碓井広義ブログ

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丸山健二『田舎暮らしに殺されない法』の”さすがの凄み”

2008年05月20日 | 本・新聞・雑誌・活字
田舎暮らしに殺されない法
丸山 健二
朝日新聞出版

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それにしてもハッキリものを言う人だ。『田舎暮らしに殺されない法』の丸山健二さんである。団塊の世代の大量定年とリンクして、「第二の人生を田舎で」と志向する人は増加してきたし、実際に都会から移り住む人も相当いる。移った先の田舎では、ありがちなペンション経営から農業を始める人まで様々だ。

丸山さんがこの本で言っているのは、思いっ切りはしょってしまえば「田舎への移住など、およしなさい」ってことだ。その理由を、じっくり、こんこんと、ときに激しく、しかも極めて具体的に説明している。何しろ、ご自身が(元々の出身県とはいえ)田舎(信州安曇野)に移り住んで長いため、田舎の良さも、悪いところも、身をもって知っているのだ。移住希望の人たちが「夢想する田舎」と「現実の田舎」の差異を、この本では容赦なく挙げていく。

確かに、田舎暮らしや移住のためのガイドブックや雑誌の特集には決して記されない、田舎ならではのエグい部分は多々ある。本当にある。

これを読むと、退職金を手にして、「老後は、自然に恵まれた田舎で、素朴な人々と触れ合いながら、のんびり、豊かな気持ちで生活したいものだ」なーんて考えたり、着々と計画を進めている団塊世代は、冷水をぶっかけられたように感じるかもしれない。

また、これだけリアルに、クールに「田舎」&「田舎の人々」の現実について言及されれば、昔から田舎(信州安曇野に限らず)に住んでいる、いわゆる地元の人たちの中には「そこまで言うか!」と怒る人も多いだろう。

しかし、この本のキモは、「安易な田舎移住」への批判にあるのではなく、これまでどう生きてきたか、そしてこれからどう生きるかを真剣に考えること、自分の真の姿を(辛くても)見すえることを説いている点にある。

文壇という群れを嫌い、精神的にも物理的にも自身の文学スタイル、およびライフスタイルを貫いている丸山さんらしい一冊といえるのだ。

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