稽古なる人生

人生は稽古、そのひとり言的な空間

No.88(昭和62年9月10日)

2020年01月06日 | 長井長正範士の遺文
○吉田先生は私に竹槍の作り方を教えて下さった。先ず竹の長さは七尺だ。その先の節の根元から六寸の長さにハスリ切り(斜切り)、はまぐり形にして灯油をつけ、火にあぶり、藁に包んでこれをくり返す。又、根の方は三寸の節を残し、三寸の所に五寸の藁をつける。これはすべり止めと負傷した時に使うためである、と。

○袋竹刀の作り方
図(下の右側)のような竹を割って革を被せた。
剣道家は木刀ぐらいは自分で作らねば一人前ではない。竹刀も自分で作る心がけが大切と。吉田先生からひと通り教わったが、これとて剣道の稽古と一緒で数をかけねばならぬ。ところで吉田先生が七十六才の時(私が先生より二十五才下だから当時五十一才の時)、全国武者修行をされ、その記念にと私に椿の古木で作られた木刀を頂きました。朝げいこの一部の方にお見せして、その木刀の振り方をお見せ致しましたが、これは大変参考になると思いますので、他の皆さんのため、次に木刀の大体のところを略図によってご紹介いたします。



○大体、上(上の図の左側)のような重さ、長さ、巾、廻りの寸法で、鍔はありませんが、先生の居宅の裏山にあった椿の古木を切って自然の木目、皮はだを生かし、物の見ごとに作られた逸品であり、私の大切な木刀であります。

○所でなぜ上のように、あえて図を画きましたのは、この木刀で素振りをする方法と目的に大いに関係があるからです。ひとことで言うと実は足腰を鍛えるために作られた木刀であるのです。この重い木刀を黙って人に渡し「素振りしてごらん」と申しますと、普通の木刀を持つようにして、この重い木刀を懸命に振りかぶり両腕や両肩に力を入れて素振りしますが、これでは手や腕、肩に大変力を入れないと振れないのです。かえって何のための木刀かということになります。これは次の方法でやるのです。先ず両手の間際を離さず柄頭一杯につめて握ります。すると上図の「ニ」の約18センチぐらいまでを握ったことになります。体は真っ直ぐに立って、足は正眼の構えに開き、右足の前、約15センチぐらい(身長により加減のこと)の所に切先を静かにおく。次に木刀を持った両手首をやわらかくして(ここまでの姿勢格好は丁度ゴルフの、将に球を打たんとする直前の呼吸を(続く)

註:この木刀について
これは私にだけ頂いたものではなく数名の先生方に記念として差し上げられたので、一つ一つ皆、椿の原木から切りとられる関係上多少違っております。然し私はこの木刀をこよなく愛し、長年つかっている間のツヤと重量感はなんとも言えない逸品です。
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