Light in June

文学やアニメ、毎日の生活についての日記。

ドラゴエモン

2010-10-03 23:01:57 | 文学
つい先ごろ出た、ハルムス著『シャルダムサーカス』(田中隆訳、未知谷)を読みました。
で、どうしても翻訳が気になってしまう。例えば、冒頭の作品「悪戯ヒューズ」。この小説には主要な登場人物としてドラゴエモンなる少年が出てくるのですが、この名前、気になりませんか。気になるはずです。日本人なら絶対と言ってもいい。まず連想するのがドラえもん。そしてドラゴン。人によってはドラゴンボールや五右衛門も思い浮かぶかもしれません。なんなんだこの名前は、と思って原文に当たってみました。すると、この少年は「グロムカガバリーチェリ」と呼ばれていることが分かりました。あだ名です。本名はセリョージャ。ではどうしてこんなあだ名で呼ばれているのか。訳書『シャルダムサーカス』からちょっと引用します。

「ドラゴエモンというのはセリョージャ チーキンの事で、セリョージャはいつだって思い切り大きな声でしゃべって、小さな声で話す事ができなかったのです。」

この部分、実はセリョージャのあだ名の説明をしているのですが、グロムカガバリーチェリがドラゴエモンに変更されているため、意味不明のものとなっています。グロムカガバリーチェリだって意味不明じゃないか、とお思いの方、そうではありません、グロムカガバリーチェリというのはあだ名ですからちゃんと翻訳可能で、これは「声デカ」とか「うるさ屋」とかいうふうに訳すことができます。

つまり、「声デカとはセリョージャのことで、彼はいつも思い切り大きな声で話していたのです」という内容になるのでした。では、なぜ「ドラゴエモン」とわざわざ訳されたのか?恐らく、「ドラゴエモン」という名前に「大きな声で話す人」(まさしくグロムカガバリーチェリの直訳)、という意味が込められているのだろうと思います。そうとしか考えられないので、ちょっと検索をかけてみたのですが、ゴエモンでヒットしすぎて、ドラゴエモンという名詞はネット上で見つけられませんでした。まあ10秒くらいしか調べてないので、後でどなたか試してみてください。そして、ドラゴエモンという名前が「大きな声で話す人」という意味を有している用例等を教えてください。ぼくはこの名詞は初耳だったのですが、ひょっとして巷では常識なのでしょうか。

他にも、別の作品において、「四番目に、行くが行って見てみると、道端で・・・」とかいう表現があったので気になってやはり原文に当たってみたところ、ごく当たり前の文で、「行って見てみると」となっていました。最初の「行くが」って一体なんなんだあ、といまだに頭を悩ましているところです。

ちなみに、この『シャルダムサーカス』という本は、去年くらいにロシアで出たあるハルムス作品集を参考にしているようで、児童向け部門の作品のチョイスや配列が同じでした。そうではない作品もありますが、でも裏表紙で謳っているような「厳選」ではない気が・・・いや細かくてすみません・・・。

それにしても、ハルムスの翻訳が次々と出るのは大歓迎です。今度は戯曲をたくさん集めた作品集が出るといいな。