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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

書評した本: 泉麻人 『東京23区外さんぽ』

2018年12月19日 | 書評した本たち


週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。


観光地以外でこそ発揮される散歩の達人の嗅覚

泉麻人『東京23区外さんぽ』

平凡社 1,836円

現在も放送中の旅番組『遠くへ行きたい』(日本テレビ系)の制作に携っていたことがある。当時、全国各地を飛び歩きながら、その反動で思いついたのが『近くへ行きたい』というタイトルの番組だ。

まだお台場に移転する前で、曙橋に局舎があったテレビ局のプロデューサーに提案してみたが、一笑に付されてしまった。後年、俳優の故・地井武男が始めた『ちい散歩』(テレビ朝日系)を見た時は、「やられた!」と思った。企画が少し早すぎたのかもしれない。

もしも幻の散歩番組が成立していたら、『大東京23区散歩』『東京いい道、しぶい道』などの著書を持つコラムニストは出演者にぴったりだったはずだ。

そんな著者が「23区以外の東京」に足を向けたのが本書だ。何しろ多摩地域には30もの市町村があり、行き先には困らない。しかも著者の散歩は名所や名物とは無縁だ。いわゆる観光地とは趣きの異なる場所でこそ、散歩の達人の嗅覚は発揮される。

若者に人気の吉祥寺がある武蔵野市では、かつて九七式や隼といった戦闘機を製造していた会社、中島飛行機の運動場跡を利用した「武蔵野陸上競技場」に立つ。

また織物の町、八王子市ではユーミンこと松任谷由実の実家である「荒井呉服店」を眺め、「大善寺」というお寺で松本清張のお墓を見つけて手を合わせる。

そして町田市でも、林立する熟女パブの先に進学塾が並ぶ通りを歩いたかと思うと、「農村伝道神学校」なる不思議な学校の門の前にたたずむ著者。

肩の力の見事な抜け具合は、地域の最奥にある奥多摩町を訪ねても変わらない。目を留めるのは、「女(め)の湯」「雲風呂」「下り」などの珍名バス停だったりするのだ。さらに定食屋で注文したヤマメの塩焼きもさることながら、自家製の刺身コンニャクの味に感激する。

目的も事前の準備もいらない。偶然に出会ったものを虚心に面白がる。これぞ散歩ならではの楽しみだ。

(週刊新潮 2018年12月6日号)

言葉の備忘録 69 一寸長ければ・・・

2018年12月18日 | 言葉の備忘録

空知川



一寸長ければ、一寸強し。
一寸短ければ、一寸険し。



映画「戦神/ゴッド・オブ・ウオー」

中高年の恋愛ドラマ『黄昏流星群』には、黒木瞳がよく似合う

2018年12月17日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


中高年の恋愛ドラマ『黄昏流星群』には、
「黒木瞳」がよく似合う!?


中高年男女の「自分探しドラマ」

ずいぶん懐かしい素材を持ち出したものですよね。ドラマ『黄昏流星群~人生折り返し、恋をした~』(フジテレビ系)のことです。

弘兼憲史さんの漫画『黄昏流星群』は、「ビッグコミックオリジナル」(小学館)で現在も連載が続いていますが、ドラマの原作である「不惑の星」は、もう20年以上前の作品です。

このドラマ、物語の基本的な構造自体は、原作漫画とあまり変わっていません。リストラされた銀行マンが、傷心の旅(スイス!)で出会った、すてきな中年女性に恋をして、帰国後に偶然再会した2人が接近していくというナイスな(笑)お話です。

「なにがナイスじゃ!」と言うなかれ。主人公の瀧沢完治は佐々木蔵之介さん。彼がひと目ぼれした相手、目黒栞が黒木瞳さん。そして瀧沢の妻・真璃子には中山美穂さんを導入したことで、結果的には、リストラ世代の願望をかなえる「不倫ドラマ」というより、中高年男女のほろ苦な「自分探しドラマ」として成立しています。

特に佐々木さんの誠実な演技が、なかなか見ものです。組織から切り捨てられたことへの憤り。倉庫会社に出向したばかりの頃、そこで煙たがられ、孤立することの悲哀。妻には言えない思いを栞に語るうちに、これまでの自分を見直し始めました。

