Y's クロニクル

旅行等の一生思い出に残る事から日々の小さな出来事まで少しずつクロニクルに残せたら・・・と思っています。

映画「ヒトラー最後の12日間」を見た。

2015-11-04 22:03:57 | TV・映画の感想、書評など

ヒトラーってあまりにも有名で知ってるつもりでいたけれど、独裁者で~選民思想で~
「アイル・ヒトラー」って手をあげて~ 歴史上最高の部類の悪人で~って事くらいしか
よーく考えたら知らない・・・

文化の日はとても穏やかなお天気で、にもかかわらず珍しく二人だけの休日。
暇なのに夜にこれといって見るべきTVもなく、こんな時のお助け動画サービス。
「ヒトラー最後の12日間」を見た

2004年のドイツ映画。アカデミー外国映画賞にもノミネートされた作品。
正確にはドイツ、オーストリア、イタリア共同制作だけれど、ドイツでヒトラーの映画が制作されたのは
これが初めてなんだって~それくらい国内ではタブー扱いなんだろう。

主演はモノホンかと見まごうばかりのブルーノ・ガンツ
ブルーノ・ガンツといえば「リスボンに誘われて」にも出演していたスイス出身の名優。
まったくヒトラーに似たところはないのに、この映画ではクリソツ~

それにしてもガンツですよガンツ。名前にインパクトあるわ~
私の場合、単にガンツ&ローゼズからのイメージですが・・・ちがう?ガンズ&ローゼズか~
お若いお方は知らんかの~’80に一世を風靡したロスが生んだハードロック・バンドですたい!

おっと・・・話を映画に戻してっと・・・

この映画はヒトラーが地下で過ごした12日間をヒトラーの個人秘書をしていたユンゲの目を通じて
ヒトラーと彼を取り巻く人々の物語で、歴史家の書いたノンフィクションとユンゲの回顧録を原作としている。

見終えて劇中、涙が出るようなことはなかったけれど、見終えてなぜかしら涙が込み上げてきた。
それがなぜだかはっきりとはわからないでいるんだけど・・・


2時間35分中ほぼ地下壕が舞台のスタティックな映画にもかかわらず、全く長さを感じなかった。
スタティックと書いたが、もちろん外ではソビエトが包囲し至る所が爆破され、怪我人は
この地下壕の医療施設に搬送され、負傷した手足をどんどん切り落としてしまうシーンなどはあるのよ

実在のユンゲ自身が映画の冒頭、最後に独白という形をとっている。

「若さは言い訳にはならない。目を開けていれば気づいたはずだ・・・」。。。と彼女は語った。


恐ろしい怪物のようなヒトラー。。。
しかし、当たり前のことかもしれないけれど彼は普通の人間でもあったという事・・・その事実が重い。
地下壕で食事の支度を担当する下働きの女性にも食事の感謝を伝え、
子供には優しく(彼は死の直前に結婚し彼自身の子供はいない)愛犬家でもある。

56歳で長年の愛人であり死の直前に結婚したエヴァと自殺を遂げたのだけど、
その頃には70歳代にしか見えなかったという背中は曲がり正常な思考も出来ない
小男・・・(正確な身長は分かってはいないけれど175cm以下らしい、長身なドイツ系の中では小柄)
しかし最後まで彼と生死を共にしたいという部下もいたわけで・・・

いつの時点でヒトラーはあのアイル・ヒトラー!!!になったのだろう

意外な事に彼はオーストリアで生まれている。ドイツ系ではあったらしいけれど。
名門の生まれではない、父親も今でいう小卒ていど?努力で地方の名士くらいにはなっていた。
ヒトラーといえば勉強は文系、理系共に不得意で、小学校の上の学校の受験に2度も失敗し
美術に関心があり美術学校・・といっても大学とは違い誰でも受けられる技術学校?それも落ちている。
努力で成り上がった父と出来の悪い息子のそりは悪かった。
ヒトラーも学歴でいえば実質、小学校卒業のみ。

成人以降だと思うけれど母親が乳がんで死亡し、これ以来、健康に人一倍気を遣うようになった。
たばこ、お酒を好まなかった。 

第一次世界大戦で軍に所属し、終戦後、政治の道を歩みだした。
そして大きな転機がミュンヘン一揆ということらしい。それ以降頭角を現し実質、大統領の権限を与えられた。

イタリアのムッソリーニに心酔し、彼と同じ独裁政治を行うようになる。
ムッソリーニは学も品もないヒトラーを嫌っていたらしく、ムソッリーニが失脚するまでヒトラーを認めなかった。

