碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

【新刊書評2024】 内田 樹『勇気論』ほか

2024年07月12日 | 書評した本たち

 

 

「週刊新潮」に寄稿した書評です。

 

中村敏子『福沢諭吉 「一身の独立」から「天下の独立」まで

集英社新書 968円

過去の福沢研究は、西洋の影響と国家に関する議論が中心だった。著者は福沢が新時代の人間と社会をどう考えたのかを探っていく。注目するのが、儒学の思想を足場に西洋の思想を取り込んでいたことだ。個々が学ぶことで「一身の独立」を目指す『学問のすすめ』。また「一国の独立」を確保するために文明を求める『文明論之概略』。主要著作を改めて読み解くことで、新たな福沢像に迫る。

 

斎藤美奈子『あなたの代わりに読みました

 政治から文学まで意識高めの150冊

朝日新聞出版 1980円

昨年5月に休刊した「週刊朝日」。その読書欄の名物連載が「今週の名言奇言」だった。本書には著者が10年間に取り上げた全490冊から厳選した154冊が並ぶ。「現代社会」の章では柄谷行人『憲法の無意識』や石川優実『もう空気なんて読まない』など51冊。「文芸書」は高齢女性が主人公の永井みみ『ミシンと金魚』をはじめとする53冊。「昨日を省み、明日を生きる糧」としての読書案内だ。

 

内田 樹『勇気論』

光文社 1870円

ある雑誌で、今の日本人に足りないものを訊かれ、「勇気」と答えた著者。編集者と往復書簡の形で対話を重ねながら、このテーマを螺旋状に深化させていく。勇気とは「孤立に耐える」ための資質。現代社会では孤立することが極端に忌避されていると著者は言うが、それはなぜか。勇気と「正直」や「親切」との関係も含め、正解を得るより正しく問い続けることを志向する、画期的な勇気論だ。

(週刊新潮 2024.07.11号)

 


この記事についてブログを書く
« 言葉の備忘録378 我に・・・ | トップ | 次の記事へ »
最新の画像もっと見る

書評した本たち」カテゴリの最新記事