一方、ちょっと困ったのが、中山さん演じる、瀧沢の妻・真璃子です。夫の浮気もさることながら、娘(石川恋)の婚約者(藤井流星)に言い寄られ、困ったり、悩んだりする「一人の女性」という風情でした。これは、中山さんの見せ場をつくるために、原作を変更した「妻の自分探し」です。

しかし、責任は脚本にあるのですが、設定がどうにも無理筋だったことと、真璃子の気持ちと行動が中途半端で、終始ツッコミどころ満載の展開となってしまいました。


『黄昏流星群』が似合う女優、黒木瞳

栞役の黒木瞳さんですが、実は以前も、『黄昏流星群』に出演していました。2012年6月に放送された単発スペシャル、『黄昏流星群~星降るホテル~』(フジテレビ系)です。

この時も、物語は至ってシンプル。ベンチャー企業家(高橋克典)が病に倒れ、過去10年分の記憶を失くします。困り果てた妻(石田ひかり)が頼ったのは、なんと夫のかつての恋人(黒木瞳)でした。

高橋さんの記憶を取り戻すために、2人の女性は立場を入れ替えて、黒木さんが妻、石田さんが家政婦を演じることになります。高橋さんに対して、複雑な思いの黒木さん。役割と納得しながらも、黒木さんに嫉妬する石田さん。最後はもちろん、黒木さんが“愛の奇跡”を起こすわけですね。

ただ、この年代の恋愛物といえば黒木さん、というのが安易でしたし、黒木さんと高橋さんの組み合わせは10年の連ドラ『同窓会~ラブ・アゲイン症候群』(テレビ朝日系)のまんまです。さらに、妻とかつての恋人が入れ替わる設定も、まあ実際にはかなり無理がありました(笑)。

ところが、このドラマの黒木さん自体は、悪くなかったんです。『ママさんバレーでつかまえて』(08年、NHK)や『下流の宴』(11年、同)など、フツーの主婦を演じた際は、ややウソっぽかったのですが、この時の「独身の美人ピアニスト」みたいな、現実感の薄い役柄はぴったりでした。「大人のいい女」になり切って、このファンタジーを支えていました。

思えば、『黄昏流星群』が似合う女優「黒木瞳」の背景にあるのは、渡辺淳一さんの小説が原作の『化身』(88年、東映)、『失楽園』(97年、同)といった映画作品でのイメージではないでしょうか。当時のおじさんたちにとっての“理想の愛人”です。

とはいえ、これだけ時間がたちながら、そのイメージをしっかりキープしていること自体、あっぱれな女優魂というべきかもしれません。


そして、最終回へ

今回、黒木さんが演じている栞は、瀧沢の出向先で「食堂のおばちゃん」として地道に働いてきた、マジメな女性です。彼女もまた、母親の介護に費やしてきた人生から一歩踏み出したいと思い始めていました。

そんな現実感いっぱいの役柄ですが、実年齢を重ねたこともあるのでしょうか、黒木さんは、しっかりと造形しています。前述のようにわざわざ原作を変更して作った、真璃子(中山)のエピソード(娘の婚約者からの求愛に戸惑うワタシ)なんぞに時間を奪われ、栞を描く部分が足りなかったことが残念なくらいです。

弘兼さんの原作漫画では、栞は瀧沢の子どもを妊娠するのですが、ドラマでは重い糖尿病を抱えて、失明の危機に陥っています。ラストに向かって、瀧沢と栞がどんな選択をしていくのか。2人の「自分探し」の結末は? 最終回の焦点です。

【気まぐれ写真館】 北海道千歳市「柳ばし」、パンフで紹介!

2018年12月16日 | 気まぐれ写真館









週刊朝日オンラインで、「朝ドラ」戸田恵梨香について解説

2018年12月16日 | メディアでのコメント・論評


戸田恵梨香がNHK朝ドラのヒロイン
「大恋愛」で実力を評価された?

