碓井広義ブログ

<上智大学教授のメディア時評> 見たり、読んだり、書いたり、話したり、時々考えてみたり・・・

セリフに込められた言葉の力「大恋愛~僕を忘れる君と」 

2018年11月02日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評


<週刊テレビ評>
戸田恵梨香主演「大恋愛~僕を忘れる君と」 
セリフに込められた言葉の力

金曜ドラマ「大恋愛~僕を忘れる君と」(TBS系)が始まる前、正直言って懸念があった。まず、恋愛ドラマであることはわかるが、一見ふざけているかのような、大胆すぎるタイトルに驚いた。

また番組サイトでは「若年性アルツハイマーにおかされた女医と、彼女を明るく健気(けなげ)に支える元小説家の男」の物語だと紹介されている。「よくある難病モノか」と思ったり、「韓流ドラマみたいな話だな」と感じたりする人も多いのではないかと気になった。映画に「私の頭の中の消しゴム」(2004年韓国)といった佳作があったからだ。

さらに出演者のこともある。戸田恵梨香は、どんなドラマでも的確に役柄を表現できる力を持つ女優だが、「代表作は?」と聞かれたら、すぐに答えられない。また、ムロツヨシは個性派という呼び方がぴったりなクセの強い俳優だ。たとえば「勇者ヨシヒコ」シリーズ(テレビ東京系)のようなカルトドラマでの怪演は誰にもまねできない。「そんな2人で難病系恋愛ドラマ?」と心配したのだ。

しかし実際に始まってみると、まさに杞憂(きゆう)だった。ヒロインの北澤尚(戸田)は難病を抱えているが、それは単なる恋愛の背景ではない。生きること、愛することを突き詰めて描くための設定になっている。新人賞を取りながら筆を折っている作家、間宮真司(ムロ)は、尚にとってようやく出会った運命の人だ。しかし自身の病気を知ったことで、尚はうそをついてでも真司と別れようとする。

そんな彼女に真司が言う。自分には親も金も学歴も将来も、そして希望もなかった。「だから、尚が病気だなんて屁(へ)でもなんでもない」と。続けて「がんでも、エイズでも、アルツハイマーでも、心臓病でも(中略)中耳炎でも、ものもらいでも、水虫でも、俺は尚と一緒にいたい」。

それを聞いた尚の泣き笑いの表情が絶品だ。このシーンだけでも戸田恵梨香で正解だったことがわかる。しかもキスしようとする真司を押しとどめ、「今じゃない」。言われた真司も「(えっ?)ここ、キスするところじゃないの?」と笑わせる。そのタイミングとニュアンスはムロツヨシにしか表現できないものだ。

そんな2人の演技を支えているのは、ベテラン脚本家の大石静がセリフに込めた「言葉の力」である。真司は小説家、つまり言葉のプロだ。言葉が人を動かすことも、その怖さも知っている。生きるとは、愛するとは一体何なのか。見る側がさまざまな思いをめぐらすきっかけとなる得難い言葉を、このドラマの中で聞けそうだ。

(毎日新聞「週刊テレビ評」 2018.10.27)