S&W Model No.3
1870年発売。
アメリカ陸軍制式拳銃となった。
金属薬莢はS&W社が特許を持っ
ていたため、コルト社等の他社は
パーカッション式(シリンダーに
発射薬の黒色火薬と弾頭を押し込
み、後部に雷管をはめ込んで激発
する銃。弾丸再装填に非常に時間
がかかるため、予備のシリンダー
を数個保持するのが常だった)
だった時代が長く続いた。
コルト社では裏技で、自社のパー
カッション式拳銃を「社外のカス
タム者が作った」という形で金属
カートリッヂが使えるように改造
した物をコンバージョン式として
「社外者」が発売する事でS&Wの
市場独占をかわしてしのいでいた。
中折れ式のブレイクオープンの
リボルバーは弾薬交換が極めて
速いために重宝された。
当時の最新式の構造の拳銃だった
事だろう。
S&Wのモデル2は日本の坂本龍馬
も高杉晋作から貰って愛用して
いた。(口径違いの2丁)
それを用いて幕吏1名を龍馬は射殺
しているが、その際にカートを
再装填しようとして、斬りつけら
れた手の血でシリンダーが滑って
転がり落ちたため、探したが見つ
からず、銃は放棄した。
斬り合いの中での再装填なので
しくじったのかも知れない。
その後坂本龍馬は妻のりょうと
薩摩に新婚旅行に行き、桜島
で妻にも残ったS&Wリボルバー
を射撃させて、プリンキング
(簡易射的)をして遊んでいる。
S&Wモデル3はアメリカ陸軍に
採用されてからも様々な弾丸に
対応する口径を作ったが、どう
しても1973年制式化のコルト
SAAの.45弾と適合できない(コ
ルト弾が長かった)ために徐々
に使用が遠ざけられた。
S&W用の短いカートはSAAでも
使えたが、逆は長すぎて無理と
の事だったようだ。
だが、軍から徐々に捨象されて
いったのは、弾薬問題だけでは
ないいろいろな組織力学的なもの
もあったと思えるフシが見られる。
S&Wモデル3は非常にアメリカで
人気があり、多くのガンマンが
使用した。
ワイアット・アープが1881年に
OKコラールでの一方的射殺行動
で使った銃はM3スコフィールド
モデルだとされている。
軍用M3は7インチ銃身だったが、
それを5インチに改造した社外
モデルはコンシールド性が高い
として大人気となったようだ。
大抵はニッケルメッキが施され
て防錆性が高められたモデルの
ようだ。
実にカッコいい銃である。
M3はロシア軍で正式採用され
ただけでなく、世界各国で採用
された。
日本も創設されたばかりの日本
陸軍ではS&W M3が採用されて
いた。
後にそれの基本構造をコピーして、
ベルギー9ミリ弾(.38)を模倣した
弾薬を使用するダブルアクション
化された日本の銃、二十六年式拳
銃が1893年に開発採用された。
ブレイクオープンのシステム等は
S&Wから丸ごと盗用だ。
ただ、並べてみると、本家S&Wと
日本軍二十六年式では、造形シル
エットの洗練さに雲泥の差がある。
日本初の国産拳銃はとてつもなく
垢ぬけない感があるのは否めない。
一方、S&Wのシルエットは、コルト
SAAをも遥かに凌ぐ美しい造形美を
持っている。
コルトは武骨であり、S&Wは洗練
された空気を漂わせる。
この違い。
ただ、頑丈さのみを捉えたならば、
S&W M3よりもコルトSAAのほうが
圧倒的に優位だっただろう。
センターファイアの.45弾の連発
繰り返しを想定する軍用銃として
はSAAのほうが信頼性が高かった
事は容易に想像できる。
でなくば、いくらS&W M3が人気
が高かろうとも、SAAを指して
「西部を征服した銃」というコピー
は米国内で発生しなかっただろう。
だが、S&W M3のニッケルモデルは、
途方もなく美しい。
映画『クイック&デッド』(1995)では
キッド(レオナルド・ディカプリオ)
の銃砲店でスペシャルガンとして紹介
される。
早打ち用にトリガーガード前部
をカットオフしたカスタム。
ただ、造形シルエットの美しさで
負けていないのは、SAA以前に
リチャーズ・メイソンがカスタム
したコルト1860アーミーの金属
カート用コンバージョンだ。
実はコルト・コンバージョンモデル
は、開拓時代末期まで西部では愛用
されていた。
開拓民たちは新型銃を次から次に
購入できるほど裕福ではないし、
ガンスリンガーではないので、旧式
であっても、現用実包が使える銃
を長く愛用していたようだ。
映画のように常に最新式銃が実際
の歴史で使われていたのではない。
だが、これもブレイクオープンと
同じで、バレル基部をはめ込み
固定であるがゆえ、銃の耐久性は
ソリッドフレームのSAAやレミン
トンには及ばなかったようだ。
スイングアウト式リボルバーが
一般標準化するまで、ソリッド
フレームのシングルアクションは
その頑丈さゆえに米国内では多く
の信頼を勝ち取っていたようで
ある。
映画『クイック&デッド』は銃器
アドバイザーがマーク・リードな
ので、非常に登場銃器の考証が
しっかりしているが、.38口径の
コンバージョンについては、ロング
弾を装填するシーンがあり、実際
のショート.38弾ではないので錯誤
が見られる点もある。
他はとても実際の歴史に忠実な
銃器を用いている。
ただし、コルトSAAはオリジナル
のコルトは出てこず、レプリカ実銃
として精巧な製品を作るサードパー
ティーのシマロンが製作したピース
メーカー実銃ステージガンだった。
多くの西部劇に登場するワイアット・
アープはコルトSAAを手にするが、
OKコラールの場面では、やはり
S&W Model No.3を登場させて
ほしいところだ。
ワイアットよりもドク・ホリデーの
ほうがに合いそうな気もするが。
ニッケルメッキの5インチ銃身あたり。