渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

今夜も西部劇 西部劇の銃~『荒野のストレンジャー』(1972)~

2022年01月21日 | open


『荒野のストレンジャー』(1972)
監督・主演:クリント・イーストウッド

この作品は、銃の時代考証にこだわる
クリント・イーストウッドが監督して
いる。
それまでのハリウッドウエスタンや
マカロニのような撃ち方ではなく、
『ダーティハリー』(1971)で開眼し
たかのように片手で撃つ。
しかも、撮影用はワックスブランク
弾であるのに反動を表現するように
なっている。これは『ダーティハリー』
からだ。
.45コルト弾をSAAから射撃した時の
回るように真上に銃身が跳ね上が
る挙動をあえてイーストウッドは
演技している。上の画像がそれだ。
この作品で使う銃はコルトSAAの
1873年黒色火薬モデル7.5インチ
銃身だ。

悪党その1の銃。
撮影用プロップガンにはブランク
弾を使っているのがよく判る。
薬莢はワックスで蓋をしている。


1stジェネレーションのハーフムーン
エジェクターロッドタイプ。
ハンマーのファイアリングピンが太い
円錐形のモデル。


このタイプのファイアリングピンは、
日本のモデルガンメーカーのMGCが
一時再現していた。MGCのSAAは2nd
ジェネレーションモデルだが、非常に
多くのバージョン変更が時代と共に
ある。


映画撮影用プロップガンといえども完全
に実銃である。銃口のライフリングも
確認できる。5.5インチ銃身モデル。


悪党その2の銃。


悪党らしく、フロントサイトは完全に
削り落としている。5.5インチ銃身。


悪党その3の銃。
4.75インチ銃身モデルだ。


悪党その1の円錐形ファイアリング
ピンとは異なる鋭く尖ったピン。
これは日本のモデルガンではウエ
スタンアームズ等がリアルに再現
していた。


ワックス弾使用というのがよく判る。


ワックス弾により反動を再現演技
しない俳優は多い。
日本の場合はキャップや平玉火薬
なのでリボルバーは反動が無く、
殆どの役者が反動を再現していな
い。
一番ひどかったのは『ホワイトア
ウト』の松嶋菜々子で、AK47小銃
をフルオートで無反動で撃っていた。
光線銃じゃないんだから。大根。
日本国内では、石原軍団が拳銃射撃
において反動を初めて再現する演技
をするようになった。

クリント・イーストウッドも、拳銃
の片手撃ちでの反動演技を極端に
見せるようになったのは『ダーティ
ハリー』からだ。
だが、それ以前の映画作品でも彼は
見せていたが顕著になったのが
『ダーティハリー』だった。
『ダーティハリー』は斜陽化していた
西部劇からの新展開を図った作品で、
あれにより空前絶後の「マグナム」
ブームが全世界に訪れた。
そして、拳銃人気のブームは大口径
高威力のマグナム一色になっていった。
日本の映画や漫画においても、マグ
ナム一辺倒となり、現実離れした
空想妄想が蔓延した。
対人弾薬としてマグナムなどは
アメリカとて現実には使わない。
まして.44マグナムなどは、アラスカ
のヒグマ撃ちの際の護身用のような
ものだった。
現実世界では、警察や軍隊の法執行
機関においては、オートの拳銃弾は
.45口径から9ミリが主流となり、また
リボルバーにおいても.38口径(9ミリ
同径)が主流となった。

なお、銃器の口径とはまさに銃口
の口径(ライフルの山の径)の事
であり、弾薬の弾頭の直径ではない。
たとえば小銃弾でも5.56ミリ口径弾
であれば、弾頭直径は約5.7ミリだ。
銃の弾薬の数値は、特例を除き銃の
口径の事を表す。
7.62ミリや5.56というのは弾丸の
事ではなく口径を指す。
インチ径の.45や.38も口径を指す。
.45弾というと弾丸の径のように
誤解しがちだが、「.45口径用の
弾丸」という意味だ。5.56弾も
然り。

クリント・イーストウッドはかなり
銃器のリアリティにこだわっている
俳優で、これはハリウッドでも稀有
な存在だ。
登場する銃器が超リアルだった西部
劇は『クイック&デッド』(1995)で、
これは世界早撃ち王者のマーク・
リードがガンエフェクトの監修を
務めたためにリアル性が実現できた。
意外とハリウッドといえども、映画人
は銃器や時代背景には詳しくないの
だ。
日本の時代劇を作る映画人たちが
ほとんど日本の武士文化や伝統武芸
について知らないのと同じような
ものといえる。
日本の場合は、歌舞伎や芝居等の
演劇がリアルさを出したらお咎め
を受けたという江戸期の風紀に
よる影響の残滓が多いかと思わ
れる。
歌舞伎ではそのため、髷も衣装も
江戸期以前の物だろうが江戸期の
ものだろうが、題材に関係なく
大幅にデフォルメされた名称や
衣装表現で直截さを避けていた。
内蔵助が由良助になったり等々。
髷も町人髷のような後頭部の結い
方を常とする。本物の武士では
ない、あくまでお芝居、という
ところをそこでアピールしている
のだが、これは江戸期の取り締
まりとの関係だろう。
その影響の為か、日本の現代の
時代劇においても、リアルさを
表現した物はほぼ皆無だ。
リアルにやるならば、時代劇の
場合は、既婚女性は全員お歯黒
にしないとおかしい、というよう
なものがある。
また、俳優たちも、武士の独特
な歩き方や町人の歩き方を演じ
ている役者は殆ど見ない。
第一、刀一つまともに差せて
いない役者だらけだ。
銃が使えないガンマンはいない
ように、刀をまともに差す事も
できない武士などはいない。
そのあたりは、時代物映像製作
ではよく研究してほしいと切に
願う。

.45ACP弾のリコイル再現演技。
9ミリ弾の場合はもう少しビシッ
というキックになる。


反動を再現せずに連射した場合。
現実には実銃.45ACP弾でこのよう
な連射は困難。

これはガスガンだが火薬使用の
ブローバックレプリカガンでも
同じ速度で射撃できる。
だが、演技としては火薬使用の
モデルガン等のオートの場合、
手動で反動を再現すると手の動き
により緩衝が発生してジャミング
しやすいのでむつかしい。
完全な撮影用電着銃ならば簡単。
それと、海外映画のような実銃
での空砲射撃ではキックが強い
ので反動の再現は可能。
海外撮影での実銃オートマティック
の銃の銃身には内圧を高めるチョ
ークが設置されている。
ただし、リボルバーなどは銃身は
そのままである事が多いので事故
に最大限注意する必要がある。
通常の海外映画用プロップガンは
実銃であっても銃身内部が絞られ
ているので実弾は発射できない。


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