来年9月30日にスタートするNHK連続テレビ小説が「スカーレット」に決まり、女優の戸田恵梨香が主演を務めることが3日、発表された。現在放送中の主演ドラマ「大恋愛~僕を忘れる君と」(TBS系)は大好評で、公式SNSにはあふれんばかりのファンからの歓喜とお祝いのコメントが寄せられた。

「戸田さんなら、どんな役柄、ヒロインであれ安心」

そう太鼓判を押すのは、上智大学の碓井広義教授(メディア文化論)だ。今回はオーディションではなく、NHKからのオファーによって、戸田の出演が決まった。

「『大恋愛』なんかは典型かもしれないが、ここ数年、ステップ・バイ・ステップでどんどん実力をつけて、安定感が出てきている。成功作にしよう、というNHKの気概を感じます」(碓井教授)


今年8月に30歳を迎えた戸田。直近10年間で30代のヒロインは、現在放送中の「まんぷく」の安藤サクラだけ。もともと演技力の評判が高かった安藤の「まんぷく」が好調なだけに、映画・ドラマ・CMで着実に実績を積み重ねてきた戸田の演技にも期待がもてそうだ。

物語の舞台は、滋賀県甲賀市にある焼き物の里・信楽。信楽焼に情熱を注ぎながら、結婚、育児、後継者育成を経て、昭和の高度経済成長期を生きる女性陶芸家の半生を描く。タイトルの「スカーレット」は、黄色味を帯びた鮮やかな赤のこと。陶芸作品における理想の色の一つであり、主人公の情熱的な人生にもつながっている。

毎年さまざまな職業のヒロインが演じられてきたが、陶芸家、すなわち芸術家という役どころはひじょうに新鮮に感じられる。

碓井教授も今までのラインナップを思い返し、「めずらしい」と感じたという。

「おもしろいところに目をつけたな、と。女性のクリエーターも“あり”だなと思いました。それも、絵画や彫刻ではなく、芸術性と実用性をあわせ持つ陶芸という点がおもしろいです」(同)

また、定年後の余生を過ごすシニア視聴者に番組がマッチすれば、ブームも期待できるという。

「“団塊の世代”(1947~49年生まれ、70歳前後)は数が多いので、火がつけばブームが起こりやすいんです。うまくいけば、社会現象のように陶芸ブームが起きる可能性もあるでしょう」(同)

脚本は、「夏子の酒」(フジテレビ)、「ホタルノヒカリ」(日本テレビ)、「つるかめ助産院」(NHK)などを担当した水橋文美江さん。朝ドラは初登板となるが、碓井教授は「適役」とみる。

「女性主役のドラマをひじょうに丁寧に書ける方。ふつうの女性が自分の力で自分をつくり上げていったり、やりたいことを見つけてそこに進んでいったりするような物語については、いい書き手だと思います」

最高の化学反応が生まれそうな脚本家と主演女優が手を組み、ブーム到来の可能性を秘める朝ドラ第101作。

「いい素材、いい書き手、いい女優と並んできた。新鮮さとぜいたく感が両方ある番組になるだろう、と期待しています」(同)


新元号最初の秋は、楽しくなりそうだ。【本誌・緒方麦】

(週刊朝日オンライン 2018.12.12)


HTB「イチオシ!モーニング」

2018年12月15日 | テレビ・ラジオ・メディア
















デイリー新潮で、NHK「受信料」値下げと「チコちゃん」について解説

2018年12月15日 | メディアでのコメント・論評


NHK受信料値下げはたった35円、
ならば「チコちゃんグッズ」を無料で配布せよ!

11月27日、ついにNHKが受信料の値下げを発表した。現在の月額1260円(地上契約の口座振替・クレジットカード払い)が、なんと1225円! 月35円の値引きという出血大サービスだあ! 

返す刀で28日には、子会社のNHKエンタープライズが人気番組「チコちゃんに叱られる!」のキャラクターグッズを販売すると発表した。

受信料はたった35円の値引き、チコちゃんグッズでいくら取り戻すつもりなのか。そんなに値下げが嫌なら、グッズぐらいサービスとして契約者に配ったらどうだ! NHK。

受信料を値下げするNHKの意図については、すでにデイリー新潮の「NHKが突如『受信料値下げ』を表明、視聴者不在の極めてうさん臭いウラ事情」(10月30日掲載)で既報の通りだ。

NHKは2020年の東京オリンピック開催までに、ネットでの常時同時配信をやりたくてやりたくて仕方ないのだが、現行の放送法では認められていない。そこで、値下げと引き換えに法改正を認めてもらおうという腹がある。

