アニメの『新・巨人の星Ⅱ』
(原作『新・巨人の星』)
は、原作とは設定とラストの
展開が異なる。
アニメ版では星一徹は死んで
しまうのだ。58歳で。病に倒
れて。
星飛雄馬の魔球である大リー
グボール右1号の蜃気楼ボー
ルを打たんと星一徹の大リー
グボール打倒ギプス装着によ
る猛特訓を続ける花形満。
そのコーチは星一徹が行って
いた。
だが、それは、無理な筋肉
の動きをする打法の為、万
一それを駆使したとすると、
蜃気楼魔球を打てたとして
も、筋肉がずたずたになり、
野球人生は一瞬で終わると
いう恐ろしい打法だった。
そして、星飛雄馬と花形満
との最終決戦。
ヤクルトの最後のバッター
花形を討ち取れば、星の二
度目のパーフェクト試合達
成が目前だった。
一度目は、かつて中日の伴
との対決によって伴に打た
れたが、伴が一塁まで走れず
にアウトとなった試合だ。
だが、その最後の一球は星
の左手を破壊した。
その試合の再現が、今度は
ヤクルトの花形に乗り移っ
ての命がけの戦いとなった
のだった。
その目の前に迫る地獄の光景
を飛雄馬と花形、星一徹だけ
が知っていた。
そして、まるで阪神時代に星
の大リーグボール左1号をホー
ムランにした時のようにヤク
ルトスワローズの花形満は大
リーグボール4号=右1号蜃気
楼ボールをホームランにする
のだった。
しかし、かつて大リーグボー
ル1号をホームランにした時
のように、花形はホームベー
ス手前で崩れ落ち、救急車
に乗ることになる。だが、
ホームには這って到達して
いた。最後、息も絶え絶えの
花形を星飛雄馬は背負うよう
にして支えるのだった。
その試合を自室のアパートで
観ていた星一徹は、亡き妻の
遺影を胸に観戦し、野球の鬼
と化した二人の男の真剣勝負
に感動していた。
不死鳥のように何度も蘇る彼
らの魂を目を逸らさずに見つ
めようとしていた。
「かあさん。わしとお前の
息子が、やがて生まれて来
る孫の父と真剣勝負をして
いる」と亡き妻に語りながら。
しかし、ふと重大な宿命的
定理に気づき、この世が終
わるようなショックを受ける。
「ああ!!また、繰り返し
だ!」と。
星一徹は、不死鳥として蘇る
事は、また紅蓮の業火の地獄
を経験する事でもあるのだと
気づき、愕然とするのであっ
た。
そして突如発作が起きてその
場に倒れる。
一徹はアパートの住人たちが
救急車を呼んで入院となった。
たまたま救急車が走り出した
時にアパートを訪ねた伴は
急いで病院に駆けつける。
星一徹は飛雄馬と出産間際
の明子には言うな、と病室
で伴に釘を刺す。
泣き崩れる伴。
一徹との約束を破り、伴は
星飛雄馬に父危篤の事を知
らせてしまう。
だが、飛雄馬は父のもとへ
は行かない。
父ちゃんはそれを望まない
だろう、と。
そして長島巨人軍復活をか
ける試合へと臨むのだった。
一徹は自分の死期が近いこと
を悟り、入院先を抜け出して
自分のアパートに戻り、巨人
戦の最終戦に見入る。
そして、巨人は日本シリーズ
に優勝。
駆け付けた伴に一徹は言う。
「自分の死に場所は知って
おる」と。
最後の試合での息子飛雄馬の
快投を見届けながら、星一徹
は伴忠太に見守られながら、
座ったまま眠るように死んで
行くのだった。
明子の出産病院で伴から電話
で訃報を受ける花形満の背中
には、明子との間に生まれた
赤ちゃんの泣き声が響いてい
た。星一徹がこの世を去った
日に一徹の孫は生まれたのだ
った。
原作とは出演者もかなり違う
部分があるが、最大の相違は、
アニメでは星一徹がこの長島
巨人の優勝の年に死んでしま
う事だ。
川上哲治とおない年という類
推が成立しているので、この
最終回の年を1978年とすると
58歳で死んだことになる。
58にしては老け過ぎだ。まる
で80代後半の老人のような風
貌になっている。着流しに白
髪で杖をついて歩く侠客のよ
うな容姿になっているからだ。
58歳はまだ老人ではなく、い
わゆる「壮年」という年頃で
あり、会社勤めでも定年前の
あたりで、まだまだ働き盛り
のピークの頃の年齢だ。
ただ、巨人軍を辞めてからの
荒れた生活と、その後気を取
り直してからの無謀とも思え
る重労働がたたったのか、星
一徹は劇中で息子飛雄馬の
台詞にもあるように「老い
て」いた。
アニメでは星一徹を殺して
しまう設定にしてしまった。
「やっちまった」感がかなり
強いが、このパターンは『あ
したのジョー』と同じだ。
『あしたのジョー』では、
原作者はジョーの最後はああ
描かず、白木葉子と陽だまり
の中で空を仰ぐパンチドラン
カーとなったジョーを描いて
いた。
これに漫画作画者が激怒し、
「力石を殺してジョーが縁側
で日和などあってはならない」
と猛抗議してあの最後の「真
っ白な灰」になるラストシー
ンとしたのだった。
最後の吹き出しの台詞は、丹
下団平の矢吹ジョーの名を呼
ぶ叫びだった。
ジョーは笑ったようにコーナー
の椅子に座ったままで微笑む
ように動かなくなっていた。
アニメ版『巨人の星』は、
『新・巨人の星』と『新・
巨人の星Ⅱ』をもって完結と
なる。
星飛雄馬は、最後は巨人を去
り、アメリカの大リーグを目
指して渡航する。
父星一徹の墓石に刻まれた野
球を愛した男ここに眠る、の
シーンの後に。
最後の最後のシーンでは、
この言葉が出て来て大完結
となる。
ゴールデンウィーク前から
観始めてようやく完結話ま
で全て観た。
いやあ、長い。
長いが、なんだか星飛雄馬
たちが幼少期から父一徹の
死まで過ごした28年間を彼
らと共に経験したような
不思議な感覚を持った。
素晴らしい名作だと、今改
めて思う。