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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

新聞の放送時評で書いた「あまちゃん」と「半沢直樹」

2013年08月07日 | 「北海道新聞」連載の放送時評

北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、ラジオで話をした「あまちゃん」と「半沢直樹」を取り上げています。


ドラマ「半沢直樹」
堺雅人の目ヂカラ抜群

先月27日(土)にHBCラジオ「大人のラジオ~土曜は朝からのりゆきです!」に出演した。この日、午後1時から3時半までの2時間半が「ラジオでテレビを斬る!」という特集だったのだ。タイトルは剣呑(けんのん)だが、テレビ批判を展開したわけではない。放送開始60周年を踏まえて、現在のテレビのあり方をリスナーと一緒に考えてみようという試みだ。

とはいえ、具体的な番組名も挙げながら明快に批評していく番組など、通常民放のテレビでは決して作れないし、流せない。ラジオという同じ放送メディアの持つ自由度と潜在能力を感じさせる好企画だった。

このラジオ番組の中で話題となったドラマが2本ある。1本はNHKの連続テレビ小説(以下、朝ドラ)「あまちゃん」。もう1本がTBS「半沢直樹」だ。

「あまちゃん」は先月から東京編に入ったが、物語としてのパワーが落ちないどころか、むしろ加速化している。これまでの朝ドラでも、主人公は必ず地方から東京へと出て行った。いや、むしろ地方は東京へ出るまでの助走や踏み台であり、上京してからが物語のメ―ンと考えられていた。

しかし、「あまちゃん」は違う。アキのアイドル修業と並行して、北三陸が常に登場する。東京にいるヒロインと北三陸に暮らす人たちが、まさに同時代を生きていることが実感できるのだ。このドラマが共感を呼ぶ理由はこんなところにもある。

次に「半沢直樹」だが、原作に元銀行員の作家・池井戸潤が書いた小説「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」を選んだことが決定的だ。主人公の半沢は大量採用の「バブル世代」である。企業内でも「楽をして禄をはむ」といった負のイメージで語られることの多い彼らにスポットを当てたストーリーが新鮮なのだ。

また、夫の地位や身分で自分の序列も決まる、社宅住まいの妻たちの苦労も見逃せない。男たちの企業ドラマでありながら、銀行という閉じられた空間だけの話にせず、周辺にいる人たちもきちんと描いている。

だが、このドラマで見るべきは、やはり主演の堺雅人だろう。今年6月、堺は「リーガル・ハイ」(フジテレビ)と「大奥」(TBS)の演技でギャラクシー賞テレビ部門の個人賞を受賞したが、まさに旬の俳優だ。シリアスとユーモアの絶妙なバランス、そして目ヂカラが群を抜いている。半沢の台詞「やられたら、倍返しだ!」は、「じぇじぇじぇ!」と同様、すでに流行語である。

(北海道新聞 2013.08.06)


・・・・4日に放送された「半沢直樹」第4話が、平均視聴率27.6%をマーク。

一度も数字を下げないまま30%の大台に乗せるか、という勢いだ。

雑誌でもあちこちで特集が組まれ、「あまちゃん」に続く社会現象化が見られます。

「水戸黄門」的というか、「遠山の金さん」的というか(笑)、この猛暑の夏に、何かスカッとするものを、みんな望んでいたのではないでしょうか。

民放では作れなった池井戸ドラマ「七つの会議」

2013年08月07日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

日刊ゲンダイに連載している「TV見るべきものは!!」。

今週の掲載分では、NHK土曜ドラマ「七つの会議」について書きました。


ドラマ「七つの会議」NHK
民放では作れなった池井戸作品

NHK土曜ドラマ「七つの会議」全4話が先週で完結した。舞台はある中堅電機メーカー。東山紀之演じる営業課長が企業ぐるみの不祥事隠蔽に巻き込まれていく。

問題となったのは強度不足の製品用ネジだ。乗り物の座席を固定するのに使われており、大事故を引き起こす危険性があった。しかしまともにリコールすれば、親会社や孫請けの零細企業も含めての大打撃だ。会社は一人の社員に不祥事の罪を着せようとするが・・・。

このドラマが描いたのは「組織のダイナミクス(力学)」の怖さだ。個人の批判的精神が抑え込まれ、価値判断は停止し、組織の目的に向けて自己を超越してしまうのだ。隠蔽工作について社長(長塚京三)が言う。「過ちではない。決断だ」。

ドラマを見ていて、いくつもの現実の事件を思い出した。日本ハム牛肉偽装、三菱自動車リコール隠し、ミートホープ食肉偽装等々。その指揮をとった幹部や不正と知りつつ従っていた社員は、会社と自分のことは考えても、社会に目を向けてはいなかった。

原作は「半沢直樹」と同じ池井戸潤の小説だが、企業が抱える危うさをあぶり出したこのドラマ、スポンサーを必要とする民放では作れなかったかもしれない。東山や吉田鋼太郎などの好演と、「ハゲタカ」の堀切園健太郎ディレクターの手堅い演出にも拍手だ。

(日刊ゲンダイ 2013.08.06)