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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

コメントした、週刊ポスト「半沢直樹」特集記事

2013年08月04日 | メディアでのコメント・論評

小学館のサイト「NEWS ポストセブン」に、先日コメントした、ドラマ「半沢直樹」に関する週刊ポストの特集がアップされました。

すでに、このブログで一部紹介しましたが、記事の全体像という意味で、転載しておきます。


『半沢直樹』成功要因に
福澤諭吉・玄孫の大胆かつ繊細演出も

作家・池井戸潤氏原作のTBS系連続ドラマ『半沢直樹』が好調だ。視聴率は初回の19.4%から第2話では21.8%へとアップ。このドラマの演出を手掛け、その魅力を最大限に引き出した立役者は、奇しくも主人公の半沢直樹が卒業した慶應義塾の創立者、福澤諭吉の末裔であった。

本ドラマの演出を手がける福澤克雄氏は、幼稚舎から大学まで慶應に通ったというエリートで、小学5年からはラグビー一筋。高校時代には日本代表に選ばれ、大学では日本一に輝いた経験もある人物。

卒業後はいったん富士フイルムに入社したものの、映画監督になる夢に近づくためにTBSに再就職したという異色の経歴の持ち主だ。しかも、母校である慶應義塾の創立者・福澤諭吉の玄孫にあたるというから、その出自からして、ハンパではない。

TBS入社後は、『3年B組金八先生』(第5~7シリーズ)やキムタク主演の『GOOD LICK!!』『MR.BRAIN』など数々のヒットドラマを手がけ、今や「日本で最も視聴率が取れるディレクター」とも称される福澤氏。そんな彼が今回手掛けるのは、出世争いや身勝手な企業の論理に振り回されるメガバンク行員の奮闘を描く企業ドラマだ。

上智大学教授(メディア論)の碓井広義氏はその演出力に舌を巻く。

「ともすると複雑な話になりがちなテーマなのに、非常にわかりやすくできているのがこのドラマの見どころです。銀行の内部をリアルに描きつつ、同時に自然な形で銀行の業務や金融業界全体が見えるようにしている。まるで池上彰さんの絵解きのごとく、視聴者を飽きさせない工夫が施されていると思います」


同番組プロデューサーの伊與田英徳氏は、福澤氏の手腕についてこう評する。

「福澤の演出はストレートで、それが突進力になっている。例えば、第1話の冒頭のシーンは、半沢の顔のアップからズームアウトする長いワンカット。普通はなかなかできない思い切った演出です。

でも彼は“これから半沢直樹という人間の生きざまを描くんだ”という信念、覚悟でやった。今はいろいろな画をパパパッと撮っていくのが主流だったりするのですが、あえてこういうやり方で勝負するのが福澤らしさです」

一方で伊與田氏は、福澤演出がもつ“繊細さ”も見逃せないと話す。

「例えば銀行員のエキストラを選んだ時も、全員、耳が出ている髪型の人に来てもらっていた。よく見ると、画面の奥のほうにいる人でも、ちゃんと耳が出ています。実際に銀行に行ってみたら、みんな耳が出ていたから驚きましたよ。よく見てますよね」

かつて、「男はドラマを見ない」「ドラマのターゲットは、F1(20~34歳の女性)層」が常識とされ、“企業モノは受けない”というジンクスまであったというドラマ界。そのなかにあって『半沢直樹』が大ヒットしているのは、こうした大胆かつ細やかな演出ゆえかもしれない。

前出・碓井氏が語る。

「福澤さんはこれまでにTBS日曜劇場の『南極大陸』や『華麗なる一族』なども手がけており、男のドラマの見せ方がうまい。それに加えて今回は、社宅住まいの妻たちの苦労も描き、企業ドラマでありながら、女性視聴者の共感も得られるような工夫が凝らされている。銀行という閉じられた空間だけの話にせず、周辺にいる人たちをきちんと描いている点も秀逸です」


(週刊ポスト 2013年8月9日号)

女性セブンで、「視聴者のドラマ志向」についてコメント

2013年08月04日 | メディアでのコメント・論評


発売中の「女性セブン」最新号。

名物連載「新われらの時代に」で、テレビ特集が組まれています。

タイトルは、
『「バラエティー」から「ドラマ」へ!志向はなぜ変わった?』



巻頭には、「私たちが再びドラマに心動かされている理由とは――」という文章が。




記事は70年代から現在までのドラマの流れを、バラエティとの関係なども絡めながら構成されている。

日本テレビ「Woman」プロデューサーの次屋尚さん、テレビ朝日「DOCTORS2 最強の名医」プロデューサーの三輪祐見子さん、中大教授の宇佐美毅さん、日大教授の中町綾子さんなどと並んで、取材を受けました。

例によって、記事全体は本誌をご覧いただくとして、以下は私のコメント部分です。


・・・・まずは、最近のドラマということで、NHK「あまちゃん」について。

元テレビプロデューサーで、上智大学文学部新聞学科教授の碓井広義さんが言う。

「毎回リアルタイムで見たうえに、録画して繰り返し見るなんて、久しぶりです。『あまちゃん』が世代を問わずに楽しめる理由のひとつに“トリプルヒロイン”にあります。もちろん主役はアキですが、その母親・春子(小泉今日子、47才)も、祖母・夏(宮本信子、68才)もいわゆる脇役ではない。3人が3つの世代のヒロインなんです。だから、老若男女が登場新部つの誰かに感情移入できて、家族みんなで見られるんです」

そう、確かに家族そろってテレビの前で始まるのを待つ。この感覚が幼い頃の一家団らんをも思い起こさせるのだ。



・・・・次は、00年代に入ってから、ドラマが元気を失っていったのはなぜか、という話だ。

第一の理由に、ドラマの制作費削減が挙げられる。

前出・碓井さんは、内情をこう説明する。

「バブルがはじけても、しばらくはテレビ局はそのあおりを受けずに済んだのですが、03年をピークに制作費の削減が始まりました。そして決定的だったのが08年のリーマンショックです。これでさらに削減が進みました」





・・・・そして、最近の視聴者のドラマ志向について。

前出・碓井さんは、ドラマ志向のきっかけは『あまちゃん』だと分析する。

「『あまちゃん』って、軽快なドラマに見えますが、きっちりアキの成長を描いているし、時には涙ホロリとさせる。脇役に至るまでしっかりとキャラクターが練られている。視聴者は、このドラマをきっかけに物語の面白さを再認識したのでしょう。というのも『あまちゃん』はかつての大ヒットッドラマが持っていた笑いと涙、主人公の成長・・・・すべてを兼ね備えていますから。物語の面白さとは、ワハハと笑うことではありません。人の気持ちの周波数が一致することです。『あまちゃん』でその心地よさと感動を覚えた。人々は、ドラマにより素直な自分の感情を重ね合わせたいと願い、7月クールのドラマを見始めたのではないでしょうか」

それはかつて、私たちがドラマに夢中になっていた頃に、確かにドラマが持っていたものだった。




(女性セブン 2013.08.15号)