Making a Knife: The Bushcraft Woodlore Clone
外国人による炭素鋼の削り出し工法
でのナイフメイキング動画だ。
ステンレスの特殊鋼ではなく、炭素鋼
ならば簡易炉での熱処理も可能だ。
ちなみに、鍛造工法の場合は、焼き純しと
焼き均しは絶対に必要だ。焼鈍(しょうどん)
しないと内部残留エフェクトの影響で、その
まま作業を進めると鋼がとんでもないことに
なる。
また、熱処理におけるコーナーエフェクトの
影響を最小限にするために、角部はすべて
丸くさせてから焼き入れしたほうがよい。
特に刃先。
油冷ではなく水冷での冷却の場合は尚更
それをやったほうが安全だ。
焼刃土(炭粉+土+大村砥+α)を用いる場合
は、刃先の厚みは10円玉ほど残しておけば
焼き割れの可能性も低くなる。
他にも熱源により脱炭の問題も出てくるの
だが、それは割愛。
きちんとした工程を経れば、松炭+七輪で
あろうと炭素鋼の焼き入れは可能である。
楢炭の場合は、あまり芳しい結果は得られ
ない。強くもほんわりとしたクロマツの炭
が炭素鋼の焼き入れには最適だ。
私の場合、ナイフ大の小物の場合は、かなり
小さ目の炭に炭切りして、消し炭を作って
から田楽(おんぼう)で焼く。
ちなみに、古典落語の「目黒の秋刀魚」は、
おんぼう焼きをした目黒の民家の秋刀魚が
ことのほか美味であったというものだ。
炭火に完全に埋める焼き方はとも御坊、
煙亡とも記すもので「忌むべき下賤なる者
たちの魚の焼き方」として殿に食されるな
と家老が進言するくだりがあるが、現代
ではそのあたりは差別性を伴うのでカット
されて「目黒の秋刀魚」は演じられている。
しかし、現代においても、魚の内臓と血あい
を取り出してたっぷりと塩を振り、さらに
塩の中に埋めるようにしてホイルで包んだ
ものを焚火の下の土中に埋める焼き方は
極上の魚の味を出す。御坊だからどうだと
かいうのは関係がない。
それでも、日本刀界において刀身を完全
に炭の中に埋めて微弱風を送るだけの
田楽焼きが忌避されてきたのは、一つには
刀剣界に存在する差別観というか睥睨観が
あったのではなかろうかと推測できる。
ところが、佐賀県士族出身の今泉刀匠は
田楽炉で焼き入れをしていた。
これは長船刀剣博物館敷地内にある今泉
記念館にその現物が展示されている。
オープン炉で刀身をグリグリやって酸素
に触れまくらせるよりも、良い結果が出る
こともあるだろう。
刀工初代小林康宏はオバQのような形の
雪国のカマクラのような形状の炉を使っ
ていた。
送風管は左右二箇所から送風できる仕組み
になっていた。
一般的な日本刀を観賞すると、差し表と
差し裏で働きが大きく異なる作品を時々
見かけるが、それはオープン炉を使用して
刃を上にして焼き入れ加熱している際に
左側からの送風により炉内の部分的な
エリアの温度が上がるために刀身の
差し裏のみが激しい熱変化をみせる
現象の現出と私は推察している。
幕末の源清麿(すがまろ/誤読により
「きよまろ」が慣例化している)の
正真作を手に取って観賞すると、差し
裏が激しい働きの作となっていることが
観察できる。
たぶん、清麿はオープン炉を使い、左側
の片方送風の現代と同じような炉の形式
で刀を焼き入れしていたと推測できる。
炭素鋼は奥が深いが、焼き入れ焼き戻し
自体はさほど難しい作業ではない。
しかし、適切な熱処理の「温度読み」が
できないと成功は難しい。
オーステナイト化により非磁性となる
ので、刀身に磁石をくっつけるのは一つ
の手であるが、そんなことをする鍛冶は
ほぼいない。刀身の温度を目で見て感知
する。
その際、炉を見続けると、目は低い温度と
勘違いするので、炎を見続けないほうが
よい。変態開始温度は存外赤い。醤油の
キャップよりも少しだけオレンジがかる
程度の赤味だ。
みかん色やレモン色まで焼いてしまっては
デッドスティール寸前になってしまう。
そうなると馬鹿鉄となり、それで刃物の
形に作ってもポロポロとビスケットのよう
に刃こぼれする。内部の粒子が肥大化して、
なんといったらよいか、鋼内部の組織の
互いの結合力が減少するような状態に
なるからだ。
この問題は鉈などの鍛冶職は実用刃物鍛冶
であるので現代刀鍛冶よりもそのあたり
のキモは心得ていて、決して高温鍛錬と
高温で焼くようなことはしない。実用性を
重んじる鍛冶は、確実に変態点を上回った
あたりを外さずに焼いて急冷させる。
冷却においても、水温・湯温が一定である
よりも、最初と中程と最後の冷却速度を
変えるという焼き入れのほうが冶金的には
適しているが、ただの真水の清水だと
これは難しい。
そのあたりは各鍛冶職が独自の工夫を
してノウハウを蓄積している。
この冷却のノウハウは非常に重要な情報
となる。
日本刀寓話では、弟子が親方の焼き入れ
の湯温を探ろうとしたらその手を切り落と
したなどという創作譚もあるほどだが、
それほど重要なものとなっている。
17℃のぬるま湯に変態点以上に加熱した
炭素鋼を一気に投入すれば、誰でも焼き
入れはできる。
焼き戻しは180℃あたりにする。300℃は
脆性が増すので避ける。
これらはすべてテンパーカラーを見て
判断するが、そのテンパーカラーも
加熱保持時間によって変動するので、
経験を積まないと「なにがどうなって
いるのか」が把握できないことになる。
さらに、真水は30℃以上の温度となると
焼き入れは不能となる。これは物理的に。
そして、刀身に「映り」を出すには、
熱処理のみで出すことができる。
地錵(ぢにえ)の場合も熱処理によって
発生するが、意図的に地錵を出すことは
できない。こちらは主として鍛造過程の
如何にかかってくる。
炭素鋼は奥が深い。
簡単に焼き入れができるが、高度な表現
も可能になるほど複雑な素質も鋼自体が
持ち備えている。
炭素鋼は面白い。
できることなら、炭素鋼は鍛造での製作
による刃物が望ましい。
その頂点は日本刀だろう。
ただ、日本刀の場合、刃物という概念は
とうに大昔のこととなり、「鉄の芸術」と
まで呼べる領域に昇華している。
日本刀と向かい合うと、鋼と真剣に取り
組んだ刀鍛冶の努力が見えてくるので、
そこがまた観賞の楽しみの一つともなって
いる。