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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

誰が音楽をタダにした?

2022-05-01 18:36:48 | 読んだ本

スティーヴン・ウィット/関美和訳 二〇一八年 ハヤカワ・ノンフィクション文庫版
副題は「巨大産業をぶっ潰した男たち」。
原題「HOW MUSIC GOT FREE The End of an Industry,the Turn of the Century,and the Patient Zero of Piracy」は2015年の出版、著者はアメリカのジャーナリスト。
これ、なんで読もうと思ったんだっけ、誰かの書評を見てでにちがいないんだけど、何に書いてあったか思い出せない、とにかく最近になって中古の文庫買って、わりとすぐ読んだ。
話は、2007年の終わりまでにCDの売り上げはピークだった2000年から半減した、それはみんなネットからダウンロードするようになったからなんだけど、そりゃどういうわけだったんでしょう、ということの解説なんだが、なかなかおもしろい。
ひとつは、mp3の開発者の話。
「6人のドイツ人オタク」と称されるけど、カールハインツ・ブランデンブルクを中心とするチームが音をコンピュータで送れるファイルにするmp3をつくった。
けど当初は規格として採用されず、あまり評判にはならなかった、最終的には大儲けにつながるんだけど、研究者たちはビジネスってものがあまり得意ぢゃなかったみたいらしい。
私はデジタル技術についてはよく知らんけど、この開発の話はおもしろい、単純に信号にするだけぢゃないんだって。
簡単に送れるようにするために、ファイルを小さく圧縮したいんだが、人間の耳には聞こえやすい音と聞こえない音があるんで、聞こえない部類の情報にはビット配分を少なくするっていうんだけど、音響心理学って人間の認知の研究から始まってるんだとは知らなんだ。
ちなみに、初期のころ、そんなんで音楽聴けるなんて音楽業界のひとは思ってなかったらしく、
>スタジオの人間にとって、音は「トーン」や「温かみ」といった美的感覚で語られるものだった。研究者にとって、音はこの宇宙の物理的な特性で、空気の振動を数字で表したものだった。音響研究者とレコードプロデューサーでは、議論がまったくかみ合わなかった。(p.123)
という意見のちがいがあって、採用されなかった。
ふたりめの主要人物は、音楽業界の大物、ユニバーサルの経営トップのダグ・モリス。
このひとは、誰のどの曲がヒットするかなんかわからないと自分で認めつつも、どっかの地域でヒットの兆しあるやつを採りあげれば必ず世界的ヒットになるって経験則で、売り上げを伸ばした。
>ついこの間までだれかの台所で歌をふき込んでいたような、ほとんど無名の泥臭いラッパーに、そこまでの大金を払う音楽エグゼクティブはほかにいなかった。(p.111)
っていうんだけど、そういうチャンスを逃がさないひとだ。
でも、音楽業界も悪いんだ、CDの生産コストとかは下がってきたんだけど、製品の値下げはしない、
>強気の価格は談合によって支えられていた。およそ6年にわたって大手6社(略)が、裏で糸を引いてミュージックランドやタワーレコードといった小売チェーンに安売りを禁じる代わりに広告資金を与えていたことが、のちに連邦取引委員会の調査で明らかになった。(p.150)
ってやりかたをしてた、1995年から2000年にかけての話だ。
ところが、1999年に18歳の少年がナップスターってソフトを開発したのをきっかけに、それまで専門的知識のあるひとに限られていた違法音楽ファイルが多くの人に広がるようになった。
全米レコード協会(RIAA)は著作権侵害だと法廷でたたかうことにした、ひとつは対ナップスターで、もうひとつは機器メーカーのダイヤモンド・マルチメディア相手の訴訟で、携帯型mp3プレーヤーの販売をやめさせようとした。
ナップスターには勝って、そのサーバーは閉鎖することができたけど、ダイヤモンドには負けたんでmp3プレーヤーの販売流通は残った。
>こうして業界激変の幕が切っておろされた。これをきっかけに、CDは永遠に葬られ、ニッチなIT企業が世界最大の企業へと生まれ変わることになる。
>音楽業界は、闘う相手を間違えていた。(p.165)
ということになるんだが、ちなみにmp3の開発者は、
>デジタル著作権について、彼はだれよりも保守的な意見を持っていた。ブランデンブルクにとってファイルシェア革命は集団的な窃盗で、それ以上のなにものでもなかった。自分は不正コピーなんて絶対にしないし、アーティストの創作活動に報いるのが務めだと思っていた。(p.171)
という意見なんだけど、世間一般はね、タダで手に入るんだったら、そりゃ高いカネ出して買おうとは思わんわな。
で、ぢゃあ、どっから海賊版ってのは出てくるのよ、って話の主役がデル・グローバーという黒人の労働者、1995年にノースカロライナ州のCD工場に就職したときは21歳。
このひとは子供のころから機械いじりが好きで、やがてパソコンも使うようになり、こづかい稼ぎにCDをコピーして知り合いに売ったりするようになる、CD工場での仕事はパッケージ詰めとかの単純作業だけど。
そのうちネットでのチャットなんかに深入りしていき、mp3の音楽ファイルの良さに気づいて、やがて違法アップロードしているグループと知り合いになる。
これがけっこう大がかりな組織なんだけど、お互い顔も本名も知らなかったりする、でもネットでのやりとりは緊密。
かくして、警戒厳重なCD工場での勤務のなかで、発売前のCDアルバムを盗み出して、海賊グループに渡してリークするっていう重要な役目を担ってくことになる、このひとをめぐる話が、やっぱ犯罪だから、スリリングでいちばんおもしろいかも。
ただ、残念なのは、登場してくるミュージシャン、特に中心を占めるラップ関係については、人名も曲名も私は全然わかんないんで、なにがどんだけスゲエことなのか、ピンとこないってことなんだよね。
第一、いまでも私はパソコンで音楽聴かないし。携帯型プレーヤーは前世紀末ごろのMDを最後に使ってないし。


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