ここまで調べて、なおさら疑問が
なぜそんな男があんな権力を手に入れる事が出来たのだろう

その頃のドイツはワイマール憲法のもと民主国家であり、ヒトラーは民主的な選挙によって選ばれたのだ・・・ 

歪曲したダーウィニズム・・強いものが弱い種を駆逐するという・・・アーリア人こそが遺伝的に優勢である・・・
金髪の美しい髪、青い瞳、長身。
ヒトラー自身は青い瞳は持っていたものの、子供の頃、金髪だった髪は成長共に黒に変化し体格も小柄。
有色人種を嫌い、日本にも偏見を持っていたけれど政治的な立場上、同盟を結ばざるを得ず、
公の場で日本への嫌悪感を現したこともあったらしい。
側近であるヒムラーが親日家であった事もヒトラーい良に影響を与えた。 

キリスト教会に通い一時、牧師を志したこともあったらしいけれど、信仰心というよりは教会の荘厳な建築や
その教会音楽などの雰囲気が好きだったという事。
イエスを磔にしたユダヤ人に対する憎しみ・・・という事になっているけれど、
おそらく不況に突入し金融などで成功しているユダヤ人に対してヒトラーだけではなく、貧しさを余儀なくされているアーリア系の人々が
政府に不満を持ち、社会主義的な運動へと傾いて行ったのだろう。
その国家事情はムソッリーニを要するイタリアと酷似している。 

人間というのは自分の生活に光を見いだせない時に、自分の内に原因を探ろうとはせず、外にその原因を見出そうとするのだろう。
その対象がユダヤ人であり有色人種であり障害のある人々だった。 
驚くことにヒトラーの時代ドイツにはT4作戦と呼ばれる暗黙の安楽死法があった。(法律として制定せず、一切をヒトラーが判断)
選民思想から障害者、遺伝的病気、不治の病 を劣勢な遺伝子・・とし同じアーリア人であっても安楽死という名のもとに
ガス室のような施設に送られ殺された。

ドイツ国民はユダヤ人の迫害、劣性遺伝子と決めつけられた人々の運命を見て見ぬふりをしたわけだ。 

どう考えても劣等感の塊だったヒトラー。
その証拠に名門出身、高学歴の者を嫌った。
必要な分野は後に独学で身に着け、その分野の専門家はヒトラーと対談した後「独学で学んだ者の偏った頑固さがうかがえる」と語ったらしい

なぜヒトラーはヒトラー足りえたか???
有名な話で彼は弁舌に優れていた。
人心を掴む演説の才能はあった。
が、、、、彼は対人とのコミュニケーションをとる事が下手だったとある・・・

グダグダ書き連ねてきたけれど、そんなヒトラーに心酔した国民が多かったからこそドイツはあのような道を突き進んだのだ。
人となりを良く知る腹心たちも彼と運命を共にしている。

映画を見ていてあの地下壕で上官達にはワインも食べ物も豊富にあり、ソビエトが近くまで来ている緊迫感と
別世界に生きているようだった。

しかし・・・心酔しているように見えた上官達は、分かっていたのではないだろうか?
ただ見ないようにしていただけ・・・見てしまうと自分自身が壊れてしまうから・・・

ヒトラーと親戚関係にあるスポークスマン役の大臣一家は終結が近づいていると理解し、
6人の子供達を地下壕に呼び寄せ、母親の手で毒殺する・・・ナチス無き世界で
生きていくことは考えられないと。
もちろん、大臣と妻もその後、自決するのだけれど。 

彼らはヒトラーの描いた世界の外を考えようともしなかったわけだ。
見ない事が彼らの中の絶対的な何かを満足させていたのだろう。
それが何かは私には分からないけれど。

精彩の無いしょぼくれて時にはエキセントリックになり妄想の様なビジョンをまくしたてる
ヒトラー・・・
それでも、なお心酔する人達・・・客観視すればコメディでさえあるのに。

人間は見たいと思うものしか見ないといったのはカエサルだ。

この映画の原題は「 DER UNTERGANG」英語題は「DOWNFALL」
滅亡、没落・・・というような意味。

人間は滅亡、没落そのような過程に身を置かざるを得なくなった時、現実を見ないようにすることでしか
自分の尊厳を守る事ができない生き物なのだろうか

であれば、なおさら秘書のランゲの独白のように「目を開けて見なければならない」どんな現実に対しても。