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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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週刊ポストで、視聴率「新指標」とドラマについてコメント

2018年11月04日 | メディアでのコメント・論評


民放テレビで
やけにドラマが増えている理由とは

テレビ局にとって視聴率はスポンサーを説得するための絶対の営業ツールであり、テレビマンが胸を張って誇るための「物差し」だった。

だが、その“目盛り”は時代とともに変わり、10%を超えれば大ヒットとなり、一桁も当たり前。冬の時代を迎えたテレビ界はいま、現状打開のために導入した「新指標」、タイムシフト視聴率で“目盛りの読み方”まで変えようとしている。

従来の視聴率は、ビデオリサーチ社が調査対象世帯に専用の受像器をセットし、その世帯が「いま見ている番組」を集計して算出。その数字を元にテレビ局は各企業に営業をかけていた。

リアルタイム視聴率の低下により、新たに導入されたのは、録画再生の視聴割合を指す「タイムシフト視聴率」だ。従来の視聴率だけでなく、1週間のタイムシフト視聴率を合算した数字をもとに、スポンサーと広告代理店、テレビ局が取引することになった。この2つを足すことにより「視聴率は高いですよ」とアピールできるよう動いているのである。

だが、肝心の番組制作サイドは、新指標に振り回されている。フジテレビのドラマ制作スタッフが嘆息する。

「確かにタイムシフト視聴率でいえばウチのドラマは好調です。1~3月期の『海月姫』や『FINAL CUT』はリアルタイムよりタイムシフトのほうが数字がよかったし、7~10月期のドラマでも『グッド・ドクター』と『絶対零度』はタイムシフト視聴率で毎週8%以上稼いでいた。

それでも広告収入が増えたという話は聞かないし、制作費はこの数年削られる一方です。最近は上から『録画でも数字を取れるコンテンツを意識しろ』と言われ、現場は混乱するばかりです」

新指標を元にした上層部からの“無茶ぶり”は、他局でも起きている。別のキー局社員が語る。

「最近、幹部が『報道やスポーツを録画して見る視聴者はいない。録画視聴者の多いドラマの枠を増やそう』なんて言い出したんです。それを伝え聞いた報道スタッフは激怒していましたよ。『俺たちの仕事をなんだと思ってるんだ!』って。リアルタイムの視聴率を諦めるような発言は、現場のモチベーションを下げるだけです」

その言葉を裏付けるかのように、各局は“ドラマ重視”の姿勢を鮮明にする。

テレビ朝日は4月から日曜午後9時にドラマ枠として「日曜プライム」を新設し、テレ東も月曜午後10時に「ドラマBiz」を開設。フジも昨年10月から、月曜深夜0時25分を「ブレイクマンデー24」として深夜ドラマ枠を新設している。元NHKの番組ディレクターで次世代メディア研究所の鈴木祐司氏が語る。

「制作費もキャストのギャラもかかり、コストパフォーマンスの悪いドラマ枠は一時各局で縮小傾向が見られましたが、タイムシフト視聴率を意識して、この1年で復活しました。最近はドラマだけではなく、映画、アニメといった『録画でじっくり見たい番組』を各局の編成担当は増やそうとしています」

最近、テレビを付けると妙にドラマばかりやっている──そんな気分になるのは、気のせいではなかったわけだ。

「スポンサーもテレビ局のドラマ偏重を理解しており、その作品に登場する俳優を使ったCMを意図的に流すなど、“録画でも飛ばされにくい”作りを意識しています。昨今、ドラマの続きかと思うようなCMが多いのも、このためです」(元テレビプロデューサーで上智大学文学部教授の碓井広義氏)

(週刊ポスト2018年11月9日号)

社会派エンターテインメントの佳作「ハラスメントゲーム」

2018年11月04日 | 「北海道新聞」連載の放送時評


唐沢寿明主演「ハラスメントゲーム」
社会派エンターテインメントの佳作

今年4月に新設された、月曜夜10時の連続ドラマ枠「ドラマBiz(ビズ)」(テレビ東京―TVh)。「経済に強いテレ東」という自社の特色を生かして、ビジネスや働くことを軸に人間や社会を描くドラマを目指している。

10月に始まった「ハラスメントゲーム」は3作目だ。タイトル通り、企業における「パワーハラスメント(以下、パワハラ)」や「セクシャルハラスメント(以下、セクハラ)」がテーマになっている。パワハラとは、社会的に地位が高い人間(会社なら上司など)が、その立場や権力を使って行う嫌がらせを指す。また、それが女性という特性を前提に行われた場合にはセクハラと呼ばれる。

主人公の秋津渉(唐沢寿明)は、全国でスーパーマーケットを展開する「マルオホールディングス」のコンプライアンス室長だ。部下に対するパワハラ疑惑がきっかけで地方に左遷されて7年。突然、本社への異動命令があり、室長となった。

第1話では、練馬店で買ったメロンパンを子どもが食べたら、中に1円玉が混入していたと母親(志田未来)からクレームがあった。しかし製造過程での混入は考えられず、店内の監視カメラの映像にも怪しい人物は映っていない。さらに売場主任は、「パワハラをやめろ!」という若い女性から不審な電話を受けたと証言。結局、秋津たちが明らかにしたのは、店長から勤務態度を注意された売場主任の逆(さかうら)恨みだった。

また第2話では、オープン直前の品川店で、大量のパート従業員が店を辞めると言い出す。原因は社長(滝藤賢一)のインタビューにおけるセクハラ発言だと主張。会社はパートリーダー(余貴美子)をクビにして事を収めようとするが、秋津は彼女が商品や売り場について熱心に提案を続けてきた事実を知り、そこから真相へとたどり着く。

同名の原作小説と脚本は、「BG~身辺警護人~」(テレビ朝日系)などの井上由美子だ。パワハラやセクハラが一筋縄では対処できないものであることを踏まえ、毎回、リアルで起伏に富んだストーリーになっている。また秋津も純粋な「正義の人」ではない。場合によっては危ない橋も渡り、清濁併せ呑むことを厭(いと)わない人物として造形されている。

最近は様々なハラスメントが企業の根幹を揺るがすケースも多い。企業だけではなく、個人もまた、被害者にも加害者にもなり得るのが現代なのだ。このドラマはそんな同時代の社会問題に果敢に挑む佳作と言っていい。

(北海道新聞「碓井広義の放送時評」2018年11月03日)