<MediaNOW!>
「オンラインカジノ“人間操作”の正体」
事実集積3年、核心部分にメス
4月20日に放送されたNHKスペシャル「オンラインカジノ“人間操作”の正体」。視聴する前、タイトルの強い言葉が目を引いた。
オンラインカジノ(略称オンカジ)が重度のギャンブル依存症を引き起こすことは知られている。
とはいえ、人間操作と正体の文字が羊頭狗肉(ようとうくにく)にならないかと危惧したのだ。結果的には次々と明らかになる事実にクギ付けとなった。
取材班は海外の専門家と国際共同調査チームを結成する。参加したのはAI(人工知能)やデータの倫理問題を専門にする弁護士や、デジタル上の隠された痕跡を追跡する研究者ら。
オンカジの運営主体「オペレーター」がイギリスのギャンブル関連企業であることを突き止め、日本のギャンブル依存症当事者の個人情報の開示請求を行った。入手した資料にはオンカジへのアクセスの日時、賭け金や勝敗などが全て記録されていた。
このデータの流れを追って、発見したのは個人の情報を最大限に収集する「データ管理プラットフォーム」と呼ばれる組織だ。
集めた情報や行動履歴を分析し、利用者の動向を予測する「プロファイリング」が行われていた。ここまでだけでも、オンカジがギャンブルですらないことが分かる。
粘り強い取材は続き、欧州のオンカジ創始者の一人にたどり着く。顔や名前を出したことにも驚くが、その証言がすさまじい。オンカジは「依存症になるようにデザインされている」と明かしたのだ。
行動心理学者が開発に関わり、洗練されたアルゴリズムで利用者を引きずり込む。オンカジは「新しい麻薬」と言い切った。
さらにオンカジの生みの親とされる男性との接触にも成功する。シルエットで登場し、「この恐ろしいものを開発したのは私です」と告白した。
彼によれば、利用者の内実を把握するために端末から個人情報を盗み取る。個々の「仮想の人格」を作って未来の行動を予測。オンカジにのめり込むよう囲い込んでいくというのだ。
タイトルに偽りはなかった。オンカジによるギャンブル依存症は「仕組まれたもの」であり、利用者を奴隷にする「人間操作」だった。取材班は3年という歳月をかけてオンカジの闇を暴き、核心部分にメスを入れたのだ。
しかもスクープと言える内容にもかかわらず、番組は終始冷静だった。疑問があれば徹底的に探り、事実を淡々と積み上げていく。
そして何がどこまで明らかになったのかを見る側と共有しながら進んでいた。ドキュメンタリーの底力を示す出色の一本だった。
(毎日新聞 2025.04.26 夕刊)
<NHKプラスでの視聴>
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