そこでNHKが出してきたのが、月35円という、しみったれた値下げなのだ。

「NHKとしてはこれが史上2度目の値下げとなります。12年10月に、8.9%(月額120円)という値下げをしたときも、“まったく値下げ感がない”と言われたものですが、今回はそれをさらに下回る値下げだったのには驚きました。どうせ大幅値下げはないと踏んでいたものの、額面ではわずか2.8%。それでもNHKとしては、来年10月の消費増税時には据え置き、さらに20年10月に35円値下げ、2年連続で計59円の大きな値下げとでも言いたいかもしれませんが、その程度なら誤差の範囲ですよ。
 契約者への還元規模は単年度で422億円と言っていますが、受信料収入は年々伸びており、昨年(6913億円)までは4年連続で過去最高を記録し、内部留保は1千億円にまで達しています。さらに今年は4月から半年で50万9千件も契約者が増加しており、今年度の収入は7060億円を見込んでいます。それもこれも、昨年、最高裁が受信料制度を合憲と認めたからです」(放送業界誌記者)

NHKは11月29日、受信契約の締結と受信料の支払いを求めて新たに大阪府の未契約世帯6件に対し、民事訴訟を起こした。

「NHKはこれまで、365件もの民事訴訟の提起を行い、うち183件については、契約に応じたために訴えを取り下げ、さらに82件で和解し、82件でNHKが勝訴。残りの18件は係争中です。かなり強気です」(同・放送業界誌記者)

いったい皆様のNHKはどこに行ってしまったのか。

子会社は商売上手
「NHKも必死であることは間違いないのです。少子化も進む中、スマホの普及により、若年層を中心にテレビ離れが進んでいるからです。総務省の発表(平成29年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書)ではテレビの視聴時間は、10代の場合、平日1日の視聴時間は73.3分で、ネットの128.8分大きく下回っており、その傾向は年々悪化しています。
 テレビで受信料が取れなくなれば、NHKにとっては死活問題ですから、ネットにもテレビと同じ番組を配信することで、ゆくゆくはそこから受信料を取りたいわけです」(同・放送業界誌記者)

そのための常時同時配信であり、それを実現するために総務省の条件を呑み、35円の値下げに踏み切ったわけである。「損して得取れ」とはこのこと。だが、その「損」ももったいないのか、子会社のエンプラがチコちゃんグッズを販売すると発表したのである。

「NHKには子会社が13、関連会社が4つ、関連公益法人などが9団体あります。放送法によりNHKは営利目的の事業、つまり商売をしてはいけないことになっていますが、1982年の法改正で営利企業への出資が認められるようになったために、不安定だった受信料収入を補完する目的で作られたのが関連会社です。
 NHK職員の天下り先でもあり、関連会社に出向し、また本体に戻ってくるなど密な関係で知られています。関連団体からNHKへの副次収入は毎年50~60億円に上る。なかでもエンプラは、子会社の中でも最大の利益を生み出す企業で、番組制作はもちろん、番組のソフト販売、番組グッズの販売なども行っています」(同・放送業界誌記者)

“どーもくん”や“にこにこ、ぷん”、朝ドラグッズなども幅広く手がけており、東京駅やスカイツリーなど、期間限定のショップも含めると、現在、全国11カ所に店舗を設けている。そのグッズは結構なお値段なのだ。例えば……。

●どーもくん 20th Anniversary 袴ぬいぐるみ:3780円

●大河ドラマ どーもくんセット(西郷どん、新撰組! ):5184円

●にこにこ、ぷん ぬいぐるみSS ぽろり:2268円

●おじゃる丸 ランチトート おじゃる17:2376円

●とと姉ちゃん キャンバストートバッグ:1620円

などなど、どーもくんグッズは19種もあったりして、民放のグッズ販売よりも充実している。さらに、大人気のチコちゃんグッズを加えるというわけだ。

チコちゃんのファンという上智大学の碓井広義教授(メディア文化論)は言う。

「私も欲しくなるもんなあ、チコちゃん。大ヒット間違いないと思います。商売が上手いですよ、NHKは。だけど、こと受信料となると、まったく視聴者のことを考えていない。数十円の値下げなら、ありがた感は全く無いし、かえって寝た子を起こすようなものです。こんなに払っていたのかと。その程度の値下げなら、番組の中身の向上に使ってもらってかまいません。
 12月1日からは4K・8Kの放送も始まるわけですが、いまのところ富裕層しか関係ありません。いくら画像が綺麗、音もいいとか言われても、ハイビジョンのときの宣伝文句とどう違うのか分からない。約400億円もの視聴者還元が月に数十円にしかならないのなら、戦後の街頭テレビじゃないけど、4K・8Kがどれだけすごいのか、駅前にでも設置して見せてほしい。4Kテレビを配布しろとまでは言いませんから。もしくは、シールでもいいからチコちゃんグッズを配布したほうが、よっぽど視聴者はありがたがるかもしれません」


