【28】クライマックスへの展開
(A)……「トライアンフ・ボンネビル」に乗って、ポーラの家へやってくるザック。表に居たポーラの母親にポーラを呼び出してもらう。
DOR(自主退学)したシドが行方不明となり、心配していることをポーラに告げるザック。その言葉に、意を決したような表情のポーラ。二人はシドが泊まっている思われる海沿いの「モーテル」へと向かう。
(B)……シドが、「モーテル」でチェックインの手続きをしている。記帳し終えた後、シドはフロントマンの眼の前で、リネットから突き返された「婚約指輪」を腹中に呑み込んで見せ、自嘲気味に笑う。
(C)……リネットの家。苛立った様子で流し台の前に立って居るリネット。流し台の前の窓から、「トライアンフ・ボンネビル」に二人乗りしたザックとポーラがやって来る姿が見える。
言うまでもなく、リネットは今しがたシドのプロポーズを断ったばかりです。ザックとポーラの姿を窓越しに確認したあと、リネットは食卓テーブルの椅子に座って、タバコに火をつけます。
二人を待ち受ける彼女の表情には“きつい”ものが感じられます。TBに乗ったザックとポーラの姿が、道路側に面したいくつもの窓から見えています。
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以上の(A)(B)(C)は、この映画の中でもっともテンポが速いシーンの連続です。もうお判りのように、「この3シーン」は、時間的には「同時進行」しているのです。
すなわち、(A)シドを探しているザックとポーラ。その親友ザックにも告げずに、(B)の宿泊申し込みをしているシド。「指輪」を呑み込んだということは、それなりの覚悟の行為でしょう。この間にも、ザックとポーラはシドを探しているのです。
ザックは、自分に何も告げずに去って行ったシドを思うとき、居たたまれないのでしょう。ザックの脳裏には、「リネットの妊娠(?)」のことで、シドにきつい言い方をした基地食堂での光景が甦っているのかもしれません。
【29】ザックとポーラとリネットと
ザックとポーラが、リネットの家に到着します。ザックがリネットに尋ねます。
――シドは?
――帰ったわ。信じられる? 12週でDOR(自主退学)……。考えられない。
――リネット。赤ん坊の話は?
――間違いだったの。今日判ったのよ(つまりは妊娠していないことが判明したという意味)。馬鹿な男。まだ私と結婚する気なのよ。
――それで?
――もちろん断ったわ。あんなオクラホマの田舎者と誰が結婚など。
――ひどい女だ。人の心をもてあそんで。彼は愛してた。それがどうだ。妊娠の話もデッチあげだろ。
――ウソじゃないわ。そんなウソをつくと思うの?
と言ってポーラに同意を求めるリネット。
だがポーラは、そんなリネットの視線を外して黙っています。
――何て女だ。
そう言い残してリネットから去って行くザック。彼の後を追うように出て行こうとするポーラも言います。
――ひどいわ。
――あんた(ポーラ)だって同じよ。
――違うわ。
そう、きっぱりと言い返すポーラ。
――同じよ。
とむきになって言い放つリネット。
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以上(A)(B)(C)における4人の「交接」は、物語の展開からみて最大のクライマックスといえるでしょう。と同時に、「物語」が大きな転換を見せる前兆でもあるのです。
思えば、「ザック」と「シド」、そして「ポーラ」と「リネット」という4人の若い男女が初めて出会った空軍基地。その後の基地内での「週末パーティー」。そこでの4人の正式な「出会い」とその夜の「初デート」。そして、男女として結ばれたシドとリネット……。青年たちの恋は、ここから始まったのでした。
想い出してください。「基地内での初めてのパーティ」を。あのとき、シドが眼の前のポーラではなく、斜め前に立っているリネットの手を取ってダンスに誘ったときのことを(※本シリーズ6回:「【10】基地内パーティと初デート」を参照ください)。
この瞬間、「シド」と「リネット」という男女二人の「組合せ」が、そして同時に、「ザック」と「ポーラ」という二人の「組合せ」も、自動的に決定したのです。
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さて、(B)においてシドが“婚約指輪を飲み込んだ行為”は、大変重要な意味を持っています。『これまでのリネットとの関わりを完全に消し去りたいとする気持の表れ』とみる意見もあります。確かにそういうニュアンスがあるのかもしれません。
しかし、筆者にはその逆のような気がします。つまり、シドは『リネットを消し去ろうとした』のではなく、その反対に『全身全霊でリネットを受け止め、その証として体内に婚約指輪という痕跡を残そうとしていた』のではないでしょうか。
つまりは、それだけ真剣にリネットを愛していたということでしょう。かといって、その“愛”が崩れたというだけで、シドが“死”を選んだと決め付けるのは早計でしょう。事はそう単純ではなさそうです。
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オクラホマの田舎の青年。祖父も父も、そして兄も軍人という一家で生まれ育った純朴な士官候補生であったシド。否応無く軍人になることを期待されていたのです。
その上、兄の恋人だった女性との結婚を両親に望まれているシド。スーザンというその女性は、教会で身障者の奉仕活動をしています。
妊娠を「罠」に、「パイロット」との結婚にこだわろうとするリネットとは、何と大きな違いでしょうか。
それでもシドは決断したのです。「パイロット」の道を捨て、リネットとの結婚を機に以前のデパート勤務に戻ろうと。そしてしばらくの間は、経済的な理由により両親との同居まで考慮していたシド。
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一方、恋の手管に長け、パイロットとの結婚に憧れ続けていたリネット。妊娠という“罠”を使うことなど何の痛痒も感じない女性です。
その二人がうまくいくことなど、初めから無理があったのかもしれません。(続く)