『感性創房』kansei-souboh

《修活》は脱TVによる読書を中心に、音楽・映画・SPEECH等動画、ラジオ、囲碁を少々:花雅美秀理 2020.4.7

◆本格的殺戮の序章/『シンドラーのリスト』:No.6

2015年02月12日 00時51分59秒 | ◆映画を読み解く

 

  “ゲットー解体”=本格的殺戮の始まり

20.クラクフ・ゲットーの惨劇

   前回の「ベストシーン」の直後、「アーモン・ゲート少尉」が「親衛隊」の隊員を前に「演説」をしています。その “趣旨” は、「ユダヤ人」が、1300年代に無一文でクラクフへやって来たこと。商業をはじめ教育・学問・芸術等の分野で成功し、以来6世紀にわたってこのクラクフで栄えたこと。しかし、その歴史は “今日、消滅する” というもの。

   「クラクフ・ゲットー」が見える丘を、「オスカー・シンドラー」と「愛人」(※註1)が馬で駈けています。わずか数秒のこの「カット」(登場場面)は、これから始まる “クラクフ・ゲットー解体” の「目撃者」としての二人を示唆するかのようです。と同時に私たち「観客」に対しては、“覚悟して歴史の真実を直視するように” と促しているのかもしれません。

     ☆

211943年3月13日、「クラクフ・ゲットー解体される。

   “ゲットーの解体” とは、基本的には「ユダヤ人隔離居住区」を “廃止” するもの。それは「ユダヤ人」が、各種(強制労働、ガス室送り等)の「収容所」へ送られること、すなわち“完全に自由を奪われたり、死に追いやられたり”することを意味しています。

   “ユダヤ人に対する本格的な殺戮” の “序章” といえるでしょう。それにしても、銃を手にした「親衛隊」隊員の、憎しみや蔑視に満ちた激しい “怒号” は凄いですね。子供や女性をはじめ、お年寄や気が弱い人々は、この “怒号” だけで “まいってしまう” でしょう。乱暴に追い立てられて行く様子が、いっそう “ドキュメンタリー・タッチ” で描かれています。

   この場面を観る辛さは、拳銃や自動小銃等による “眼を覆いたくなるようなシーン” が連続していることでしょう。隊員兵士が戸口で男の名前を読み上げ、出て来たところを連れ出し、“有無を言わさず” 頭を撃ち抜くシーン。労働力とはならない病院患者に、自動小銃を乱射する隊員兵士。そこで、射殺されるのであれば、せめてその前に「劇薬」の投与をと、慌ただしく準備を始める医師たち……。

   「ゲットー」に入る際には認められた「トランク一つ持つことも許されず、文字通り “着の身着のまま” の状態で追い立てられたのです。そのため、ある一家は “パンに宝石類を埋め込み”、それを家族みんなで口の中に入れようとしています。何かあったときの “換金” や “袖の下” に使うためでしょうか。

   とにかく「ゲットー」内の「通路」や「道路」に夥しい数の「トランク」や、点々と散らばる衣類・小物、それに「射殺された遺体」が散乱しています。

   まず3月13日、健康な労働者用(他に「公務員」など)の「ゲットーA」が解体され、その「住民(もちろん、ユダヤ人)」は、後に「アーモン・ゲート」所長の「プワシュフ強制労働収容所」へ移送されます。

   翌3月14日には「ゲットーB」が解体されるわけですが、ここは本来、「高齢者」や「病弱な人々」の居住区でした。そのため “労働不能” とみなされた千人が銃殺等によりその場で殺害され、四千人が「プワシュフ収容所」へ、二千人が「アウシュヴィッツビルケナウ強制収容所」へと移送されたようです。

   しかし、「ユダヤ人評議会」や「ユダヤ人ゲットー警察」の「ユダヤ人」とその家族だけは、しばらくの期間ここに留まることを許されました。

       ☆

22.ボルデクとミラ夫妻、少女ダンカ

  「闇物資の調達人」である「レオポルド・ぺファーベルグ」――。通称「ポルデク」は、シンドラーが発注するさまざまな「品物」を手配した人物です。その「品物」は「軍需物質」の納入先であるドイツ軍将校や高官への「贈り物」、つまりは“賄賂”でした。

   その彼は、妻の「ミラ・ペファーベルク」と一緒に地下の下水道へ逃げ込もうと考えました。しかし、彼女がそれを嫌ったために一人で下水道へ降り、危うく射殺されかけます。慌てて地上に戻ったものの、運悪く「アーモン・ゲート少尉」の一団と出くわすのです。彼はとっさに、「散乱したトランク」の片づけを命じられたと言って切り抜けます。

   また「ドレスナ―母娘」が床下に隠れようとしていました。しかし、スペースの問題で娘(眼鏡の少女)の「ダンカ」だけを匿ってもらいます。後に二人は再会するわけですが、そのとき、自ら命の危険を顧みずに二人を助けようとした「アダム少年」(ドレスナ―の息子と同級生)の手引きによって、「プワシュフ収容所」への選別では “有利な列” に並ぶことができたようです。

   本来、素直に “列に並ばなければいけない” 母娘でしたが、何とか “隠れ通そう” としていました。もし見つかっていてば、その場で “射殺” されていたでしょう。そうでなくとも、「アウシュビッツ絶滅収容所」行きとなっていたかもしれないのです。「プワシュフ強制労働収容所」行きですんだのは幸運でした。

   というのも、ゲットー内に隠れ潜む「ユダヤ人」の「掃討作戦」は凄まじいものがありました。どんな物音でも察知しようとする執拗な捜査が行われていました。夜間、建物内に自動小銃の掃射音と悲鳴が響き、希望を打ち砕く銃弾の閃光が、不気味に光っていました。 

 

 「赤い服の幼女」の意味は

23.赤い服の幼女

   しかし、この「映画」の “ゲットー解体” における最大のシーンは、言うまでもなく「赤い服の幼い女の子」(※註2)の登場です。「少女」と言うより「幼女」と言うべきでしょう。「画面」では、彼女が着ている「服の部分」だけが「ピンク系統の赤」になっています。“淡い”……というより“ややくすんだ”感じの色合いかもしれません。 

   少し乱れたその「金髪」……と言っても「モノクロ」のために正確な色合いは判りませんが、見たかぎりの “色合い” から「金髪」のような気がします。

   この「映画」が進むと判りますが(※註3)、後にこの「赤い服の幼女」は“焼却される死体”となって二輪車で運ばれて来ます。シンドラーは “その場面を眼に焼き付ける” ことになるわけですが……。

  問題」は、《 なぜ赤い服の幼女を登場させたのか 》ということ。別の言い方をすれば、“この赤い服を着た幼女によって、観客に何を訴えようとしたのか” と言うことでしょう。

   次回は、この「映画」の“最大のカラー映像効果”ともいえる「赤い服の幼女」の “登場シーン” を振り返りながら、その “哲学性と芸術性” に触れてみたいと思います。(続く)

       ★   ★   ★

  ※註1 ドイツ人の「イングリート」

 ※註2 この「赤い服の幼女」を演じた少女の当時の年齢は「3歳」だったようです。

  ※註3 映画の「DVD」では、「ディスク:2」の冒頭からすぐのシーンに出て来ます。

 

 


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