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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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現場からの報告「十三回忌追善 実相寺昭雄 特撮ナイト」

2018年12月02日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム



現場からの報告
「十三回忌追善 実相寺昭雄 特撮ナイト」

今年は『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』、そして映画『帝都物語』などで知られる、実相寺昭雄監督の13回忌にあたります。

11月29日が命日だったのですが、12月1日から翌朝にかけて、池袋の新文芸坐で追善のオールナイト上映会が開かれました。

撮影監督である中堀正夫さんをはじめとする、「実相寺組」のメンバーの皆さんと一緒に、私も不肖の弟子として活動している「実相寺昭雄研究会」も、今回のイベントに協力させていただきました。以下は、その報告です。


新文芸坐「十三回忌追善 実相寺昭雄 特撮ナイト」

当日は新文芸坐の二百数十席が、前売りだけで完全に埋まってしまい、満員御礼。当日券の発売はありませんでした。

まず、亡くなって10年以上も過ぎた監督の作品を観るために、この「十三回忌追善 実相寺昭雄 特撮ナイト」に、たくさんの人たちが集まってくださったことに感謝です。

プログラムは・・・

【トークショー】庵野秀明監督、樋口真嗣監督、樋口尚文監督

『ニッカウヰスキーCM集』(約15分)
『KAN TOKU 実相寺昭雄』(2016/30分/BD/ドキュメンタリー)
『シルバー仮面』1・2話(1971/BD/TV作品)
『実相寺昭雄監督作品ウルトラマン』(1979/102分/35mm)
『ウルトラセブン』45話「円盤が来た」(1968/BD/TV作品)
『ウルトラマンダイナ』38話「怪獣戯曲」(1997/BD/TV作品)
『帝都物語』(1988/135分/35mm)




庵野秀明監督、樋口真嗣監督、樋口尚文監督の揃い踏み

上映に先立って行われた、庵野秀明監督、樋口真嗣監督、樋口尚文監督のお三方によるトークショーが秀逸でした。

司会役の樋口尚文監督に促され、『帝都物語』に参加していた当時、実相寺監督がいかに「ツンデレ」だったのかを、笑わせながら語ってくださったのは樋口真嗣監督です。

真嗣監督は、『帝都』の絵コンテ全編を描いた人ですが、劇中で、今和次郎(いとうせいこう)が手にするフィールドワークノートを、「ページを何枚めくるかわからないから、全部書いておいて」と実相寺監督に言われ、徹夜で準備したそうです。とにかく「ツンデレ」の監督を喜ばせたくて、「何でもしました」と懐かしそうに語っていました。

庵野監督は、小学生時代に見た、実相寺監督の『怪奇大作戦』がいかに怖かったかを回想し、大学時代にあらためて見直した時、「こんなすごいことをやっていたのか」と驚いたそうです。

また、この日に上映された映画版『実相寺昭雄監督作品ウルトラマン』について、この作品の「とにかくオープニングが大好き」と何度も言いながら、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』への影響を明かしてくれました。



庵野監督とW樋口監督




『ニッカウヰスキーCM集』の衝撃

そして上映会。スタートは、直前まで公表されていなかった、『ニッカウヰスキーCM集』です。

実相寺監督は映画やドラマのほかに、実に数多くのCMを手がけてきました。中でも、アメリカのソプラノ歌手、キャスリーン・バトルが歌った『オンブラ・マイ・フ』で知られるニッカのシリーズCMは名作ばかりです。

「わたしは美味しいウヰスキーを知っています」という、山崎努さんの渋い声のナレーションを記憶している人も多いはずです。

今回、保存されていたフィルムを、撮影した中堀さん自身がチェックし、ニッカのご協力を得て、スクリーン上映することができたのです。私も劇場のうしろの壁際の中央に、中堀さんと並んで立って見ました。

移動撮影を多用した中堀さんのカメラワーク。やはり実相寺組の牛場賢二さんの絶妙な照明。そしてロケ現場に凛として立つ、キャスリーン・バトルの歌と存在感が圧倒的でした。まさに、ディーバです。






13回忌の先へ・・・

このCM集のあとは、実相寺組の勝賀瀬(しょうがせ)重憲監督が撮った、ドキュメンタリー映画『KAN TOKU 実相寺昭雄』に続き、『シルバー仮面』から『帝都物語』まで、実相寺作品が朝まで上映されました。

13回忌は、あくまで1つの区切りです。これからも鬼才・実相寺昭雄監督とその作品を、様々な形で次代に伝えていく活動を続けていきたいと、研究会一同は思っています。

合掌。










中堀さんと実相寺作品常連の俳優・堀内正美さん


内野さんと堀内さん



限定品「13回忌追悼 実相寺昭雄フィギュア」3種
原型制作:松園公(池田大樹)









「下町ロケット」後半戦を面白くする道産子たち

2018年12月02日 | 「北海道新聞」連載の放送時評


日曜劇場「下町ロケット」
 後半戦を面白くする道産子たち
 

3年ぶりの続編となる日曜劇場「下町ロケット」(TBS―HBC)。主人公の佃航平(阿部寛)をはじめ、技術開発部長の山崎(安田顕)、エンジニアの立花(竹内涼真)など、おなじみの顔に親近感がわく。それは帝国重工の財前(吉川晃司)や社長の藤間(杉良太郎)も同様だ。

前作でのロケットに搭載するバルブから一転して、今回はトラクターのトランスミッションの開発で物語はスタートした。舞台は「宇宙から大地へ」というわけだ。しかし、展開されたのは「特許侵害」をめぐる法律的な攻防戦だったり、相手をだましたり、裏切ったりする陰湿なエピソードが多かった。そこには、かつてのような熱い技術開発合戦とその逆転劇がもたらした爽快感があまりない。視聴者側もやや戸惑っているのではないか。

そんな「下町ロケット」が後半戦に突入し、精彩を放ちはじめた。キーマンは北海道農業大学教授の野木博文(森崎博之)だ。佃(阿部)とは大学時代からの友人で、現在は「無人農業ロボット」の研究している。野木は北海道の出身。元々は人工衛星の情報を活かして北海道の農業を自然災害から守りたいと思っていた男だ。農業に対する危機感も、それを救いたいという気持ちも人一倍強い。無人農業ロボット(トラクターなど)が人手不足を補うことで、たとえば米農家がその技術や伝統を継承しながら利益も上げていくことを可能にしようというのだ。

この野木に森崎がピタリとはまっている。「あぐり王国北海道NEXT」(HBC)は、「森崎博之のあぐり王国北海道」として始まり10年も続く長寿番組だ。農業の現場に足を運んできた体験は、ドラマの中で農業の未来を語る森崎の言葉に、フィクションを超えたリアリティを与えている。こんな役者、そうそういるものではない。

しかも、そんな野木を同じ技術者として敬愛し、また共感する佃製作所の山崎を演じているのは安田顕なのだ。山崎が野木に向かって、「無人農業ロボットは米作りだけではなく、(北海道の特産品である)ジャガイモやトウモロコシなど、いろんな作物の収穫に役立てるかもしれない!」と言う場面など、見ていて胸が熱くなった。

今後、無人農業ロボットの開発は、ダイダロスの重田(古館伊知郎)がリーダーの「ダーウイン」や、帝国重工の「アルファ1」の登場で混戦模様となっていく。年末のゴールに向かって目が離せない。


(北海道新聞「碓井広義の放送時評」2018年12月01日)