渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

ショットの使い分け ~撞球世界の剣さばき~

2022年02月12日 | open

 
(室内の周囲の音が入らぬよう
音声エフェクト加工してあり
ます。この動画ではキュー音は
パチンという音質に聴こえます
が、動画原本のキューの音は響く
木琴のようなクォーンという
音質です)

スタンショット、フォロースルー
ショット、スクリューショット、
パンチショット、他にもいろいろ。
ショットはいろんなストロークと
撞き出しの種類があり、その技法
を用いて、タイムリーな状況に
適合させて適切なショットをして
いく。
これ、居て合わせる抜刀剣法の
イアイと同じ。
また、一本調子の一つ覚えの

振りや得物の突き出しをしない
のも、剣法と撞球は共通するもの
がある。

手玉を狙い通りに次の玉の厚みを
取る位置=的玉にあえて近づけた
ので、切り押しぎみのショットで
さばこうとしている。これは

切り押し気味の左押しヒネリだが、
あえてフォロースルーの短いスタン
ショットでさばいている。意味が
ある。


玉の動きの原理としては、よく
切れた押し玉によりクッション
に入ってからの反射で戻る時の
反発は手玉はクッションに対して
逆回転として出てくるので手玉に
ブレーキがかかる。それを利用
したキュー切れのショット。
キューが切れないとただの転が
し玉や弾き玉になり、このような
手玉の回転を殺しながら生きて
いるようなゆっくりとした移動
をさせるショットはできない。
切り押し気味になるので、上体は
低く伏せずにスリークッションの
ようなフォームを取る。
極度に上体を伏せるスヌーカーの
ようなフォームは厚み当てが軸
となるフォームで、プールにおいて
もキュー切れは悪くなる。

スタンショットでの右押しの
逆ヒネリ。


いわゆる逆ヒネリのイングリ
ッシュだが、スピンショット
ではなくあくまでキュー切れ
を主軸に利用したワンショット。

これも上の画像のショットと
玉の動きの原理は同じ。
結果、手玉は転がり走り過ぎを
せずにエアブレーキがかかった
ように停止する。任意の場所で
停止させるのは経験と技術に
よる。
手玉とクッションの距離がある
ので、押し殺しよりも逆ヒネリ

による手玉の勢いを減殺させた
ショット。これも状況により
よく使う。ヒネリは順ヒネリ
ばかりではない。
切り返しなどでは逆入れは誰で

もやるだろう。
この動画ではラスト3玉目の

1番を逆入れ右のヒネリの押し
での切り返しで処理してネク
ストの狙った位置に手玉を
移動させている。
的球をポケットさせてから、

手玉がクッションに入る時
入射角と反射角が等しくない
のでヒネリを入れている事は
動画からも誰でも読み取れる
事だろう。

無論、ビリヤードをやる人に
とっては何がどう起きている
かは即座に判る常識的な動き。

手玉を利かせて走らせる逆ヒネリ
などの典型はダブルレールだが、
それの対極にあるのが手玉を
押しの押し抜き入れでキュー
切れを利かせて強い突き出しを
をしながらクッションに入って
からビタリとレール付近に止める
ショットがある。
その名称は存在しないが(押し
止めとか呼ばれて来た)、
そのうち最近流行の「スタン
ショット」の呼称登場のよう
に、あたかも最近登場した新
技法であるかのような知ったか
レクチャー行動が斯界で為され
そうな予感がする。

だが、「スタンショット」と
同じく、それは新呼称の名称を
付加しただけであり、新登場の
技法ではない。

押し止めをさらに進めると、
キューを水平にした平撞きで
マッセ(英語発音マッセィ)
ショットのような撞き方も
できる。
このショットを使うと、穴前に
2個ある玉の1個を入れてから
手玉がクッションに入ってから
台上でUターンして戻って来て
からまた穴前の的球に進む、
つまりマッセと同じ動きでワン
ショットで次の穴前玉を落と
す事ができる。
押しでの切れによる押しの

手玉のバックスピンでのクッ
ション玉。
キューが切れる人にしかでき
ない。

この原理を使ったショットで

手玉を走らせることをすれば、
コーナー左右の穴前にある
2個の玉を真ん中にレール際
にある邪魔玉をよけて手玉に
カーブを描かせながら的玉
を左右連続でワンショットで
落とす事も簡単にできる。
キューが切れれば。

