「週刊新潮」に寄稿した書評です。
ゲリラ的な遊び心に満ちた企画は
ユルそうでひねりが効いた計算あり
菅原 正豊:著、戸部田 誠(てれびのスキマ):構成
『「深夜」の美学
「タモリ倶楽部「『アド街」演出家のモノづくりの流儀』
大和書房 1,980円
テレビ東京系『出没!アド街ック天国』がスタートしたのは1995年春のことだ。先月、30周年と放送1500回を記念する拡大スペシャル版も放送された。
開始当時から番組に携わってきたのが、制作会社ハウフルスを率いる演出家・菅原正豊だ。その名前を知る人は多くないかもしれない。
しかし、『アド街』をはじめ菅原が手掛けた番組を見たことがない人は少ないだろう。
『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)、『愛川欽也の探検レストラン』(同)、『平成名物TV いかすバンド天国』(TBS系)、『タモリのボキャブラ天国』(フジテレビ系)、『どっちの料理ショー』(日本テレビ系)などだ。
共通するのは、それまでになかった斬新な企画であること。ゲリラ的な遊び心に満ちていること。しかも番組全体がオシャレで上品さや知性も漂わせているのだ。
これらを生み出してきた菅原正豊とは一体何者で、演出術とはどんなものなのか。
菅原は言う。「本当のマニアックはテレビにはならない。(略)『王道』をいかに崩せるか」だと。全部がパロディから始まっており、「いかに脇道で面白いことをやるかっていうことばかり考えていた」。
基本は気分次第。「ほとんどその時々の自分の生理で考えている」から、確固たる演出論はない。従って「この本に書いてあることは、全部、後付けと言い訳です」と笑う。
だが、額面通りには受け取れない。ユルく作っているように見えて、相当な計算をしているのがスガワラ流だ。
演出はストレートではなく、ひねりを効かせる。「普通にカッコいいことをしたら、照れちゃう」からで、出演者にも「素敵に恥をかかせる」のがディレクターの腕だ。
さらに「“みんな”がつくった番組はおもしろくないですよ。テレビって、“誰か”がつくるものなんですよ」と明かす。番組は商品ではなく作品だという矜持だ。
(週刊新潮 2025年4月17日号)