いつもお世話になっております。粗品ではございますが……くらい言ってみたらどうですか。【週刊新潮WEB取材班】

(デイリー新潮 2018年12月11日)

【気まぐれ写真館】 路面凍結 夜の札幌

2018年12月14日 | 気まぐれ写真館
2018.12.14

HTB北海道テレビ「イチオシ!」

2018年12月14日 | テレビ・ラジオ・メディア




















書評した本: 川本三郎 『あの映画に、この鉄道』ほか

2018年12月14日 | 書評した本たち


週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。


川本三郎 『あの映画に、この鉄道』
キネマ旬報社 2700円

『網走番外地』の根室本線から、『男はつらいよ 寅次郎真実一路』の指宿枕崎線まで。日本映画と全国の鉄道をテーマに書き下ろされた最新エッセイ集だ。映画の内容を確かめながら、彼方の鉄路を想像する。巻末の地域別と作品別、二つの誠実な索引も有難い。


平野啓一郎『 考える葦』
キノブックス 2160円

ここ4年の間に書かれた批評・エッセイ集だ。谷崎潤一郎と三島由紀夫における小説の「構造的美観」。ハンナ・アーレント「反ユダヤ主義」の考察。かと思うと昭和プロレスの“リアリティ”や「自己責任」論も。67篇の連なりから著者の現在の立ち位置が見えてくる。


デイヴィッド・ゴードン:著、青木千鶴:訳 
『用心棒』

早川書房 1278円

『二流小説家』の著者による濃密なハードボイルド。主人公のジョーはハーバード中退、元陸軍特殊部隊所属で現在はクラブの用心棒だ。マフィアから、あるヤマのドライバーを依頼されるが、窮地に陥ってしまう。ひりひりするような逃亡と反撃の始まりだ。


佐藤優子 
『はじまりは、いつも楽しい
 ~デザイナー・彫刻家 五十嵐威暢の
 つくる日々』

柏艪舎 1296円

デザイナーとしてサントリーやカルピスなどのロゴを手がけた五十嵐威暢(たけ のぶ)。90年代には彫刻家に転身し、JR札幌駅の巨大なテラコッタ作品「テルミヌスの森」などを生み出してきた。「つくることはあそぶこと」を信条とする創造の軌跡を自身の言葉で伝えている。

(週刊新潮 2018年11月29日号)




「僕キセ」は今期一番のハートフルドラマ

2018年12月13日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評


高橋一生らが好演
「僕キセ」は今期一番のハートフルドラマ

高橋一生主演「僕らは奇跡でできている」(フジテレビ系)が今夜、最終回を迎える。主人公の相河一輝(高橋)は、恩師(小林薫)に招かれた大学で動物行動学の専任講師を務めている。家では住み込みの家政婦(本当は生みの母だった)、山田妙子(戸田恵子)と2人暮らしだ。

そしてストーリーは……という具合に説明しようとすると困ってしまう。研究者の仕事ドラマではない。事件が起きるサスペンス物でもない。歯科医の水本育実(榮倉奈々)との交流はあるが、恋愛物とも違うのだ。

一輝は幼い頃から好きな動物や生き物には夢中になれるが、それ以外のことには興味を持てない。他者と折り合いをつけることも苦手だ。

それは大人になっても変わらず、礼儀正しいけれど、世間の価値観に合わせることは眼中にない。

少年の頃、周囲の期待に応えようとして苦しくなった時、祖父(田中泯)が「やりたいならやればいい。やらなきゃって思うならやめればいい」と言ってくれたことが救いになっている。そんな一輝に影響されて、育実も学生たちも、学習困難の少年と母親も少しずつ変化していく。

というわけで、これは“生きづらさ”を抱えながら生きている人たちへの、静かな応援歌みたいなドラマなのだ。高橋の好演と相まって、地味ながらも今期一番のハートフルドラマとなった。

(日刊ゲンダイ 2018.12.12)