キューの切れ方というのは、
キュー出しのフォロースルー
を大きく取る事によって生ま
れるものではない。
すべては振り=ストロークと
突き出しの際の手の内の冴え
による。
撞き方は、ハンドルをインパ
クトの瞬間に軽く握って冴え
を出す事が多いが、場合に
よってはまっすぐにキューを
手の中で滑らせて投げ出す
技法もある。私も時により使用
するが、故立花プロやエフレン・
レイズなども多用している。

但し、手の中での動きと二の腕
の振りが同調しているので、
キューを投げ刺しているよう
には見えない。知らない人には
ただのストロークショットに
しか見えない。

キューを利かせる撞き方=キュー

切れは、腕の振りと手の内にこそ
要諦あり。これは日本刀を用い
る剣術・抜刀剣法と全く同じだ。
キューは「握り締めない」。
日本刀も柄を「握り締めない」。



フォロースルーショットでの
押し殺し。これもキューを利か
せる事によって手玉をコント
ロールして、的球を入れてから
次に狙った15センチ四方の位置
に手玉を移動させている。

ここでスタンでもパンチでも
ないフォロースルーのショット
を選択しているのも意味がある。

上の動画では、見る人が見れば、
各シーンでどんなショットを
やっているかが即判る事だろう。
ただし、ブルーのクッション
横の2番を入れてからの次の
黄色の1番の取り出し配置で
直線にしてしまったミスの為、
次のピンクの4番をサイドに
取るには直線並びになった
的玉-手玉を右上ヒネリで厚み
に見越しを取ってクッション後
に中央に出そうと計画した。
よくあるイージーなショット
だ。
だが、思いのほかイングリッ
シュを乗せ過ぎてしまい、黄色
の1番の的玉を薄く外してしま
った。完全なミスショットだ。
これは的球の歯車効果による。
ここでは差し込みの速度の速い
突き出しではなく、滑らかな
短ストロークのフォロースルー
ショットにすべきだった。
この動画でラストボール1個前
の緑の6番のショ
ットのような
撞き方に。
この動画での1番トバシ=外し

は非常にいただけない。下手を
やったショットだ。下手打った
典型。


この見越し選択ミスはソリッド
シャフトだろうとハイテクシャ
フトだろうと出てくる。
人為的な選択判断予測の外れ

は撞球ではミスとなる。
やった結果がすべて正確に如実
に出るのが撞球だ。
ミスショットも穴外しのミス
シュートも手玉の移動軌跡も
移動先までの動きも、すべて
自分がやった事なのである。
この自覚は撞球においては
絶対に必要な精神的地平と
なる。
すべて自分がやった結果が
台上に正直に物理現象とし
て結果が現出して残るのだ。
それがビリヤード。
よく勘違いしている人たちは

ミス出し等をした時に言う。
「もっと転がるかと思った」等。
移動距離が短かったり長すぎ
たりさせたのは自分だ。他人
ではない。
そこを弁えないと、自分以外
の事のせいにして自分のミス
を免れようという保身的な
人間として堕落以外の何物
でもないところに心が行く。
それを映画『ハスラー』(1961)
では「ルーザー=落伍者」と
呼んでいる。翻訳すると「負け
犬」ともなる。
撞球で何か自分の不都合が起き
た時に自分以外のせいにする
のは、それは敗北者の発想
なのだ。
これはなにも撞球だけではなく、
人の一生において人に大切な事
を教えている。
ビリヤードはそれを人に教える。
台上の景色には深い箴言がある。

ここ一年ほどで「スタンショット」
なる単語がクローズアップされる
ようになって来た。
だが、ウィリー・モスコーニの
頃の半世紀以上前の大昔から、
ごくごく普通に使われて来た
ショットの仕方でしかない。
上級者は数種類のショット方法を
巧みに使い分けて状況に合わせて
さばいていた。
今「スタンショット」が大流行
のようだが、一番駄目なのは
一本調子でそればかりだと思い
込む石頭になる事。
その時点で伸びは終わる。
これは確実に。
どんなジャンルでもそう。
固定観念に凝り固まると、人間
の知的生命体としての機能が
停止する。
人間はそのように創られている。


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