1日1日感動したことを書きたい

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人生の黄昏時だから、なおそう思います。

「山は市場原理主義と闘っている」(安田喜憲)

2010-05-11 19:54:56 | 
 「山は市場原理主義と闘っている」(安田喜憲)を読みました。著者は、環境考古学の第一人者です。私たち日本人が所属する「稲作漁撈民の文明」と、欧米に代表される「畑作牧畜民の文明」と、この二つの文明が地球上に存在してきたという主張から、この本は始まります。二つの文明の特徴をまとめると次の通りです。

「畑作牧畜民の文明」・・・・ 欧米、エジプト・メソポタミナ・黄河文明。一神教。天水農耕、「個の自立」。麦やマメを栽培。ヒツジやヤギなどの家畜の飼育。パンを食べ、ミルクを飲んでバターやチーズを食べる。肉食。森を破壊。差別、自然を搾取。「力と闘争の文明、動物文明」。

「稲作漁撈民の文明」・・・・環太平洋生命文明圏(長江文明、マヤ文明、アンデス文明、マオリ、ポリネシア、縄文文明) 。多神教とアニミズム。 水利共同体、「利他の心」「慈悲の心」。米と芋ととうもろこしが主食、蛋白源は魚介類から、ミルクは飲まずバターやチーズは食べない。山を信仰する「再生と循環」の世界観。平等、自然と共生。「美と慈悲の文明・植物文明・森の文明」。

  稲作漁撈民にとって「山」は、天と地を結ぶ架け橋であり、稲作と漁業に不可欠な水の源である。地球温暖化と、食料と水の危機が進行している現代において、持続可能な未来を作り出していくためには、稲作漁撈民が育んできた「美と慈悲と共生」の思想を再評価する必要があるというのが、筆者の主張です。旗幟鮮明、単純明快。筆者の信念が何度も繰り返し語られます。

 僕にとっては、筆者の信念を披歴する部分よりは、立山ミクリガ池の年縞堆積物の分析から、4世紀から海抜2440mの高地で人間活動の痕跡を証明したり、死海の年縞調査から、イエスが生きた時代や1万年前の気候変動や森の変遷を年単位で復元したりする実証的な研究の叙述のほうが、格段におもしろかった一冊でした。