AERA dot.が、「五輪解説者」記事を再録

2018年12月12日 | メディアでのコメント・論評


【2018年ベスト20】〈週刊朝日〉
浅田真央、安藤美姫、里谷多英ら
解説者に採用されない元スター

2018年も年の瀬に迫った。そこで、AERA dot.上で読まれた記事ベスト20を振り返る。

14位は「里谷多英、浅田真央、安藤美姫ら解説者に採用されない元スター」だった。すっかり記憶から遠くなってしまったが、今年は平昌五輪の年だった。五輪の元スターを解説者に据えることは珍しくない。だが、必ずしも一流の競技者は、一流の解説者とは限らないようだ。

*  *  *

五輪会場の外で熱いバトルを繰り広げる五輪解説者たち。NHKは元女子モーグル選手の上村愛子さんが現地からの解説を務めたが、長野五輪の金メダリスト、続くソルトレーク五輪で銅メダルも獲得した里谷多英さん(41)の姿は、平昌五輪で見られなかった。

里谷さんは99年にフジテレビに入社、今も現役社員なのに……。

「現在は総合事業局イベント事業センター販売企画部に勤務しております。フジテレビが主催や共催をしているイベント事業の営業活動が仕事です。イベント事業の企画ではなく、チケットを販売したり、スポンサーをまわるセールスのほうが担当です」(フジテレビ広報担当者)

2010年のバンクーバー五輪で浅田真央、鈴木明子、安藤美姫らと競い、惜しくも代表の座を逃したものの、「世界一のドーナツスピン」と称賛された元フィギュアスケーターの中野友加里さん(32)も、10年にフジテレビに入社しているが、テレビでは見られない。

「中野は現在はフジテレビのスポーツ局スポーツ業務推進センタースポーツ業務部に勤務しております。スポーツ番組の予算の管理などを行う部署です」(同)
中野さんは昨年9月、著作『トップスケーターのすごさがわかるフィギュアスケート』を発売し、以前はフジで解説の仕事もしていただけにもったいない。

今回の平昌五輪のフィギュアスケート解説者はフジテレビでは高橋大輔、日本テレビでは荒川静香、テレビ朝日は織田信成がその座を獲得した。ソチ五輪に出場した村上佳菜子(23)はワイドショーに五輪コメンテーターとしてひっぱりだこだ。

「冬季五輪ということでは金メダルを取った荒川静香さんというのはぴったりだとは思います。織田信成さんは五輪で7位、村上佳菜子さんは入賞もできませんでしたが、キャラクターがおもしろいので解説力というよりはタレント性で起用されてますね」(上智大学の碓井広義教授)

一方、安藤美姫(30)はSNSでの情報発信を駆使。ツイッターで羽生結弦選手らの演技を詳しく解説。今回の平昌で争奪戦があったのに、姿が見られなかった浅田真央はどうか。

「浅田さんはご本人が解説者として話をする自信がないということをどこかで話していた。非常に賢いなと思います。一流の競技者=一流の解説者ならず。コメント力が必要なのです」(同)


(本誌・上田耕司)

※週刊朝日  2018年3月2日号

(AERA dot. 2018.12.09)

【気まぐれ写真館】 大学の「クリスマス・イルミネーション」

2018年12月11日 | 気まぐれ写真館



毎日新聞で、「リバイバル女優」について解説

2018年12月10日 | メディアでのコメント・論評


特集ワイド
「リバイバル女優」花盛り 
今も昔も変わらぬ存在感

近ごろ、長期の“休業”を経て復帰した女優が目立つ。多くは1980年代後半から90年代前半のトレンディードラマで名をはせた主演女優である。似たようなタイミングで、なぜ「リバイバル(復活)」しているのだろう。【小松やしほ】

今年7~9月にTBS系で放送された連続ドラマ「この世界の片隅に」は、ちょっとした驚きだった。なぜなら仙道敦子(のぶこ)さん(49)が、実に23年ぶりのドラマ出演を果たしたからだ。

仙道さんは90年代に連続ドラマ「卒業」「クリスマス・イヴ」(いずれもTBS系)で主演として活躍。93年に俳優の緒形直人さんと結婚したのち、95年の単発ドラマ「テキ屋の信ちゃん5」(同)以来、芸能活動から遠ざかっていた。

仙道さんは雑誌「婦人公論」(8月28日号)のインタビューで、復帰の感想をこう述べている。

<ドラマの衣装合わせの時、スタッフから「お帰りなさい」と声を掛けられ、「ただいま」と返して。この世界に帰ってきたんだと、思わず胸がジンとしました>

仙道さんだけではない。現在放送中のドラマ「SUITS/スーツ」(フジテレビ系)では、鈴木保奈美さん(52)が「東京ラブストーリー」(同)以来27年ぶりの織田裕二さんとの共演で話題になっている。

