであったが(機械文明をベルジャーエフは否定している)、資本主義による工業化を達成したイギリスにおいてもそうだったはずであるし、またそれはヒトラーの侵略からヨーロッパを守ったのである、と自己弁護。う~む。ホミャコフ由来のソボールノスチの理念を説明するところはおもしろかったですが、でも難しい問題ですね。それにしても、勉強しなければいけないことが山のようにあるということを改めて教えられました。

エレンブルグの本は前から目を付けていたのですが、500円だったし購入することに。どうも自分はチェーホフに絡めとられている気がする・・・

最後の本は、どうやらソビエト社会における人間の様相を描き出した著作であるようです。もとは3200円のそこそこ厚い本ですが、840円で売られていたので、たいして評判にならなかったやつかな、なんて危惧していたのですが(崩壊前に書かれている)、うちに帰ってからもう一度中を点検してみると、とてもおもしろいことが書かれていて、なかなかどうしてよく調べられているではないですか。ただ、訳者がスラヴ系の専門家ではないためか、ミウォシュをミロシュと表記していたりして、他にも同様のミスが心配ですが、でもさっと目を通したところでは翻訳文自体はけっこう読みやすそう。近いうちに丸ごと読みたいですね。

あ、小説が一冊もなかったな。