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ジャン・アレチボルトの冒険

ジャンルを問わず、思いついたことを、書いてみます。

迎撃にまつわる憂鬱な事情

2009-04-04 02:51:01 | 政治
北朝鮮が、自称「人工衛星」を、日本上空に向けて、打ち上げようとしている。

日本政府は、このロケットが日本に落下する場合、迎撃システムで撃ち落とすと、繰り返し表明している。

しかし、迎撃ミサイルが実際に発射される可能性は、低いと思う。

理由は二つである。

一つは、技術的理由から。

かつて湾岸戦争のとき、サウジアラビアの首都リヤドに飛来したイラクのスカッドミサイルを、米軍のパトリオットが撃ち落とした映像は、衝撃的だった。

しかし、この場合、スカッドが、リヤドを狙っているのは、はっきりしていた。だからこそ、リヤド近郊に、パトリオット部隊は展開していたし、弾道もまだ予測しやすかったはずだ。

一方、どこに向かっているのか、はっきりしない北朝鮮の高速ロケットに、迎撃ミサイルをぶつけるのは、大変に難しいだろう。

アメリカは、高速で飛ぶミサイルに対する迎撃実験の成功を強調するが、それは、撃ち落とす側が、何処から、何時、どの方向に、どのようなスピードで、目標物が発射されるのか、あらかじめ分かっている場合に限る。

しかも、それが分かっていても、決して百発百中とはいかない。風の影響を読むのも難しいし、飛翔体はとても小さい。少しの誤差でも、失敗につながるからである。

もちろん、北朝鮮の打ち上げるロケットである。彼らが情報を与えてくれるわけがない。

さらに、日本に落ちてくるのは、ロケットの空中分解など、不測の事態が起こった場合で、その軌道を読むのは、絶望的に難しい。

そして、もし、イージス艦やPAC3の展開場所から、かなり離れたところに落ちた場合は、命中精度は一層小さくなる。射程圏外であれば、何も出来ない。

また、迎撃ミサイルを発射して、目標に当たらなかったとき、その後のミサイルのゆくえも、大変に心配である。

上手く自爆してくれれば良いが、一発でもそのまま飛び続けることになれば、そちらの方が、脅威になってしまう。

二つめは、政治的理由である。

迎撃ミサイルを発射して、当たらなかった場合、莫大な税金をつぎ込んで購入した、このシステムは、実は、全くの役立たずではないかという批判が、国民から出るのは当然である。

実際、アメリカの民主党は、ブッシュ大統領の時代に、共和党政権が進める迎撃システムの実効性に疑問を投げかけ、税金の無駄遣いであると批判し続けていた。

確かに、発射された大陸間弾道ミサイルを、自国から遠い場所で撃墜するのは、技術的に極めて難しい。

また、標的となっている都市の上空で破壊しても、核弾頭や化学兵器を搭載している場合は、甚大な被害が発生することに、変わりがない。

民主党が批判するのも、無理からぬことである。

イージス艦にしても、PAC3にしても、目をむくような額の税金がつぎ込まれている。

迎撃失敗の場合、未曾有の不況の真っ只中、使いものにならない軍事的おもちゃに、湯水のごとくお金を注ぎ込む余裕などない、という声が、日本でも強くなるのは目に見えている。

そして、それは、迎撃システムを購入した防衛省と、開発して売却したアメリカ政府が、もっとも怖れる批判である。

もともと技術的に失敗する確率の高い迎撃を、それだけの政治的危険を冒してまで、日米両政府が実行するとは思えない。

事実、北朝鮮がロケット発射を強行することが明確になって以降、防衛省やペンタゴンの発言は、当初と比べて、明らかにトーンダウンしている。

北が断念しないのであれば、脅しをかけても無意味ということなのかもしれない。

イージス艦の出港シーンやPAC3配備の様子をマスコミに流して、政府は国民の安全のために、最善を尽くしていますよ、とアピールする道具として使う。

出来れば、その辺で止めておきたい、実際に迎撃して、システムの実効性を試験されたくはない、そういう気持ちがあるのではないか。

技術的に迎撃出来ないのに、「迎撃出来ない」とは言えない政府。

北朝鮮の「人工衛星」で明るみに出た、日本の憂鬱な事情である。

結局、軍事ミサイルが、明らかに日本の都市を標的にして飛んでくるような、究極の場面でない限り、この迎撃システムは稼働させないのではないだろうか。

ところで、一つ疑問がある。

北朝鮮が、今回と違って、まったく予告なく、秘密の基地から、いきなりロケットを発射した場合、それが日本を標的にした軍事ミサイルであるかどうか、どのくらいの時間で、判別できるだろうか?

発射後、日本までの到達時間は、たったの7分だそうだ。

この時間では、判別はおろか、発射確認すら、出来ないかもしれない。

呆然とする話である。

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