鈴木さんは、98年に芸人の石橋貴明さんとの再婚を機に芸能界を一度引退。約10年ほどの休業を経て、2008年ごろから復帰。今年10~11月に放送された「主婦カツ!」(NHK)では主演を務めた。

同じく「黄昏(たそがれ)流星群」(フジテレビ系)に出演している中山美穂さん(48)も、02年に小説家の辻仁成さんと結婚して、フランス・パリに移住。日本での芸能界活動を一時期休止していた。

映画界でも、フランス人F1レーサーと結婚し、女優業を引退していた後藤久美子さん(44)が、来年12月に公開予定の「男はつらいよ50 おかえり、寅さん」(仮題、山田洋次監督)で、23年ぶりに復帰することがニュースとなった。

まさに「リバイバル女優」花盛りといった趣だ。子育てが一段落したり、離婚してシングルになったり、個々の事情は当然あるだろうが、軌を一にするかのように次々復活しているのには理由があるのだろうか。

「50歳前後になって、10年も20年も女優として出演していなかった人が復帰して、午後7時から10時のゴールデン・プライムタイムのドラマに出るなんて、20年、30年前だったら考えられないですよね」と驚くのは、コラムニストでアイドル評論家の中森明夫さんだ。「ここ最近、ドラマの作りが、若者ではなく50歳前後の大人向けになっています。当然、主役にも若い子ではなく、同年代の女優を起用する。それが、彼女たちが復帰しやすい土壌をつくっているのでしょう」

NHK放送文化研究所が16~69歳の男女を対象に今年行った調査によると、テレビを毎日のように利用する人は、20代男性では32%、同女性では48%なのに対し、50代の男性は64%、女性は70%、60代では男女とも70%以上となっている。スマートフォンの普及とともに、テレビの主要視聴者は若者から中高年層へと変わってきているのだ。

中森さんは「社会の自由度の変化も復帰を後押しした要素の一つ」と、得意分野のアイドルを例に解説してくれた。

「21歳で引退して、表舞台に全く出てこない山口百恵さんが象徴的ですが、30年ほど前は企業でも寿退社や腰掛け就職があったし、結婚して子どもを産んだ後、アイドルに復帰する人はいなかった。松田聖子さん以降は引退しないのが当たり前。ベビー用品のCMに出たり、子ども服をプロデュースしたりと仕事の幅も広がるし、人気も落ちない。鈴木さんは再婚だし、中山さんも離婚を経験しているが、今の世の中では珍しいことではなく、非難されることもない。ましてや彼女たちは、50歳前後の人たちにとって憧れの存在だった。復帰するための時代の下地は整っていたのです」

 ◇同年代の視聴者、人生重ね共感

コラムニストの山田美保子さんも同じような見方だ。

「ゴールデン・プライム帯のドラマを見ているのは、元祖トレンディードラマのファンです。すなわち、それは“リバイバル女優”さんたちと同年代の女性たち。リアルタイムでテレビを見ない人が多い中、アラフォー、アラフィフ、アラ還の人たちはリアルタイムでドラマを見てくれる、テレビ局にとっては大事なお客様なんです。その人たちにとって、見ていてしっくりくる女優さんとなると、彼女たちなのかなという感じがします」

共感しやすいというのもポイントだ。「相手は女優ではあるけれど、自分と同じように年齢を重ねてきて、プライベートもある程度、報道などで知っているので、結婚して子育てが落ち着いてとか、夫を支えたり離婚したり苦労したのねとか、シンパシーを感じやすい。『いい女優になったわね』って、成長を楽しむみたいなところもあると思います」

今の若手人気主演女優といえば、綾瀬はるかさん、新垣結衣さん、石原さとみさん、戸田恵梨香さんらの顔が浮かぶが、山田さんは「演技も上手だし、視聴率も取れるが、ヘビーローテーション過ぎて『またこの人』感は否めない。次回はこんな役ですと言ったところで、同じように見えてしまう。その点、リバイバルの人たちは、長年出ていなかったわけだから、ベテランながらある意味、新鮮。仙道さんなんて、よくぞ出てきてくださいましたって感じですよ」と話す。

