『感性創房』kansei-souboh

《修活》は脱TVによる読書を中心に、音楽・映画・SPEECH等動画、ラジオ、囲碁を少々:花雅美秀理 2020.4.7

・『愛と青春の旅だち』-15/シドの死

2012年09月05日 01時31分00秒 | ◆映画を読み解く

 

 【30】 シドの死が意味するもの

 ……浜辺のモーテルにやってり来たザックとポーラ。「シド」と呼びかけながら、部屋の中を進み行くザック。予測されるとはいえ、ゆっくりと室内を映すカメラワークに、不気味なものを感じます。

 シドが「サニタリー・ルーム」を開けた瞬間、ザックより先に、私達観客の眼に入るシドの変わり果てた姿

 「全裸での自殺」というのは、「dying message」なのかも。ザックは、降ろした死体を抱きしめながら―、

 ――バカヤロ。俺はお前の友達だぞ。なぜ相談してくれなかった。ひどいよ。別れも言わずに。

 そう言って、再び強くシドを抱き締めるのです。やっと「友と呼べる存在」を獲得できたと思ったザックの、無念の気持ちが表われています。

       ☆

 ……石ころだらけの荒れた海岸に立ち、海を見つめるザック。

 “友の死”をうまく整理しえないザックの精神状態が、雑然とした石ころだらけの海岸に象徴されています。映像としての作り込みがよく効いているシーンです。何気ないようですが、「正しく映画を読み込む」ためにも、見落としてはいけません。

 ザックに寄り添うように背後から近付いて行くポーラ。海を見ながら、呟くようなザックの言葉―、

 ――なぜ2度も。ママの時の繰り返しだ。

 ――ザック、やめて。2人を殺したのはあなたじゃないのよ。自分を責めないで。

 そう言って慰めようとするポーラ。そのポーラを、ザックは冷たく振り切るように、タクシー代を渡して独り立ち去ろうとします。「シド探し」のため、わざわざポーラの自宅に押し掛けて呼び出したというのに、何とも身勝手なザックです。

 こういうところに、“他人を容易に受け入れないザックの自己疎外感”が顕れており、そこから導き出される“歪んだ性格”がよく出ています。これはやはり、父親譲りなのでしょうか。

 だがポーラは、ザックの言葉を強く否定しようとします。

 ――やめてよ。私だって(あなたと)同じ気持ちよ。私にも責任があるわ。リネットを止めなかったわ。

 ポーラは、リネットがシドに“罠を仕掛ける”のを止めなかった“責任”を言っているのです。問題は、“なぜ止めなかった”かということでしょう。 

 おそらく、自分(ポーラ)と同じように「簡単に捨てられないための、女の最後の防御策(=妊娠)」という気持ちが、ポーラにもあったのかもしれません。

 それに対してザックは、怒りを吐き出すようにポーラに向かって言います。

 ――君は何も悩むことはないだろ。じきに次の学期だ。新人を狙えよ。

 他の男に乗り換えろと言わんばかりです。「ポーラを一時的な遊びの対象」としか考えていない“ザックらしい言い回し”です。

 ――ひどいわ。私がどんな嘘をついた? 見損なわないで。……愛しているわ。初めて会った時から愛してるのよ。わかってるの?

 ポーラはそう言いながら、ザックの両頬に両手で触れるのです。しかし、その手を迷惑そうに払いながら、ザックは―、

 ――愛なんかいらない。もう誰もいらない。

      

 このセリフほど、この時点までのザックという人間を特徴づけた言葉はないでしょう。自分や母親を省みることのなかった父バイロン。自堕落な生活に溺れたその(父親)に絶望して、一人死へと旅立った。ザック(自分)にひとことも告げることなく、まるで置き去りにするかのような母親の自殺でした。

 その後、「娼館」での父親と娼婦二人との生活。そのような生活が、どれだけザックの“恋愛観”や“女性観”を歪めたことでしょう。おおよその察しはつくと思います。ことに、「女性を遊びの対象」としか考えないDNAは、完全に引き継がれたようです。

 

 【31】 ザックとフォーリー教官(軍曹)の決闘

  ……フォーリー教官(軍曹)とともに行進してくる同期生たち。そこへTBを乗りつけてやってくるザック。シドが自ら「DOR(自主退学)」を申し出たとはいえ、それを簡単に受け付けて処理したフォーリー教官に対する反感が、ザックにはあるようです。しかもそれが、結果として“死”を招いたわけですから。

 “挑発的な態度”でシドの死に対する哀しみと怒りをフォーリー教官にぶつけようとするザック。その言動は、“半ば自棄(やけ)になった不安定な心情”を露呈しています。とても上官に対するものとは思えない、無礼で乱暴なものです。

 ザックだからこそ、フォーリー教官もその態度を黙認したのでしょう。ザック以外の訓練生であれば、ただちにそれなりの処分を考えたかもしれません。

 フォーリー教官との個別面談を求め、激しく言い寄るザック。それを巧みにいなし、かわそうとするフォーリー教官。

 結果として、二人は「空手」で“決着?!”をつけることとなり、ザックはフォーリー教官に敗れるのですが。

 ではいったい、この“決闘”は、どのような意味を持っているのでしょうか。そしてそれ以前に、最後の最後の段階で「DOR」をしようとしたザックの真意はなんだったのでしょうか。

 あのフォーリー教官とのマンツーマンによる「しごき」を想い出してください。もうそれは「虐(いじ)め」と言ってよいほどのものでした。そうであっても、絶対に「DOR」の申告をしませんでしたね。その彼が、なぜ簡単にDORをするなどと言ったのでしょうか。

 最後の最後に来て、何とも謎めいた展開となったものです。はてさて……。(続く

       ★   ★   ★

 ※次回が、本シリーズの「最終回」です。 

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ・『愛と青春の旅だち』-1... | トップ | ・『愛と青春の旅だち』-1... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

◆映画を読み解く」カテゴリの最新記事