元テレビプロデューサーの碓井広義・上智大教授は「往年の主演女優をありがたがっているのは視聴者より作り手側」だと指摘する。

「彼女たちは主演女優として一時代を築いた。当時、キャスティングしていた人たちは偉くなっているか、リタイアしていて、遠巻きに見上げていたAD(アシスタントディレクター)やAP(アシスタントプロデューサー)が今、女優を起用する側にいる。彼らにとって彼女たちは今もすてきな存在なんです。他の女優でも構わない役であっても、彼女たちを据えることで物語に厚みが出る。やはり主役を張った人たちですから、画面に出てきた時の存在感が違うんです。ドラマにとってのカンフル剤とまではいかなくても、トッピングとして非常にいいものになっている」

一方で、碓井さんは「昔のイメージを壊すようなオファー(依頼)には乗らなければいいのだから、“リバイバル女優”側にとっても悪い話ではない」とも話す。

ドラマの大事な支持層である中高年視聴者、作り手、起用される女優――。三方にメリットがあるというわけだ。

「鈴木さんたちの成功が、我々が忘れていた人がひょっこり出てくる呼び水になるんじゃないですか。今、必死で探していると思いますよ。あの人は今?っていうのを」と碓井さん。


これからも、テレビに返り咲く女優は増えるかもしれない。

(毎日新聞 2018.12.05 東京夕刊) 

2018年のドラマ界 女性活躍とおっさん特需

2018年12月09日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評


<週刊テレビ評>
今年のドラマ界 
女性活躍とおっさん特需

今年のドラマ界を振り返ってみたい。まず1月期、親子や家族の本質を問いかけた、坂元裕二脚本の「anone」(日本テレビ系)が目を引いた。だが、「アンナチュラル」(TBS系)の衝撃には及ばない。もの言わぬ遺体を起点に事件の真相へとたどり着くプロセスだけでなく、非日常的に思える「不自然な死」の中に人間の日常に潜む怒りや悲しみを描き出す、野木亜紀子のオリジナル脚本が秀逸だったのだ。

次に4月期というだけでなく、今年最大の話題作となったのが徳尾浩司脚本「おっさんずラブ」(テレビ朝日系)だ。女性にモテない33歳の男(田中圭)が、55歳の上司(吉田鋼太郎)と25歳の後輩(林遣都)から求愛されてしまう。同性間恋愛と男たちの“可愛げ”を正面から描いて新鮮だった。

また深夜にわずか7回という露出ながら、SNSなどソーシャルメディアによって支持の声が広がっていった現象にも注目したい。リアルタイム視聴だけを評価する時代から、ようやく録画などのタイムシフト視聴を加味した総合視聴率の時代へと転換が始まった時期を象徴する1本となった。

7月期、石原さとみ主演「高嶺の花」(日テレ系)があった。野島伸司脚本ということで期待されたが、華道家元のお嬢様(石原)と町の自転車店店主(峯田和伸)との格差恋愛で何が描きたかったのか、やや不明のまま終わった。

一方、森下佳子脚本「義母と娘のブルース」(TBS系)は出色の家族ドラマになった。際立っていたのがヒロイン、宮本亜希子(綾瀬はるか)のキャラクターだ。家でも外でもビジネスウーマンの姿勢を崩さず、奇妙なほど事務的で丁寧な話し方。何事にも戦略的に取り組むバイタリティー。それでいて、どこか抜けているから目が離せない。笑わせたり泣かせたりの展開を通じて、夫婦とは、親子とは何かを考えさせてくれた。

10月期では金子ありさ脚本の「中学聖日記」(TBS系)が賛否両論となった。たとえタブーと呼ばれる恋愛であっても、人の気持ちは誰にも止められない。しかし有村架純が演じるヒロインに、視聴者の共感を得るだけの覚悟が見られないことがもどかしかった。

その点、大石静脚本「大恋愛~僕を忘れる君と」(TBS系)の病を抱えたヒロイン(戸田恵梨香)と、それを支える男(ムロツヨシ)の覚悟には、最後まで見届けたいと思わせるだけの現代性と切実感がある。また戸田とムロの好演も予想を超えていた。

平成“最後”のドラマ界は、女性脚本家の活躍と「おっさん」特需に彩られた1年だったのだ。

(毎日新聞「週刊テレビ評」 2018.12.08)